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森の中で2
夢魔はじめました。
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翌日もひたすら森の中を歩く。
単調な森の中でもライアンと一緒なら、苦痛じゃない。
むしろ、普段より何気ないおしゃべりがいっぱいできて楽しかった。
好きなもの、苦手なもの、考え方……ライアンのいろんなことが知れた。
そうそうライアンは16歳で騎士の資格を得て、今26歳だそうだ。
私が21歳だと言ったら、驚いていた。
16、7だと思ってたみたい。
ここでは16歳から結婚できて、20歳にはだいたい結婚してるらしいから、私は行き遅れになるのね。
ライアンが結婚してないのは「孤児は人気ないんだ」と言っていたけど、縁談自体は普通にあったらしい。
ピンと来なくて、断り続けたらしいけど。
好きなものはなんとお菓子作り。
甘いものが好きだけど、買いに行くのは恥ずかしいからだそうだ。
なんてかわいい理由!
苦手なものは片づけで、独身宿舎の部屋はとても見せられない汚さだって。
意外だわ。
私は逆に掃除が好きだから、「じゃあ、片づけてあげますね」と思わず言っちゃった。
一緒にいること前提で話をしてて図々しいと気づいて慌てた。
でも、ライアンは繋いだ手に力を入れて、「うん、頼むよ」と言ってくれた。
彼の未来の中に私がいるようで、うれしい。
私がにっこり微笑むと、キスが降ってきた。
昼過ぎに、行き着いた小川の辺で休憩していると、ひゅーっとツバメが飛んできた。
「あー、ようやく見つけた!」
ツバメは人の形を取った。
ルシードだ。
「もー、探したよー」
「こっちは待ってないけどな」
ライアンが冷たく言う。
「そんなこと言って、セレナの状況を知りたくないの?せっかく探ってきたのに」
「ルシード、ありがとうございます。どんな様子でしたか?」
「エマは素直だねー。セレナには黒い奴らがうじゃうじゃいたよ。馬車乗り場から見張ってた。途中で降りて正解だったね」
ルシードには昨夜、森を通り抜ける計画について話していた。
姿を見かけないと思ったら、セレナに偵察に行ってくれてたんだ。
感謝の眼差しを向けると、にっこり笑ってくれた。
でも、すぐ真剣な顔つきになって続けた。
「君達の乗ってた馬車の御者や乗客にも赤毛の男はいないか聞いてたよ。みんな曖昧で、いたと言う奴といなかったと言う奴がいるのを不審に思われて、聞き出すうちに途中で降りたと言う奴も現れて、森に入ったのがバレたよ」
「やっぱり私の魅了は中途半端だったんですね……」
「いや、どちらにしてもそのうちバレることだから問題ない」
落ち込む私を、ライアンが慰めてくれる。
「それでアイツらは、森側から追う者とシュトラーセ側で待ち伏せる者と二手に分かれることにしたみたいだよ。うまくしたら挟み撃ちにできるって」
「それは好都合だな。あの荒野なら思う存分魔法で攻撃できる」
ライアンがニヤリと不敵に笑った。
「でも、対策されてない?僕達、夢魔がいるってことも漏れてて、みんな手袋着用で護符なんかの魅了対策をしているって言ってた。ライアンの魔法もなんらかの対策を打たれてるって思った方がいい」
「大丈夫だ。アイツらには火と水の魔法は見せたが、雷魔法は見せてない。苦手なんでな。それだったら対策されてないだろう」
「火に水が使える上に雷まで使えるの?化け物だね。確かに、そこまで使えるとは普通思わないだろうね」
「伊達に魔術の豊富さで近衛隊長までのし上がってないさ」
そもそもアリード王子に目を留められたのも、魔法適正がこんなにある者はなかなかいないということだったらしい。
っていうか、ライアンってば、近衛隊長だったんだ。
すごい……。
「それでも、雷魔法は苦手なんだろ?大丈夫なのか?こちらに向かってるのは10人以上いたよ?」
「ああ、コントロールがいまいちなだけで、威力は問題ない。あの原っぱだったら、多少多めに焼け焦げても大丈夫だろう」
「なるほどね」
ルシードが引き攣った笑いで、敵に回らなくてよかったとつぶやく。
「あ、そうそう!アイツらはもう一人来るのを警戒してたよ」
「なにっ!誰だ?」
「銀髪だって。君達、わかりやすい髪色してるんだね」
「ほっとけ!」
アーデルトにいた刺客から全滅したと聞いていた仲間が、生き残っているらしいと聞いて、ライアンはうれしそうだった。
「銀髪ということはアスランか?確かにあいつなら幻惑魔法が使えるから……」
そして、しばらく考え込んでいたけど、心を決めたようで、ルシードと私を見た。
「俺は荒野に戻って、追手を始末してくる。お前達は俺が戻るまでここで待っててくれ」
「別にいいけど、エマを僕に任せちゃっていいの?」
ルシードがニヤニヤして聞いた。
ライアンは不本意そうに顔を顰めて答えた。
「致し方がない。少なくともお前はエマの嫌がることをしないだろ?」
「わぉ、信頼してくれて、ありがと。まぁ、しょうがないなぁ。任されるよ。でも、僕は精を吸うのと魅了を対策されてるから戦力にはならないからね。さっさと戻ってきてね」
「もちろんだ。ここにテントを張って、結界を発動させておく。不便だろうが、ここから離れないでくれ」
私達は頷いた。
ライアンと離れるのは不安だけど、足手まといにはなりたくない。
ここで大人しく待ってよう。
彼は手早くテントを組み立てて、結界を張ると、半日かけて歩いてきた道を引き返していった。
「補給」と言って、キスを残して。
無事で戻ってきてね。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
単調な森の中でもライアンと一緒なら、苦痛じゃない。
むしろ、普段より何気ないおしゃべりがいっぱいできて楽しかった。
好きなもの、苦手なもの、考え方……ライアンのいろんなことが知れた。
そうそうライアンは16歳で騎士の資格を得て、今26歳だそうだ。
私が21歳だと言ったら、驚いていた。
16、7だと思ってたみたい。
ここでは16歳から結婚できて、20歳にはだいたい結婚してるらしいから、私は行き遅れになるのね。
ライアンが結婚してないのは「孤児は人気ないんだ」と言っていたけど、縁談自体は普通にあったらしい。
ピンと来なくて、断り続けたらしいけど。
好きなものはなんとお菓子作り。
甘いものが好きだけど、買いに行くのは恥ずかしいからだそうだ。
なんてかわいい理由!
苦手なものは片づけで、独身宿舎の部屋はとても見せられない汚さだって。
意外だわ。
私は逆に掃除が好きだから、「じゃあ、片づけてあげますね」と思わず言っちゃった。
一緒にいること前提で話をしてて図々しいと気づいて慌てた。
でも、ライアンは繋いだ手に力を入れて、「うん、頼むよ」と言ってくれた。
彼の未来の中に私がいるようで、うれしい。
私がにっこり微笑むと、キスが降ってきた。
昼過ぎに、行き着いた小川の辺で休憩していると、ひゅーっとツバメが飛んできた。
「あー、ようやく見つけた!」
ツバメは人の形を取った。
ルシードだ。
「もー、探したよー」
「こっちは待ってないけどな」
ライアンが冷たく言う。
「そんなこと言って、セレナの状況を知りたくないの?せっかく探ってきたのに」
「ルシード、ありがとうございます。どんな様子でしたか?」
「エマは素直だねー。セレナには黒い奴らがうじゃうじゃいたよ。馬車乗り場から見張ってた。途中で降りて正解だったね」
ルシードには昨夜、森を通り抜ける計画について話していた。
姿を見かけないと思ったら、セレナに偵察に行ってくれてたんだ。
感謝の眼差しを向けると、にっこり笑ってくれた。
でも、すぐ真剣な顔つきになって続けた。
「君達の乗ってた馬車の御者や乗客にも赤毛の男はいないか聞いてたよ。みんな曖昧で、いたと言う奴といなかったと言う奴がいるのを不審に思われて、聞き出すうちに途中で降りたと言う奴も現れて、森に入ったのがバレたよ」
「やっぱり私の魅了は中途半端だったんですね……」
「いや、どちらにしてもそのうちバレることだから問題ない」
落ち込む私を、ライアンが慰めてくれる。
「それでアイツらは、森側から追う者とシュトラーセ側で待ち伏せる者と二手に分かれることにしたみたいだよ。うまくしたら挟み撃ちにできるって」
「それは好都合だな。あの荒野なら思う存分魔法で攻撃できる」
ライアンがニヤリと不敵に笑った。
「でも、対策されてない?僕達、夢魔がいるってことも漏れてて、みんな手袋着用で護符なんかの魅了対策をしているって言ってた。ライアンの魔法もなんらかの対策を打たれてるって思った方がいい」
「大丈夫だ。アイツらには火と水の魔法は見せたが、雷魔法は見せてない。苦手なんでな。それだったら対策されてないだろう」
「火に水が使える上に雷まで使えるの?化け物だね。確かに、そこまで使えるとは普通思わないだろうね」
「伊達に魔術の豊富さで近衛隊長までのし上がってないさ」
そもそもアリード王子に目を留められたのも、魔法適正がこんなにある者はなかなかいないということだったらしい。
っていうか、ライアンってば、近衛隊長だったんだ。
すごい……。
「それでも、雷魔法は苦手なんだろ?大丈夫なのか?こちらに向かってるのは10人以上いたよ?」
「ああ、コントロールがいまいちなだけで、威力は問題ない。あの原っぱだったら、多少多めに焼け焦げても大丈夫だろう」
「なるほどね」
ルシードが引き攣った笑いで、敵に回らなくてよかったとつぶやく。
「あ、そうそう!アイツらはもう一人来るのを警戒してたよ」
「なにっ!誰だ?」
「銀髪だって。君達、わかりやすい髪色してるんだね」
「ほっとけ!」
アーデルトにいた刺客から全滅したと聞いていた仲間が、生き残っているらしいと聞いて、ライアンはうれしそうだった。
「銀髪ということはアスランか?確かにあいつなら幻惑魔法が使えるから……」
そして、しばらく考え込んでいたけど、心を決めたようで、ルシードと私を見た。
「俺は荒野に戻って、追手を始末してくる。お前達は俺が戻るまでここで待っててくれ」
「別にいいけど、エマを僕に任せちゃっていいの?」
ルシードがニヤニヤして聞いた。
ライアンは不本意そうに顔を顰めて答えた。
「致し方がない。少なくともお前はエマの嫌がることをしないだろ?」
「わぉ、信頼してくれて、ありがと。まぁ、しょうがないなぁ。任されるよ。でも、僕は精を吸うのと魅了を対策されてるから戦力にはならないからね。さっさと戻ってきてね」
「もちろんだ。ここにテントを張って、結界を発動させておく。不便だろうが、ここから離れないでくれ」
私達は頷いた。
ライアンと離れるのは不安だけど、足手まといにはなりたくない。
ここで大人しく待ってよう。
彼は手早くテントを組み立てて、結界を張ると、半日かけて歩いてきた道を引き返していった。
「補給」と言って、キスを残して。
無事で戻ってきてね。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
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