1 / 8
1
しおりを挟む
「エリカ、危ない!」
ダンケルトの声で振り向くと、三馬鹿トリオが木剣を振り上げて襲いかかろうとしていた。
だらんと下げていた木剣を握り直すと、ふっとかがんで攻撃をかいくぐり、左端のジョハンの膝をなぎ払う。
彼は隣のガナルにぶつかり、そのせいでバランスを崩したガナルのみぞおちを突く。残るノエルの腕を打ちすえるとポロリと剣を落とした。
その間、数十秒。
圧勝して、それぞれの箇所を押さえてうずくまるバカどもをフフンと鼻で笑う。
「それでも騎士なの? だらしないわね」
私たちは王立騎士団員だ。
朝練が終わって、個人的に鍛錬した後、部屋に戻ろうとしたところだった。
「お前ら、本当にバカだな。私闘は禁じられてるだろう? しかも、女相手に三人がかりで、卑怯な上に勝てないとはね」
駆け寄ってきたダンケルトが冷たい眼差しで彼らを睨めつける。
「私闘じゃない! 訓練してやっただけだ」
「あんたたちじゃ訓練にならないんだけど?」
そう言い放って、まだわめいている奴らに背を向けた。
「この件は上官に報告するぞ」
「なんだよ。黒の貴公子様は正義ヅラか?」
「当然の対応だ」
ダンケルトとバカどもの会話が後ろから聞こえるけど、私は気にもせず、訓練場を出た。
廊下には黒の貴公子様を出待ちしている令嬢たちがうろうろしている。
どの子も綺麗なドレスに身を包み、キラキラしてかわいらしい。ふわふわとやわらかな雰囲気の彼女たちは、赤髪を後ろで引っ詰め、背が高くてごつい私とは全然違う。
彼女らの目が急に輝いた。
「きゃ~、出てこられたわ!」
「今日もかっこいい!」
急に姦しくなった中を歩いていると、横にダンケルトが並んだ。
歓声を浴びるだけあって、この男は私も見上げる高身長に、ほどよく筋肉のついたスラリとした身体、精悍な顔つきで、黒髪黒瞳であることから、黒の貴公子と呼ばれている。
(貴公子というにはぶっきらぼうだけどね)
そう呼ばれるたびに顔をしかめるダンケルトを思って、薄く笑う。
「お前、あまり一人になるなよ」
いきなり言われて、ムッとする。
「なんでよ?」
「あいつら、いち早く昇進したお前を逆恨みしてるんだ。実力もないのにな。今みたいになにをしてくるかわからないぞ?」
「そしたら、叩きのめすだけよ」
「油断しないほうがいい」
「いつ私が油断したって言うのよ? 余計なお世話よ」
「かわいくねーな」
私はツンと横を向いた。
(そんなの、わかってるわよ!)
好きな人が心配してくれてるのを素直に受け取れない私が可愛げがないなんて、自分が一番知ってる。
でも、この図体のデカい目つきの悪い女が『うれしい!』ってしなを作っても気持ち悪いだけよね。
自分で思って、ひそかに落ち込んだ。
ダンケルトの声で振り向くと、三馬鹿トリオが木剣を振り上げて襲いかかろうとしていた。
だらんと下げていた木剣を握り直すと、ふっとかがんで攻撃をかいくぐり、左端のジョハンの膝をなぎ払う。
彼は隣のガナルにぶつかり、そのせいでバランスを崩したガナルのみぞおちを突く。残るノエルの腕を打ちすえるとポロリと剣を落とした。
その間、数十秒。
圧勝して、それぞれの箇所を押さえてうずくまるバカどもをフフンと鼻で笑う。
「それでも騎士なの? だらしないわね」
私たちは王立騎士団員だ。
朝練が終わって、個人的に鍛錬した後、部屋に戻ろうとしたところだった。
「お前ら、本当にバカだな。私闘は禁じられてるだろう? しかも、女相手に三人がかりで、卑怯な上に勝てないとはね」
駆け寄ってきたダンケルトが冷たい眼差しで彼らを睨めつける。
「私闘じゃない! 訓練してやっただけだ」
「あんたたちじゃ訓練にならないんだけど?」
そう言い放って、まだわめいている奴らに背を向けた。
「この件は上官に報告するぞ」
「なんだよ。黒の貴公子様は正義ヅラか?」
「当然の対応だ」
ダンケルトとバカどもの会話が後ろから聞こえるけど、私は気にもせず、訓練場を出た。
廊下には黒の貴公子様を出待ちしている令嬢たちがうろうろしている。
どの子も綺麗なドレスに身を包み、キラキラしてかわいらしい。ふわふわとやわらかな雰囲気の彼女たちは、赤髪を後ろで引っ詰め、背が高くてごつい私とは全然違う。
彼女らの目が急に輝いた。
「きゃ~、出てこられたわ!」
「今日もかっこいい!」
急に姦しくなった中を歩いていると、横にダンケルトが並んだ。
歓声を浴びるだけあって、この男は私も見上げる高身長に、ほどよく筋肉のついたスラリとした身体、精悍な顔つきで、黒髪黒瞳であることから、黒の貴公子と呼ばれている。
(貴公子というにはぶっきらぼうだけどね)
そう呼ばれるたびに顔をしかめるダンケルトを思って、薄く笑う。
「お前、あまり一人になるなよ」
いきなり言われて、ムッとする。
「なんでよ?」
「あいつら、いち早く昇進したお前を逆恨みしてるんだ。実力もないのにな。今みたいになにをしてくるかわからないぞ?」
「そしたら、叩きのめすだけよ」
「油断しないほうがいい」
「いつ私が油断したって言うのよ? 余計なお世話よ」
「かわいくねーな」
私はツンと横を向いた。
(そんなの、わかってるわよ!)
好きな人が心配してくれてるのを素直に受け取れない私が可愛げがないなんて、自分が一番知ってる。
でも、この図体のデカい目つきの悪い女が『うれしい!』ってしなを作っても気持ち悪いだけよね。
自分で思って、ひそかに落ち込んだ。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
ノーマル友情エンドを目指したつもりが何故か全く違うエンドを迎えてしまった
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したものの攻略対象者とは恋愛に発展させず友情エンドを目指す事にしたけれど、思っていたのとは全然違う結果になってしまった話。
義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
悪役令嬢は追いかけられて囚われる。
入海月子
恋愛
侯爵令嬢のセフィリアは、濡衣で王太子から婚約破棄を命じられる。失意のうちに座り込んでいると、近衛騎士のラギリスが追いかけてきた。今までなんの接点もなかったのに、熱い瞳で見つめられて……。
【完結】彼女はまだ本当のことを知らない
七夜かなた
恋愛
騎士団の受付係として働くタニヤは実家を助けるため、女性用のエロい下着のモニターのバイトをしていた。
しかしそれを、女性関係が派手だと噂の狼獣人の隊長ランスロット=テスターに知られてしまった。
「今度俺にそれを着ているところを見せてよ」
彼はタニヤにそう言って、街外れの建物に連れて行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる