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「エリカ、危ない!」

 ダンケルトの声で振り向くと、三馬鹿トリオが木剣を振り上げて襲いかかろうとしていた。
 だらんと下げていた木剣を握り直すと、ふっとかがんで攻撃をかいくぐり、左端のジョハンの膝をなぎ払う。
 彼は隣のガナルにぶつかり、そのせいでバランスを崩したガナルのみぞおちを突く。残るノエルの腕を打ちすえるとポロリと剣を落とした。
 その間、数十秒。
 圧勝して、それぞれの箇所を押さえてうずくまるバカどもをフフンと鼻で笑う。

「それでも騎士なの? だらしないわね」

 私たちは王立騎士団員だ。
 朝練が終わって、個人的に鍛錬した後、部屋に戻ろうとしたところだった。

「お前ら、本当にバカだな。私闘は禁じられてるだろう? しかも、女相手に三人がかりで、卑怯な上に勝てないとはね」

 駆け寄ってきたダンケルトが冷たい眼差しで彼らを睨めつける。
 
「私闘じゃない! 訓練してやっただけだ」
「あんたたちじゃ訓練にならないんだけど?」

 そう言い放って、まだわめいている奴らに背を向けた。

「この件は上官に報告するぞ」
「なんだよ。黒の貴公子様は正義ヅラか?」
「当然の対応だ」

 ダンケルトとバカどもの会話が後ろから聞こえるけど、私は気にもせず、訓練場を出た。
 廊下には黒の貴公子様を出待ちしている令嬢たちがうろうろしている。
 どの子も綺麗なドレスに身を包み、キラキラしてかわいらしい。ふわふわとやわらかな雰囲気の彼女たちは、赤髪を後ろで引っ詰め、背が高くてごつい私とは全然違う。

 彼女らの目が急に輝いた。

「きゃ~、出てこられたわ!」
「今日もかっこいい!」

 急に姦しくなった中を歩いていると、横にダンケルトが並んだ。
 歓声を浴びるだけあって、この男は私も見上げる高身長に、ほどよく筋肉のついたスラリとした身体、精悍な顔つきで、黒髪黒瞳であることから、黒の貴公子と呼ばれている。
 
(貴公子というにはぶっきらぼうだけどね)

 そう呼ばれるたびに顔をしかめるダンケルトを思って、薄く笑う。

「お前、あまり一人になるなよ」

 いきなり言われて、ムッとする。

「なんでよ?」
「あいつら、いち早く昇進したお前を逆恨みしてるんだ。実力もないのにな。今みたいになにをしてくるかわからないぞ?」
「そしたら、叩きのめすだけよ」
「油断しないほうがいい」
「いつ私が油断したって言うのよ? 余計なお世話よ」 
「かわいくねーな」

 私はツンと横を向いた。
 
(そんなの、わかってるわよ!)

 好きな人が心配してくれてるのを素直に受け取れない私が可愛げがないなんて、自分が一番知ってる。
 でも、この図体のデカい目つきの悪い女が『うれしい!』ってしなを作っても気持ち悪いだけよね。
 自分で思って、ひそかに落ち込んだ。
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