夢魔はじめました。

入海月子

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熱い夜

夢魔はじめました。

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 ライアンに手を引かれ、ふわふわとした気分で宿に向かう。

 今夜とうとう……。
 彼に抱きしめられることを考えただけで、キュンと身体の奥が疼いた。

 そんな私の様子を見ると、ライアンはうっとりするような笑みを浮かべて、髪や頬にキスを落とした。

 通りすがりに、夕食を見繕って買っていく。
 行きに気になってたモツ煮も買っていた。

「シュトラーセはこの羊肉の煮込みが有名なんだ。羊のチーズもな。あと、このプリム」

 モツじゃなくて、羊肉だったのね。
 ライアンは名物という羊のチーズとプリムというスモモのような果物も買った。
 ワインを買おうかどうか迷ってたけど、「一人で飲んでもなぁ」とつぶやいて、代わりに分厚いクッキーのようなお菓子を買った。




「風呂は何時から入れる?」

 宿に戻ると、ライアンはカウンターの主人に尋ねた。

「5時からだから、もうすぐだね。一番湯に入るか?」

 どうする?というようにライアンは私を見た。
 なにをするにも、その後のことを想像してしまって、赤くなってしまう。
 私ってば、どれだけ期待してるんだろう。
 恥ずかしい。

「飯を食ってから、ゆっくり入るか?」

 ライアンが言うのに、コクコクと頷く。

 宿の主人は生温かい目で私達を見て、「7時ぐらいまでは空いてると思うよ」と教えてくれた。

「あぁ、ありがとう」

 お礼を言って、部屋に戻ろうとしたら、外に出かけようとしてたルシードにばったり会った。

「おっ、任務は終わったのかい?」
「おかげさまでな」
「じゃあ、いよいよなんだね!」

 ルシードの目がおもしろそうに輝いた。
 今からするってバレてるのがものすごく恥ずかしい。

「かわいいから見るな」

 赤面している私を胸に隠してライアンが言うと、ルシードが苦笑した。

「じゃあ、明日結果を楽しみにしてるよー」

 ヒラヒラ手を振って、ルシードは出ていった。



 頬の熱が引かないまま、部屋に戻ると、ライアンが私を引き寄せ、口づけた。

「本当にかわいいな……。今すぐ押し倒したくなるよ」

 額をくっつけたまま、ライアンが囁いた。
 え、でも、ご飯が!お風呂が!と私の慌てる様子がおかしかったようで、ライアンは笑うと「後でな」と私を解放した。

 買ってきた料理をテーブルに広げると、食べ始める。
 向かいに座った私に、あーんと羊肉の煮込みを分けてくれた。

 ラム肉だ。
 香辛料が入っているから独特の臭みが消えて、美味しい。
 これは好きな味かも。

 チーズを挟んだパンにかぶりつくライアンを見ていたら、それも差し出されたから、パクッと食べた。
 思った以上にクリーミーで美味しかった。
 名産というだけあるわ。

 あっという間に、料理を片づけるとライアンは、私を手招いて、膝に乗せた。
 優しく髪をなで、耳に口づけ、頬に口づけ、唇に口づけた。
 また耳に口づけながら、つぶやく。

「エマと結婚したいって言ったっけ?」
「き、聞いてません……」

 け、け、結婚って、あの結婚?
 まだ恋人だって自覚も薄いのに、結婚だなんて、くらくらする。
 幸せすぎて。

「嫌か……?」

 甘い甘い瞳の底に少しの不安を覗かせて、ライアンが聞いてきた。

「嫌じゃ、ありません……ただ、ビックリして。ライアンは私でいいんですか?」

 夢魔のままかもしれないし、なんの身分もない異世界の者。
 そんな存在と結婚なんてできるのかな?

 そう聞くと、ライアンは怒ったように答えた。

「エマとじゃなきゃ結婚したいと思わない」

 ライアン……。
 私もあなたと一緒に人生を歩みたい。
 瞳が潤む。

「ライアン、大好き」

 私は彼に抱きついた。
 ライアンも微笑んで、キスをくれた。
 チュッチュッとキスを繰り返す。

「エマ……風呂に行こう。早くお前を抱きたい」

 掠れた色っぽい声でライアンが囁いた。
 ポッと頬が熱くなる。
 頷いて、お風呂の準備をして、浴場に向かった。



 服を脱いで、浴室に入る。
 身体をつい念入りに洗ってしまう。
 恥ずかしくて隣のライアンの方は見れない。
 泡を流して、湯船に浸かる。

 ザブンとライアンも入ってきた。
 いつものように、後ろから抱きすくめられる。
 耳許に口づけられて、くすぐったくて首を竦めた。
 ライアンの唇は耳から首筋に下りてきて、そこに吸いついた。

「んっ……」

 官能的な快感が広がる。

 首筋を這うように吸われながら、胸も揉みしだかれて、「あっ……ん………はぁ……」と吐息が漏れ出てしまう。

「アーーッ、ダメだ!限界だ!悪い、エマ……」

 突然大きな声をあげたライアンに、ビクッとする。
 と同時に、身体が持ち上げられた。

 え?

 私はお姫様抱っこで、浴場から脱衣所に運ばれた。
 そこで下ろされると、戸惑ってる間にタオルで拭かれて、素肌にワンピースを被される。
 そして、ライアンは自分もものすごいスピードで服を着ると、また私を抱き上げ、部屋まで運んだ。


 ベッドの上にそっと下ろされると、間髪入れず、キスが降ってきた。

「んっ……んんっ……ん……」

 舌を絡められて、唾液を流し込まれる。
 ワンピースがまくり上げられて、直接胸を捏ねられる。

 ライアンが珍しく余裕を失くしてる。

 こんなに求められてたなんて、とうれしく思う反面、もうちょっとゆっくりとも思う。
 急な熱情に翻弄される。

「んーっ」

 深く吸われて、クラクラした。
 ようやく口を離され、荒い息を吐く。
 茫然としている私を見て、ハッとしたライアンは、身体を離した。

「ごめん。ちょっと落ち着く」

 ライアンはベッドから下りて、水を飲んだ。
 そして、ベッドの端に座って、溜息をついた。
 頭を抱えて、落ち込んでるみたいだった。

「はぁぁ、俺、どんだけ飢えてるんだろ。ごめんな、怖かったか?」

 近寄っていった私を振り返って、ライアンが謝った。
 私は慌てて首を横に振る。

「怖くはなかったです。ちょっと驚いただけで」

 そう言うと、ライアンは頬に手を当てて優しくキスをしてくれた。

 髪の毛が濡れたままなのに気づいて、「乾かしてやる」と私を膝に乗せた。
 髪を梳かれながら、当てられる温風が心地いい。

 きれいに乾かしてくれて、「よし」とライアンは満足そうに笑った。
 その笑顔にきゅんとして、彼に抱きつく。

 あの勢いのまま抱いてもよかったのに、私を気づかって止まってくれた。
 その気持ちがすごくうれしい。

 ライアンは笑みを深め、耳にキスして、「再開していいか?」と囁いた。
 私が頷くと、甘く口づけられた。

「怖かったり嫌だったりしたら、遠慮なく殴ってくれ。すぐ止めるから」
「ライアンにそんなこと思わないです!」

 拗ねた口調で言うと、破顔したライアンがまたチュッとキスをした。

「ありがとう」

 そして、万歳をさせて、私のワンピースを脱がした。
 ライアンも服を脱ぐと、そっと私に覆いかぶさってきた。


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