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『はるや』の限定羊羹②
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「由井さん、棚にはるやの羊羹を見つけたのですが……」
「あぁ」
「お好きなんですか?」
「好き?」
拓斗は振り向き、戸惑った表情を浮かべた。
そして、それに答えず、質問を返してきた。
「君は羊羹は好きか?」
「はい。甘いものはすべて好きなんですが、特にはるやの羊羹は甘さがちょうどよくて、口どけも食感も絶妙で、大好きなんです。小豆羊羹は他のメーカーのものより飛び抜けて美味しいですよね! ただ、昔ながらの大きなパッケージしかないから、私みたいな一人暮らしの者では食べきれなくて、残念です。だから、週一でAFモールのはるやカフェで食べてるんです。でも、限定品には初めて出会いました! いつも売り切れてたので」
望晴は興奮気味に一気に語った。
彼女は甘いものオタクだった。
「そ、そうか」
圧倒されたように拓斗が相槌を打つ。
「それなら食べてみるか?」
「いいんですか!? 今までオーソドックスな味しか作ってこなかったはるやが初めて檸檬羊羹なんてハイカラなものを出したから、食べてみたかったんです!」
目をキラキラさせて言い募る望晴に、拓斗は目を瞬いた。
「詳しいな」
「はい。昔から食べているので。実は実家の近くにはるや創業のお店があったんです。今はAFモールの店舗が本店になっていますが」
「京都か?」
「よくご存じですね」
「まぁ……」
話しながら、拓斗は茶筒と急須、湯のみを取り出した。
慣れた手つきで、湯のみにお湯を注ぎ、それを急須に移し替え、また湯のみに戻す。茶葉を急須に入れ、湯のみで冷ました湯を注いだ。
タイマーできっちり二分計ると、湯のみに均等に注ぎ分ける。
「玉露ですか?」
「そうだ」
いつも時間を惜しむ拓斗が丁寧にお茶を淹れるのが意外で、望晴は思わず漏らした。
「お茶はインスタントじゃないんですね」
「あぁ、これだけは慣れた味でないと落ち着かなくてな」
そう言った拓斗は羊羹も切ってくれた。
羊羹はまっすぐ切るのが難しいのに、彼はすんなりと美しく切った。
こし餡の茶色の土台の上に、鮮やかな黄色の檸檬羊羹が乗っていて、目にも楽しい羊羹だった。
「いただきます」
手を合わせて、まずは玉露を一口飲む。
「美味しいです!」
独特の薫りと甘みが口の中に広がり、望晴は声をあげた。
玉露ははるやカフェでたまに頼むのだが、それと遜色ない味がした。彼の淹れ方がうまいのに驚く。
「それはよかった」
拓斗はなんでもないという顔でうなずいた。彼の慣れた味がこれなのだろう。
そして、待望の羊羹を口に入れた望晴はうっとりして、目を細めた。
「美味し~い! こし餡の濃厚な甘みと柑橘系の甘酸っぱさが混ざり合って、なんて幸せなハーモニーなの! すごく合うわ! さすが、はるやさん! 惜しむらくは、こんなにかわいい中身なのに、いつもと同じ渋いパッケージだということですね。オシャレなデザインにしたら、もっといろんな人にはるやの良さをわかってもらえるのに」
「君もそう思うか!?」
思ったままに感想をつぶやいた望晴に、拓斗が食いついた。
その身を乗り出すような勢いに驚いて、望晴が目をぱちくりさせると、彼はハッとして、首を横に振った。
「いや、なんでもない」
めずらしい拓斗の様子に、きっと彼もはるやのファンに違いないと、勝手に同志認定をして、親近感を覚えた。
思いがけず、拓斗とお茶を楽しんで、その日は終わった。
「あぁ」
「お好きなんですか?」
「好き?」
拓斗は振り向き、戸惑った表情を浮かべた。
そして、それに答えず、質問を返してきた。
「君は羊羹は好きか?」
「はい。甘いものはすべて好きなんですが、特にはるやの羊羹は甘さがちょうどよくて、口どけも食感も絶妙で、大好きなんです。小豆羊羹は他のメーカーのものより飛び抜けて美味しいですよね! ただ、昔ながらの大きなパッケージしかないから、私みたいな一人暮らしの者では食べきれなくて、残念です。だから、週一でAFモールのはるやカフェで食べてるんです。でも、限定品には初めて出会いました! いつも売り切れてたので」
望晴は興奮気味に一気に語った。
彼女は甘いものオタクだった。
「そ、そうか」
圧倒されたように拓斗が相槌を打つ。
「それなら食べてみるか?」
「いいんですか!? 今までオーソドックスな味しか作ってこなかったはるやが初めて檸檬羊羹なんてハイカラなものを出したから、食べてみたかったんです!」
目をキラキラさせて言い募る望晴に、拓斗は目を瞬いた。
「詳しいな」
「はい。昔から食べているので。実は実家の近くにはるや創業のお店があったんです。今はAFモールの店舗が本店になっていますが」
「京都か?」
「よくご存じですね」
「まぁ……」
話しながら、拓斗は茶筒と急須、湯のみを取り出した。
慣れた手つきで、湯のみにお湯を注ぎ、それを急須に移し替え、また湯のみに戻す。茶葉を急須に入れ、湯のみで冷ました湯を注いだ。
タイマーできっちり二分計ると、湯のみに均等に注ぎ分ける。
「玉露ですか?」
「そうだ」
いつも時間を惜しむ拓斗が丁寧にお茶を淹れるのが意外で、望晴は思わず漏らした。
「お茶はインスタントじゃないんですね」
「あぁ、これだけは慣れた味でないと落ち着かなくてな」
そう言った拓斗は羊羹も切ってくれた。
羊羹はまっすぐ切るのが難しいのに、彼はすんなりと美しく切った。
こし餡の茶色の土台の上に、鮮やかな黄色の檸檬羊羹が乗っていて、目にも楽しい羊羹だった。
「いただきます」
手を合わせて、まずは玉露を一口飲む。
「美味しいです!」
独特の薫りと甘みが口の中に広がり、望晴は声をあげた。
玉露ははるやカフェでたまに頼むのだが、それと遜色ない味がした。彼の淹れ方がうまいのに驚く。
「それはよかった」
拓斗はなんでもないという顔でうなずいた。彼の慣れた味がこれなのだろう。
そして、待望の羊羹を口に入れた望晴はうっとりして、目を細めた。
「美味し~い! こし餡の濃厚な甘みと柑橘系の甘酸っぱさが混ざり合って、なんて幸せなハーモニーなの! すごく合うわ! さすが、はるやさん! 惜しむらくは、こんなにかわいい中身なのに、いつもと同じ渋いパッケージだということですね。オシャレなデザインにしたら、もっといろんな人にはるやの良さをわかってもらえるのに」
「君もそう思うか!?」
思ったままに感想をつぶやいた望晴に、拓斗が食いついた。
その身を乗り出すような勢いに驚いて、望晴が目をぱちくりさせると、彼はハッとして、首を横に振った。
「いや、なんでもない」
めずらしい拓斗の様子に、きっと彼もはるやのファンに違いないと、勝手に同志認定をして、親近感を覚えた。
思いがけず、拓斗とお茶を楽しんで、その日は終わった。
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