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おかしな依頼②
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そんなある日、土曜日なのに拓斗がやってきた。しかも、めずらしく困り顔だ。
休日だからか、スーツでなく私服だった。だけど、望晴のコーディネートしたものではない。
「いらっしゃいませ」
笑顔で迎えた望晴を見て、彼はためらいがちに言った。
「頼みがあるんだが……」
いつになく歯切れの悪い拓斗の様子に、望晴は首を傾げた。
「はい、なんでしょう? 私でお役に立てるなら――」
「家に来て、コーディネートをやり直してほしいんだ」
「はい?」
食い気味に告げられた言葉に、望晴の思考がついていけなかった。
目をパチパチさせて、聞き返す。
「君にコーディネートしてもらった服をセットにして保管していたのに、新しい家政婦が勝手に服をバラバラにして収納してしまったんだ」
「セットに? 着回ししてなかったんですか?」
「コーディネートを崩すと、甲斐にまたダサいだのセンスないだの言われてうるさいからな」
そう言われてみれば、来たときから気になっていたのだが、今日の拓斗の恰好はちぐはぐだった。
太い白黒ストライプのセーターになぜか緑のチェックのボトムを合わせていて、よりによってなぜそれを選んだのかと望晴は疑問に思っていた。
「それでは、今日は由井様がお選びになった服なんですか?」
「あぁ、目についたものを着てきたんだが、なにか変か?」
大真面目に聞いてくる拓斗に、残念感が漂う。
(本当にセンスがないんだわ)
ふと目があった啓介が笑いをこらえていた。
変だとも言えず、望晴はアドバイスした。
「そうですね。中の白シャツの襟と裾を出したら、もう少しバランスが取れるかもしれませんね」
「こうか?」
拓斗は素直にシャツの裾を出した。
柄と柄の間に、緩衝材のように白が入って、少しはお洒落感が出る。同じブランドの服なので、よっぽどのことがないと喧嘩しないはずだったが、彼のコーディネートは想定外だった。
ほっとした望晴は、先ほどの拓斗の頼みを思い出した。
休日だからか、スーツでなく私服だった。だけど、望晴のコーディネートしたものではない。
「いらっしゃいませ」
笑顔で迎えた望晴を見て、彼はためらいがちに言った。
「頼みがあるんだが……」
いつになく歯切れの悪い拓斗の様子に、望晴は首を傾げた。
「はい、なんでしょう? 私でお役に立てるなら――」
「家に来て、コーディネートをやり直してほしいんだ」
「はい?」
食い気味に告げられた言葉に、望晴の思考がついていけなかった。
目をパチパチさせて、聞き返す。
「君にコーディネートしてもらった服をセットにして保管していたのに、新しい家政婦が勝手に服をバラバラにして収納してしまったんだ」
「セットに? 着回ししてなかったんですか?」
「コーディネートを崩すと、甲斐にまたダサいだのセンスないだの言われてうるさいからな」
そう言われてみれば、来たときから気になっていたのだが、今日の拓斗の恰好はちぐはぐだった。
太い白黒ストライプのセーターになぜか緑のチェックのボトムを合わせていて、よりによってなぜそれを選んだのかと望晴は疑問に思っていた。
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大真面目に聞いてくる拓斗に、残念感が漂う。
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「そうですね。中の白シャツの襟と裾を出したら、もう少しバランスが取れるかもしれませんね」
「こうか?」
拓斗は素直にシャツの裾を出した。
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ほっとした望晴は、先ほどの拓斗の頼みを思い出した。
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