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葉山デート
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翌週の⼟曜⽇、いつものように藤河邸の⽞関の装花をしたあと、⼀花は買ってもらった服に着替えた。
リボンタイのあるベージュのブラウスに、チョコレートブラウンのワイドパンツで、上品かつ動きやすい恰好だ。⾼級ブティックの店員の⾒⽴ては完璧で、⼀花によく似合っていた。
颯⽃のあとについてガレージに⾏った⼀花は、颯⽃がいつもの⾞を通りすぎたので、⾸を傾げた。
「せっかく今⽇は天気がいいから、これで⾏こうと思ってな」
颯⽃が脚を⽌めたのはメタリックブルーのコンバーチブルの前だ。
流線形のデザインが美しく、ルーフを開けた姿は開放感に満ち溢れている。
「オープンカー?」
「ベントレーのコンチネンタルGTコンバーチブルという⾞種だ」
「こんち……?」
⾞に詳しくない⼀花は名前を繰り返すことさえできなかった。
颯⽃が笑って教えてくれる。
「コンチネンタルGTコンバーチブル。まぁ、別に覚えなくてもいいが」
「いろんな⾞をお持ちですね。⾞がお好きなんですか?」
「あぁ。休⽇にあてどなくドライブに⾏くのが趣味だ。たまに、サーキットで⾛らせたりもするが」
「サーキット?」
聞きなじみのない⾔葉が出てきて、⼀花は⾸を傾げた。
茂⽊サーキットとか鈴⿅サーキットとか聞いたことがあるような気がしたが、⾃信はなかったのだ。
助⼿席のドアを開けてくれながら、颯⽃が説明してくれた。
「⾦さえ出せば、個⼈でもレーシングコースを使えるんだ。だから、年に数回茂⽊に通ってる」
「それは本格的ですね」
「いや、それほどでもない。のめり込んでるやつはライセンスを取って、⾞をバンバン改造してレースに参加しているが、俺はそこまでではない。ただ走らせるだけだ」
「そんな世界もあるんですね」
「⾞を⾛らせてると、頭の中が空っぽになるんだ。リセットされるというか。だから、気に⼊ってる」
忙しい彼は考えるべきことも多いのだろう。ドライブが颯⽃のリフレッシュ法らしい。
⼀花が装花に集中していると、なにもかも忘れてしまうのと同じだと思った。
颯⽃が⾞を発進させた。
コンバーチブルはなめらかに進みだす。
「わっ」
服装に合わせて下していた髪の⽑が⾵で舞い上がり、⼀花は声を上げた。
慌てて⼿で髪をまとめる。
オープンカーだから、まともに⾵を受けてしまうのだ。
「あぁ、悪い。ルーフを閉めようか?」
「いいえ、⼤丈夫です。せっかく気持ちいいから、このままで」
オープンカーなんて初めて乗ったが、颯⽃の⾔う通り、快晴の今⽇は⾵が⼼地よく、この⾞が合っている。
⼀花は吹き抜ける⾵に⽬を細めた。
「⾵でヘアスタイルが乱れると嫌がる⼥性が多いんだがな」
「こんなにさわやかなのにもったいない。髪なんてくくればいいんです」
そう⾔って、⼀花はシュシュで髪をまとめた。
そんな彼⼥を横⽬で⾒た颯⽃はくくっと笑い、おくれ⽑を指にとって⼀花の⽿にかけた。
驚いて彼を⾒るが、颯⽃は⾃分の⾏動をなんとも思っていないようで、⼝元に笑みをたたえながら前を向いている。
(こんな素敵な⼈なんだから、何⼈も隣に⼥性を乗せたことがあるんでしょうね)
恋⼈に対するしぐさがつい出てしまったのだろうと⼀花は思った。
それか、恋⼈設定の演技の⼀環だと思って、早くなった⿎動を鎮めようとする。
嫌がらせ犯がこれを⾒ていたら、完全に⼆⼈は付き合っていると思うだろう。
それほど颯⽃の演技は⾃然だった。
(今までどんな⼈がここに座ったんだろう?)
ふと考えた⼀花の胸の奥がなぜだかちくりと痛んだ。
リボンタイのあるベージュのブラウスに、チョコレートブラウンのワイドパンツで、上品かつ動きやすい恰好だ。⾼級ブティックの店員の⾒⽴ては完璧で、⼀花によく似合っていた。
颯⽃のあとについてガレージに⾏った⼀花は、颯⽃がいつもの⾞を通りすぎたので、⾸を傾げた。
「せっかく今⽇は天気がいいから、これで⾏こうと思ってな」
颯⽃が脚を⽌めたのはメタリックブルーのコンバーチブルの前だ。
流線形のデザインが美しく、ルーフを開けた姿は開放感に満ち溢れている。
「オープンカー?」
「ベントレーのコンチネンタルGTコンバーチブルという⾞種だ」
「こんち……?」
⾞に詳しくない⼀花は名前を繰り返すことさえできなかった。
颯⽃が笑って教えてくれる。
「コンチネンタルGTコンバーチブル。まぁ、別に覚えなくてもいいが」
「いろんな⾞をお持ちですね。⾞がお好きなんですか?」
「あぁ。休⽇にあてどなくドライブに⾏くのが趣味だ。たまに、サーキットで⾛らせたりもするが」
「サーキット?」
聞きなじみのない⾔葉が出てきて、⼀花は⾸を傾げた。
茂⽊サーキットとか鈴⿅サーキットとか聞いたことがあるような気がしたが、⾃信はなかったのだ。
助⼿席のドアを開けてくれながら、颯⽃が説明してくれた。
「⾦さえ出せば、個⼈でもレーシングコースを使えるんだ。だから、年に数回茂⽊に通ってる」
「それは本格的ですね」
「いや、それほどでもない。のめり込んでるやつはライセンスを取って、⾞をバンバン改造してレースに参加しているが、俺はそこまでではない。ただ走らせるだけだ」
「そんな世界もあるんですね」
「⾞を⾛らせてると、頭の中が空っぽになるんだ。リセットされるというか。だから、気に⼊ってる」
忙しい彼は考えるべきことも多いのだろう。ドライブが颯⽃のリフレッシュ法らしい。
⼀花が装花に集中していると、なにもかも忘れてしまうのと同じだと思った。
颯⽃が⾞を発進させた。
コンバーチブルはなめらかに進みだす。
「わっ」
服装に合わせて下していた髪の⽑が⾵で舞い上がり、⼀花は声を上げた。
慌てて⼿で髪をまとめる。
オープンカーだから、まともに⾵を受けてしまうのだ。
「あぁ、悪い。ルーフを閉めようか?」
「いいえ、⼤丈夫です。せっかく気持ちいいから、このままで」
オープンカーなんて初めて乗ったが、颯⽃の⾔う通り、快晴の今⽇は⾵が⼼地よく、この⾞が合っている。
⼀花は吹き抜ける⾵に⽬を細めた。
「⾵でヘアスタイルが乱れると嫌がる⼥性が多いんだがな」
「こんなにさわやかなのにもったいない。髪なんてくくればいいんです」
そう⾔って、⼀花はシュシュで髪をまとめた。
そんな彼⼥を横⽬で⾒た颯⽃はくくっと笑い、おくれ⽑を指にとって⼀花の⽿にかけた。
驚いて彼を⾒るが、颯⽃は⾃分の⾏動をなんとも思っていないようで、⼝元に笑みをたたえながら前を向いている。
(こんな素敵な⼈なんだから、何⼈も隣に⼥性を乗せたことがあるんでしょうね)
恋⼈に対するしぐさがつい出てしまったのだろうと⼀花は思った。
それか、恋⼈設定の演技の⼀環だと思って、早くなった⿎動を鎮めようとする。
嫌がらせ犯がこれを⾒ていたら、完全に⼆⼈は付き合っていると思うだろう。
それほど颯⽃の演技は⾃然だった。
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ふと考えた⼀花の胸の奥がなぜだかちくりと痛んだ。
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