雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。

入海月子

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【出張編】

雪遊び②

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「うん、いい出来!」

 私は大きな雪だるまを見て、満足してうなずいた。
 ちょっと歪になっちゃったけど、ニヤリと雪だるまも見返してくれる。

 東京生まれの東京育ちの私には、こんなに雪が積もった景色は新鮮で、女将さんに断って、中庭で雪遊びを始めたのだ。
 付き合わなくていいって言ったのに、進藤まで出てきて、私の雪だるまに手を出そうとするので、断固拒否して、自力で完成させた。

 拗ねた進藤はなにをしているのかと思ったら、縁側近くで、せっせと雪うさぎの大群を作っていた。
 南天の赤い実と緑の葉を使って、どれもとても可愛い表情をしている。悔しい。

(可愛いことしてるんじゃないわよ!)

 私だって!と雪だるまの横に、ちょっと大きめの雪うさぎを作った。
 身体に合わせて大きな眼にしようと、南天の実を複数埋め込んだら、なんだかロボットみたい?

「……なかなか、ユニークだな」

 いつの間にか横に来ていた進藤がボソリとつぶやく。

(くっそー! バカにしてー!)

 腹が立って、雪玉を投げつけた。

「おっ、雪合戦か?」

 進藤が尻尾を振りそうな声で楽しそうに笑うので、「違うわよ!」と否定して、ヤツに近寄った。
 背伸びして首元に腕を回すと、進藤はフリーズした。
 顔が近づく──

 その背中に雪を入れてやった。

「冷たっ!」
「あははっ。ざまーみ!」

 身をよじって雪を出そうとしている進藤から離れて、私は次の作業に取りかかった。
 憧れのアレを作るのだ! 進藤にかかずらっている暇はない!

 私は中庭の一角に大量の雪を集め始めた。
 腕を広げて、ブルドーザーのように雪を四方からかき集める。
 あっという間に雪まみれだけど、動いているから、そんなに寒さは感じない。

「もしかして、かまくら作ろうとしてる?」

 ようやく雪を追い出したらしい進藤がまた寄ってきて、私の髪の雪を払い落とした。

「もしかしなくてもそうよ。一度作ってみたかったの」
「それなら、スコップがいるぞ?」
「そうなの?」
「運がいいな。俺はかまくら作りの名人だ!」
「へー」

 軽くスルーして、雪集めに戻ろうとすると、「いや、マジで!」と腕を掴まれた。
 進藤は金沢出身で小さい頃からよくかまくらを作っていたらしい。

(進藤に教えを請うのは、むちゃくちゃ腹立たしいけど、かまくらのためだ、仕方ない……)

 くぅううと苦渋の決断をして、進藤にかまくら作りへの参加を許可した。

 進藤が二本雪掻き用のスコップを借りてきた。
 それで雪を掻き集める。
 東京だとすぐ地面が顔を出すけど、ここのたっぷり積もった雪は豊富で、どこまでも真っ白だ。
 かまくら建設予定地に、進藤が大きな円を描いて、その中にドーム状に雪を積み上げていく。
 時々、スコップで側面を固めながら乗せていくと、雪の塊は私の身長ほどになった。
 
「これくらいでいいかな」

 進藤がうなずいた時には、なかなかに疲れていた。
 雪掻きって腰にくるわ。

(でも、敵の前で弱みは見せられない!)

 そう思った時、女将さんの声がした。

「お客さま~、お昼はどうされます?」

 腕時計を見ると、とっくに正午を回っていた。

「食べます!」

 これ幸いと元気よく返事をする。
 いそいそと雪を落として、部屋に戻って座卓の前に座ると、思ったより身体が疲れていたのを感じた。
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