夢魔はじめました。

入海月子

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ようやくわかった。

夢魔はじめました。

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 ふっと意識が浮上した。
 ビクッと身体を強張らせるけど、温かい安心する腕に包まれて、ベッドに寝ているのに気づき、力を抜く。
 もうどこも痛くなくて、悪い夢でもみたのかなと思えるほど。
 でも、受けた暴力の記憶は生々しく頭にこびりついていて、ライアンの胸に頬を擦りつけた。

 あれ?

 ライアンは上半身裸で、私は素肌にライアンのシャツを着ていた。
 どうしてこんな格好に?と思ったけど、服を破かれたことを思い出した。
 だから、自分のシャツを着せてくれたんだ。
 ほんわか心が温かくなって、ぐっすり眠るライアンの顔を眺める。

 彼の胸に当てた手がその穏やかな鼓動を感じて、私の心を静めた。

 トクントクントクン………。

 あぁ、よかった。
 ライアンが無事で。
 生きてまた会えて。

 瞼が熱くなる。
 散々泣いたのに、また安堵の涙が溢れる。

「ん………エマ……? 泣いてるのか?」

 ライアンが目を開けた。
 澄んだ青い瞳が心配そうに見つめてくる。

「ごめんなさい、起こして……」
「いや、いい。エマが起きる前に起きようと思ってたんだ。俺の方こそ、ごめんな。気分はどうだ?」
「ライアン、謝らないでください。助けに来てくれただけで十分ですから」

 私がさっき言えなかったことを言うと、ライアンは顔色を変えた。

「助けるに決まってるだろ! 命にかえても守りたいと思ってるのに!」

 その勢いに思わず身がすくむ。

「あぁ、ごめん……」

 なだめるように優しく抱きしめられる。
 髪をなでられて、瞳を覗き込まれる。
 少しでも嫌がる素振りがあったら、離そうとするように。

「俺でも怖いか?」
「いいえ、ちょっとビックリしただけです」

 私は慌てて首をふる。
 離されないように彼にしがみついた。
 普段よりちょっとビクついているだけ。

 そんな私に、ライアンは甘く微笑んで、抱き直してくれた。
 頬をなで、軽く口づけられる。

 っていうか、さっきの『命にかえても』って大袈裟じゃない?
 じわじわ意味を理解してきて、赤くなる。

「………エマが捕まったと聞いて、心臓が止まるかと思った。ボロボロにされたエマを見て、殴られたのを見て、怒りで目の前が真っ赤になった。アイツら全員滅ぼしてやると思った」

 その時のことを思い出しているのか、ライアンは痛みを堪えてるような顔になった。

「エマを取り戻せて、本当によかった。そうじゃないと俺はどうなっていたか、なにをしていたか自分でも自信がない……」
「ライアン………おかげで私はここにいます」

 そんなつらそうな顔をしてほしくなくて、私は彼に口づけた。
 彼は表情を改めて、クシャッと笑った。
 ふいに深く熱いキスをされる。
 私をじっくり味わうように、口の中を探り、舌を絡める。
 私も彼を感じて、喜びに耽る。

 何度も唇を合わす。
 離れたくないと猛烈に思った。
 息が苦しくなるほど、唇を貪り合った。
 ようやく唇を離すと、また見つめ合った。

「ルシードが言ってたことが正しかったよ」

 ぽつりとライアンが漏らした言葉に私は首を傾げる。

「任務なんて関係ない」

 ライアンは私の頬に手を当て、じっと見た。

「エマ………お前が好きだ。お前が一番だ。一番大切なんだ。なによりも誰よりも。ようやくわかった」
「ライアン………!」

 彼の甘く優しい顔が涙でぼやけた。

「ライアン………私も。私もすごく好き。大好き」

 私達はお互いを抱きしめ合い、口に吸いついた。
 舌を絡め合い、ピッタリくっつくけど、まだ足りない。
 もっともっとくっつきたい。
 溶け合うほどに。

 私はライアンを熱く見つめた。
 彼も同じ熱量で私を見て、また口づけた。
 手が胸を這っていく。
 円を描くようになでて、てっぺんの尖りを探す。
 指がそれを見つけて、服の上からキュッと摘まれる。

「あんっ………」

 何度も触られたことのあるところだけど、やっぱり慣れないし、すぐ声をあげてしまうのが恥ずかしい。

「エマ、かわいいよ」

 ライアンがチュッチュッとあらゆるところに口づけて、シャツのボタンを外そうとした時……

 コンコン

 ノックの音がした。

「服買ってきたよー。人にお使いに行かせといて、どうせ二人でイチャイチャしてるんでしょ?」

 拗ねたような笑いを含んだようなルシードの声がした。
 図星で私は赤くなった。

 ライアンは舌打ちをして、身を起こす。
 彼がドアを開けるとルシードが入ってきた。

 私も上掛けで身体を隠しながら起き上がる。

「ルシード!」
「あぁ、エマ、元気になったみたいでよかった」

 彼はにっこり微笑んだ。

「ルシード、本当にありがとうございました!」

 彼は随分私を助けてくれた。
 捕まる直前まで私を逃がそうとしてくれたし、ライアンを呼んでくれて、最後に私を捕まえていた男も倒してくれた。
 彼がいなければ、私はもっとひどい目にあっていたかもしれない。
 感謝してもしきれない。

「んー、じゃあ、お礼に……」
「ダメだ!」
「まだなにも言ってないよ」
「ろくでもないに決まってる。ダメだ」
「ひどいなー。こうやって服も買ってきてあげたのに」
「お前には俺から礼をする。なにがいい?」
「えー、男に感謝されてもうれしくないよ」

 変わらない二人のやり取りにくすくす笑う。
 なんだかんだ言って、ルシードは見返りを求めない。
 どうしてこんなによくしてくれるのかな?
 恩を返せる時があるといいんだけどな。


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