37 / 51
ルシードと
夢魔はじめました。
しおりを挟む
ライアンの後ろ姿が見えなくなっても、見つめていると、ルシードが「あいつなら大丈夫じゃない? 敵は遮るものがないところにいて、こっちは森の中だし」と言ってくれた。
「そうですね」
私は頷いて、川辺の岩に腰かけた。
ルシードもそばの岩に座った。
「それにしても、ずっとここにいないといけないなんて、暇だね」
「確かに、こうしておしゃべりするしかないですね」
ふとルシードにずっと聞いてみたかったことがあるのを思い出した。
言い出そうかどうか迷っていると、ルシードが笑って、「なにか聞きたいことがあるなら、どうぞ?」と言った。
「ルシードは元は人間だったと言っていましたよね?夢魔になった時のことを覚えてますか?」
思いきって聞いてみる。
前に若くして死にかけた時に夢魔になったと言ってた。
私と同じような状況だったのかな?
ルシードも異世界から来たのかな?
聞いたところでなにかが変わるわけではないけど、気になってたのだ。
「あぁ、僕は生まれた時から病弱で、死ぬ寸前に頭の中に声が響いて、気がついたら夢魔になってたんだ」
「私と一緒……。じゃあ、この世界とは違うところから来たんですか?」
「さぁ? そもそも僕は家から出たことがなかったから、外の世界はどこも馴染みがなかったし。でも、習った地理も歴史も通用しなかったから、異世界なのかな? エマも異世界から来たの?」
「はい。ここと全然違う世界です。夢魔もいないし、魔法もない世界だったんです」
「へー、そうなんだ。じゃあ、違和感半端ないね」
目を丸くして、ルシードは私を見た。
ってことは、ルシードの世界はこことあまり変わらなかったのかな?
「僕の方は常識的なことはあまり違わなかったから、特に違和感はなかったよ。どちらかというと自分の身に起きた変化の方が激しかったし。歩いても走っても苦しくないのが不思議だった」
「じゃあ、夢魔になってよかったと思いました?」
「うん、すべてから自由になれた気がしたよ」
彼は言葉とは裏腹に苦い表情を浮かべた。
人間の頃はつらかったのかなとなんとなく思った。
「そんな話はいいから、もっと楽しい話をしようよ」
あまり突っ込んでほしくなさそうだったので、私は頷いて、話題を変えることにした。
「んー、そうだ、ルシードはなんでお金を持ってるんですか?」
「あぁ、たまに暇つぶしに売り子とかをしているからね」
「えっ、ルシード、働いてるんですか?」
「いつもじゃないよ? ほら、僕はこんな見た目だから、カフェやアクセサリーショップなんかの女性客が多いところを手伝うと客寄せになって重宝されるんだ」
確かに、こんな王子様みたいなウエイターさんがいるカフェなんて評判になりそう。
応対もソフトな感じだし。
「そうだ!夢魔あるあるを教えてあげようか?」
「なんですか?」
「僕達は人間を惹きつけるようにできてるから、人間に執着されて迷惑することも多いんだ」
身に覚えがあって、ドキッとする。
やっぱり夢魔だったせいなんだ。
「……誘拐されそうになりました」
「あぁ、エマは小さくてかわいいもんね。拐いたくなる気持ちはわかる」
大真面目に頷くルシード。
小さいってこの世界に来てからよく言われるけど、160cmはあるんだけどな。
ここの人達が大きいのよ。
「そういう時はどうするんですか?」
「君が馬車でやったのと同じ。魅了で自分の存在を消すんだよ」
「あぁ、なるほど」
「でもね、本気で惚れられたら、それも効かない」
「それじゃあ、どうするんですか?」
私の問いに、ルシードはニヤリと笑った。
「ひたすら逃げるか、捕まるかしかないね」
「捕まる?」
「ひと時、恋人関係になるんだよ」
「ひと時?」
「うん、だって、夢魔と人間の生きる時間は違………あ、君はきっと人間に戻れるよ!」
思わず顔を歪めてしまったのに気づかれて、ルシードが慌てて慰めてくれた。
やっぱり夢魔と人間はずっと一緒にはいられないよね……。
ライアンは夢魔のままでもいいと言ってくれたけど、一方が年を取っていき、もう一方が変わらないままだったら変だもんね。
「夢魔が年を取る方法ってないんですか?」
「ない、と思う……」
「そうですか……」
落ち込む私の頭をルシードがなでてくれる。
「もし夢魔のままで、ライアンと離れないといけなくなったら、僕が一緒にいてあげるよ」
「ありがとうございます。優しいんですね、ルシードは」
「そういうわけじゃないよ……」
私が感謝すると、ルシードは拗ねたようにそっぽを向いた。
照れてるのかな?
「………なんか楽しくない話になったね。話を変えよう。今度はとびっきりのおもしろいやつ」
ルシードは表情を改めて、今度はくすくす笑える話や自分の失敗談なんかを話してくれた。
私の気分を変えるように。
本当に優しいな。
そうしてルシードと時間を過ごしている間に夕方になり、突然、空がピカッと光った後、しばらくして、ド、ドガガガッシャーンとものすごい音がした。
「落雷……?」
「あぁ、落ちたねー」
雷……?ライアンなの……?
その音は一回限りで鎮まり、一網打尽だったのを思わせた。
「あいつ、すごいな。自信満々だったはずだ」
ルシードも同じことを思ったのか、鳥肌が立ったというように腕を擦って、つぶやいた。
「これでそのうち帰ってくるね。真夜中になりそうだけど」
「途中でちゃんと休んでくれるといいのですが……」
「無理じゃない?大急ぎで愛しい君の元に帰ってくるよ」
ルシードはニヤニヤ笑い、私は頬を染めた。
「そうですね」
私は頷いて、川辺の岩に腰かけた。
ルシードもそばの岩に座った。
「それにしても、ずっとここにいないといけないなんて、暇だね」
「確かに、こうしておしゃべりするしかないですね」
ふとルシードにずっと聞いてみたかったことがあるのを思い出した。
言い出そうかどうか迷っていると、ルシードが笑って、「なにか聞きたいことがあるなら、どうぞ?」と言った。
「ルシードは元は人間だったと言っていましたよね?夢魔になった時のことを覚えてますか?」
思いきって聞いてみる。
前に若くして死にかけた時に夢魔になったと言ってた。
私と同じような状況だったのかな?
ルシードも異世界から来たのかな?
聞いたところでなにかが変わるわけではないけど、気になってたのだ。
「あぁ、僕は生まれた時から病弱で、死ぬ寸前に頭の中に声が響いて、気がついたら夢魔になってたんだ」
「私と一緒……。じゃあ、この世界とは違うところから来たんですか?」
「さぁ? そもそも僕は家から出たことがなかったから、外の世界はどこも馴染みがなかったし。でも、習った地理も歴史も通用しなかったから、異世界なのかな? エマも異世界から来たの?」
「はい。ここと全然違う世界です。夢魔もいないし、魔法もない世界だったんです」
「へー、そうなんだ。じゃあ、違和感半端ないね」
目を丸くして、ルシードは私を見た。
ってことは、ルシードの世界はこことあまり変わらなかったのかな?
「僕の方は常識的なことはあまり違わなかったから、特に違和感はなかったよ。どちらかというと自分の身に起きた変化の方が激しかったし。歩いても走っても苦しくないのが不思議だった」
「じゃあ、夢魔になってよかったと思いました?」
「うん、すべてから自由になれた気がしたよ」
彼は言葉とは裏腹に苦い表情を浮かべた。
人間の頃はつらかったのかなとなんとなく思った。
「そんな話はいいから、もっと楽しい話をしようよ」
あまり突っ込んでほしくなさそうだったので、私は頷いて、話題を変えることにした。
「んー、そうだ、ルシードはなんでお金を持ってるんですか?」
「あぁ、たまに暇つぶしに売り子とかをしているからね」
「えっ、ルシード、働いてるんですか?」
「いつもじゃないよ? ほら、僕はこんな見た目だから、カフェやアクセサリーショップなんかの女性客が多いところを手伝うと客寄せになって重宝されるんだ」
確かに、こんな王子様みたいなウエイターさんがいるカフェなんて評判になりそう。
応対もソフトな感じだし。
「そうだ!夢魔あるあるを教えてあげようか?」
「なんですか?」
「僕達は人間を惹きつけるようにできてるから、人間に執着されて迷惑することも多いんだ」
身に覚えがあって、ドキッとする。
やっぱり夢魔だったせいなんだ。
「……誘拐されそうになりました」
「あぁ、エマは小さくてかわいいもんね。拐いたくなる気持ちはわかる」
大真面目に頷くルシード。
小さいってこの世界に来てからよく言われるけど、160cmはあるんだけどな。
ここの人達が大きいのよ。
「そういう時はどうするんですか?」
「君が馬車でやったのと同じ。魅了で自分の存在を消すんだよ」
「あぁ、なるほど」
「でもね、本気で惚れられたら、それも効かない」
「それじゃあ、どうするんですか?」
私の問いに、ルシードはニヤリと笑った。
「ひたすら逃げるか、捕まるかしかないね」
「捕まる?」
「ひと時、恋人関係になるんだよ」
「ひと時?」
「うん、だって、夢魔と人間の生きる時間は違………あ、君はきっと人間に戻れるよ!」
思わず顔を歪めてしまったのに気づかれて、ルシードが慌てて慰めてくれた。
やっぱり夢魔と人間はずっと一緒にはいられないよね……。
ライアンは夢魔のままでもいいと言ってくれたけど、一方が年を取っていき、もう一方が変わらないままだったら変だもんね。
「夢魔が年を取る方法ってないんですか?」
「ない、と思う……」
「そうですか……」
落ち込む私の頭をルシードがなでてくれる。
「もし夢魔のままで、ライアンと離れないといけなくなったら、僕が一緒にいてあげるよ」
「ありがとうございます。優しいんですね、ルシードは」
「そういうわけじゃないよ……」
私が感謝すると、ルシードは拗ねたようにそっぽを向いた。
照れてるのかな?
「………なんか楽しくない話になったね。話を変えよう。今度はとびっきりのおもしろいやつ」
ルシードは表情を改めて、今度はくすくす笑える話や自分の失敗談なんかを話してくれた。
私の気分を変えるように。
本当に優しいな。
そうしてルシードと時間を過ごしている間に夕方になり、突然、空がピカッと光った後、しばらくして、ド、ドガガガッシャーンとものすごい音がした。
「落雷……?」
「あぁ、落ちたねー」
雷……?ライアンなの……?
その音は一回限りで鎮まり、一網打尽だったのを思わせた。
「あいつ、すごいな。自信満々だったはずだ」
ルシードも同じことを思ったのか、鳥肌が立ったというように腕を擦って、つぶやいた。
「これでそのうち帰ってくるね。真夜中になりそうだけど」
「途中でちゃんと休んでくれるといいのですが……」
「無理じゃない?大急ぎで愛しい君の元に帰ってくるよ」
ルシードはニヤニヤ笑い、私は頬を染めた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる