15 / 41
【出張編】
お仕事①
しおりを挟む
「よし、準備完了!」
きっちりスーツを着て、化粧をした私は、姿見の自分にうなずいた。
スーツを着ると、キリッとして背筋が伸びる。
今日から出張扱い。公私の区別はつけたい。
と言っても、隣りではまたぼんやりと着替えている進藤がいて、締まらない。
ヤツもスーツを着るつもりらしく、薄いブルーのワイシャツに手を通していた。
昨夜は別々の布団で寝たはずなのに、進藤が「寒い!」と私の布団に乱入してきて、疲れて眠すぎた私は大した抵抗もできず、彼の抱きまくらになったまま寝た。
ちなみに、慣れない運動のせいで、今朝は筋肉痛だ。
慣れない運動というのはもちろん、かまくら作りのことだ。
「おはようございます。朝食をお運びしてよろしいでしょうか?」
「おはようございます。お願いします」
七時ちょうどに女将さんが声をかけてくる。
ご飯にワカメと豆腐のお味噌汁、鮭の塩焼き、卵焼き。
とても旅館らしいメニュー。
その中で山菜の佃煮が特徴的だった。濃い醤油味にほのかな苦味がいいアクセントで美味しい。
お茶を淹れてくれていた女将さんに、進藤が尋ねた。
「あの笹本さんの別荘の由来ってご存知ですか?」
「由来ですか?」
目を覚ました進藤は早速仕事モードになっていたようで、遅れを取った。
もう調査開始している。
「あの場所にどうして洋館なのかなってことでしょ?」
慌てて会話に参加する。
「そうそう。敢えてあそこに洋館を建てた理由とかご存知でしたら、教えてください」
「あぁ、そういうことですか」
不思議そうに首を傾げていた女将さんは、納得して笑った。
「知ってますよ。ここらでは有名な話なんで」
女将さんの話はこうだった。
もともとあそこは笹本さんの実家が建っていた。それは小さな平屋で、お父さんを早くに亡くした笹本さんは苦労して必死に働き、成功すると、お母さんのために実家をあの洋館に建て替えたらしい。
でも、残念ながら、お母さんは洋館を気に入らず、出ていってしまったそうだ。
「えぇー! せっかくあんな立派なのを建てたのに!?」
「まぁ、もったいないけど、わかる気もしますね。私だったら落ち着かないもの。高齢の方ならよりいっそうだと思いますよ」
驚く私に女将さんは苦笑する。
「なるほど」
「主人の方がもう少し詳しいと思いますよ。笹本さんの後輩だったから」
「そうなんですね。あとで聞いてみます。ありがとうございます」
進藤がにっこりとお礼を言った。
そして、いつの間にか、旅館のおじさんに車を出してくれるようにお願いしていたようで、食後、準備を整えると、早速、私たちは別荘に向かった。
きっちりスーツを着て、化粧をした私は、姿見の自分にうなずいた。
スーツを着ると、キリッとして背筋が伸びる。
今日から出張扱い。公私の区別はつけたい。
と言っても、隣りではまたぼんやりと着替えている進藤がいて、締まらない。
ヤツもスーツを着るつもりらしく、薄いブルーのワイシャツに手を通していた。
昨夜は別々の布団で寝たはずなのに、進藤が「寒い!」と私の布団に乱入してきて、疲れて眠すぎた私は大した抵抗もできず、彼の抱きまくらになったまま寝た。
ちなみに、慣れない運動のせいで、今朝は筋肉痛だ。
慣れない運動というのはもちろん、かまくら作りのことだ。
「おはようございます。朝食をお運びしてよろしいでしょうか?」
「おはようございます。お願いします」
七時ちょうどに女将さんが声をかけてくる。
ご飯にワカメと豆腐のお味噌汁、鮭の塩焼き、卵焼き。
とても旅館らしいメニュー。
その中で山菜の佃煮が特徴的だった。濃い醤油味にほのかな苦味がいいアクセントで美味しい。
お茶を淹れてくれていた女将さんに、進藤が尋ねた。
「あの笹本さんの別荘の由来ってご存知ですか?」
「由来ですか?」
目を覚ました進藤は早速仕事モードになっていたようで、遅れを取った。
もう調査開始している。
「あの場所にどうして洋館なのかなってことでしょ?」
慌てて会話に参加する。
「そうそう。敢えてあそこに洋館を建てた理由とかご存知でしたら、教えてください」
「あぁ、そういうことですか」
不思議そうに首を傾げていた女将さんは、納得して笑った。
「知ってますよ。ここらでは有名な話なんで」
女将さんの話はこうだった。
もともとあそこは笹本さんの実家が建っていた。それは小さな平屋で、お父さんを早くに亡くした笹本さんは苦労して必死に働き、成功すると、お母さんのために実家をあの洋館に建て替えたらしい。
でも、残念ながら、お母さんは洋館を気に入らず、出ていってしまったそうだ。
「えぇー! せっかくあんな立派なのを建てたのに!?」
「まぁ、もったいないけど、わかる気もしますね。私だったら落ち着かないもの。高齢の方ならよりいっそうだと思いますよ」
驚く私に女将さんは苦笑する。
「なるほど」
「主人の方がもう少し詳しいと思いますよ。笹本さんの後輩だったから」
「そうなんですね。あとで聞いてみます。ありがとうございます」
進藤がにっこりとお礼を言った。
そして、いつの間にか、旅館のおじさんに車を出してくれるようにお願いしていたようで、食後、準備を整えると、早速、私たちは別荘に向かった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる