上 下
24 / 62

うちのホテルとは

しおりを挟む
 彼は照れたように⾒返してきたと思ったら、慌てて横を向いた。急にジャケットを脱ぎはじめる。

「濡れていてすまないが……」

 視線を逸らしたまま、颯⽃がジャケットを差し出してくるので、⼀花はきょとんとそれを⾒た。
 彼⼥の反応に、颯⽃は⾔いづらそうに⼝を開く。

「服が……」
「え、あ、あぁーっ!」

 ⾃分の服を⾒下ろした⼀花は、ブラウスが⽔で貼りついた上、透けて、下着がくっきりと⾒えているのに気づいた。
 悲鳴を上げて、胸を隠し、ありがたく颯⽃のジャケットを借りる。

「お⾒苦しいものを⾒せてしまって、すみません!」
「いや、こちらこそ、重ね重ねすまない」

 ⽬のやり場に困る姿を隠してもらって落ち着いた颯⽃はエアコンの温度を上げた。

「くしゅん」

 温⾵の勢いに⼀花はかえってくしゃみをした。濡れた服に⾵が当たって冷たい。
 彼⼥を気遣うように⾒て、颯⽃は提案してきた。

「この格好じゃどこにも⾏けないな。近くにうちのホテルがあるからそこに⾏かないか? 服を乾かそう」
「うちのホテル!?」

 そんな表現聞いたことがないと⼀花は驚愕の声を上げる。
 颯⽃はなんでもないように⾔う。

「あぁ、藤河グループのリゾートホテルがあるんだ。⾵呂で温まらないと⾵邪を引くだろう?」

 たしかに、ゲリラ豪⾬のせいで急激に気温が下がり、濡れているせいで寒くなっていた。
 温かいお⾵呂に誘惑されて⼀花はうなずいた。
 彼の⾔う通り、こんなに濡れた格好ではケーキ屋にも⾏けない。

「よし、すぐ着くからな」

 颯⽃は⾞を発進させた。
 ⼗分ほどで⽬的のホテルに着く。
 海に⾯した⾼台の上に建つホテルは真っ⽩な壁と⼤きなガラス窓でできた瀟洒な建物だった。いかにも⾼級そうなリゾートホテルだ。
 ⾞寄せに停まると、ドアボーイが⾞のドアを開けてくれる。
 颯⽃は彼に⾞のキーを渡し、⼀花に⼿を差しだした。
 その⼿を取り、⼀花は⾞を降りた。
 すたすたとロビーに⼊ってきた颯⽃を⾒て、コンシェルジュが駆けよってくる。
 そこは⽩い⼤理⽯の床と壁に加え、円柱に⽀えられたアーチ壁が優雅で、ヨーロピアンな雰囲気だった。

「副社⻑、お疲れ様です!」
「⾬に降られてしまって。部屋を⽤意できるか?」
「もちろんです」
「ランドリーサービスも利⽤したい」
「承知しました。係りの者を部屋に伺わせます」

 颯斗とコンシェルジュのやり取りを聞いていたフロント係が部屋のカードキーを持ってくる。

「ラグジュアリースイートをご⽤意しました」
「ありがとう」

 カードキーを受け取った颯⽃が⼀花の背中を押して、エレベーターホールへと誘導する。
 ただならぬ⾔葉が聞こえたと⼀花は唖然としていた。

(スイートの上にラグジュアリー?)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来
恋愛
【幼馴染×シークレットベビー】 東京に戻ってきた私には、小さな宝物ができていた。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

処理中です...