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不安。
夢魔はじめました。
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しばらく経って、熱くなった身体も治まってきた頃、ライアンが料理を持って戻ってきた。
ベッドに膝を抱えて座ってる私を見て、困った顔で「ごめん」とつぶやいた。
私は謝られるようなことをされたのかな……。
男の人だからつい欲情しちゃって、ハッと気づいて止めたってことかな。
今夜のメニューは、白身魚のニンニクバター焼きのようだ。
できたての料理からは香ばしい食欲をそそる匂いがした。
ライアンはベッド脇のテーブルにトレーを置いて座り、ベッドの上の私の口元に一口白身を差し出した。
思わずパクンと食べる。
「おいしい……」
「うん、確かにうまいな」
ライアンは自分の口にも入れ、頷いた。
これで仲直りするつもりかな?
別にケンカしたわけじゃないけど。
なんだか胸がモヤモヤする。
「ここは近くに大きな川があって、海から成魚が遡上してくるから、こうした魚貝類が豊富なんだ」
「そうなんですね。海も近いんですか?」
「近いって言っても、ここに来たぐらい馬車に乗って、西に行かないといけないけどな」
頭の中にこないだ見せてもらった地図が浮かぶ。
なるほど、あの辺りなのね。
「そうしたら、もうすぐ川を渡らないといけないんですね」
「あぁ、明日行く予定のクレドには渡し船があって、それに乗るんだ。暗くなる前に着けたら、渡っておきたいんだが」
話しながらもライアンは、ものすごいスピードで料理を腹に収めていく。
全部食べ終わると、彼は食器を片づけて、私の隣に座った。
頬に手を伸ばされて、ビクッとした。
私の反応にライアンは手を引っ込めた。
「………気まぐれに触ったり、突き放されたりすると、私だって傷つきます」
膝を抱えたまま、拗ねたように言ってみる。
そう、突然放置されて、悲しかった。
途中で手を放すくらいなら、最初から触らないで欲しいと思った。
期待しちゃうから。
「ごめん。突き放したつもりはなかった。傷つけたなら謝る。俺はただ……エマの飢えを利用したくないと思ったんだ」
「飢えを利用?」
思ってもみなかった言葉が出てきて、ライアンを見る。
「エマは、夢魔の本能が出てくると、なんでも受け入れてしまうだろ?お前は飢えさせたら、男にされるがままになりそうだから、そこにつけこみたくないと思って」
あの時、急に止めたのは、そんな理由だったんだ。
でも……。
「私、飢えたら、誰にでも好きにさせると思われてるんですね……」
ライアンが私を思いやってくれたのはわかった。
けど、けど、誰でもいいなんて思われてたんだ。
ひどい……。
でも、今までの夢魔の私の行動を考えると否定はできない。
私は飢えると、ライアン以外の人にでも身体を触らせて、精を奪おうとするのかな?
もしかして、私がライアンに触ってほしいと思うことすら、今そばにいるのがライアンだというだけの理由だったりするのかな。
そう思うと、自分の気持ちにも自信がなくなってきた。
もしそうだとしたら、絶望しかない。
ライアンが私を見て、うろたえた。
「エマ、泣かないでくれ!悪かった。俺は失言ばっかりだな……。誰にでもなんて思ってない。俺だけにしといてくれ!」
彼は私の涙を拭おうとして、さっきの反応を思い出したのか、ハッと手を引っ込める。
私はボロボロと涙を流して、その様子を眺めた。
より一層泣けてきた。
膝に顔をうずめて、泣きじゃくる。
「エマ……」
ライアンが私を抱きあげて、自分の膝に乗せた。
そして、全身で包むように抱きしめてくれた。
「エマ、ごめん。さっき言ったのは、俺の不安の裏返しだ。もしかしたら、エマは俺じゃなくてもいいんじゃないかって……」
「不安……?」
「あぁ。でも、エマは俺だから、こうして触れさせてくれてるって自惚れさせてくれ」
ライアンは私の頬をなで、口づけた。
もちろん、それはイヤじゃない。
でも……。
「さっきまでは、そう、思ってました。でも、もうわからない……。そばにいるから、餌をくれるから、そんな理由で夢魔としての私がライアンを受け入れているだけなのかもしれない……」
ほろりと新たな涙が湧き出てくる。
「自分の感情も感覚も、もうすべてが疑わしくなっちゃいました……」
ライアンが痛ましげに私を見た。
指で涙を拭ってくれる。
「エマ………本当にごめん。お前を大事にしたいと言いたかっただけなのに、こんな風に泣かせてしまうなんて」
両手で私の頬を挟むと、ライアンは私にキスをした。
唇に触れるだけのキスを何度も何度も。
愛しいと言われてるようで、胸が熱くなる。
「……なぁ、今どう感じてる?イヤか?」
「イヤじゃないです」
「これを他の奴としたいか?」
「ムリです!」
ライアンに触れられるのはいつだって心地いい。
でも、同じことを他の人にされると思うと、鳥肌が立つくらい拒否感があった。
「今、そう感じてるのは紛れもなくエマだ。それがエマの気持ちと感覚だというのじゃだめか?………っていうか、夢魔として俺を受け入れてるだけかもとか、悲しいこと言うなよ」
ライアンは確かめるように私の顔を覗き込んだ後、私の肩にがっくりと顔をうずめた。
「そのままのエマは、俺に興味ないのか?俺を必要としてないのか……?」
肩口で彼はつぶやいた。
私は慌てて首を横に振った。
「そんなわけありません!」
甘いキスに、やっぱり好きと思ってるのに……。
うなだれるライアンの頭をなでた。
私が不安に思ってることを、ライアンも不安に思ってるなんて知らなかったわ。
「ライアン……」
私が呼ぶ声に顔を上げた彼に、私は想いを込めて口づけた。
ベッドに膝を抱えて座ってる私を見て、困った顔で「ごめん」とつぶやいた。
私は謝られるようなことをされたのかな……。
男の人だからつい欲情しちゃって、ハッと気づいて止めたってことかな。
今夜のメニューは、白身魚のニンニクバター焼きのようだ。
できたての料理からは香ばしい食欲をそそる匂いがした。
ライアンはベッド脇のテーブルにトレーを置いて座り、ベッドの上の私の口元に一口白身を差し出した。
思わずパクンと食べる。
「おいしい……」
「うん、確かにうまいな」
ライアンは自分の口にも入れ、頷いた。
これで仲直りするつもりかな?
別にケンカしたわけじゃないけど。
なんだか胸がモヤモヤする。
「ここは近くに大きな川があって、海から成魚が遡上してくるから、こうした魚貝類が豊富なんだ」
「そうなんですね。海も近いんですか?」
「近いって言っても、ここに来たぐらい馬車に乗って、西に行かないといけないけどな」
頭の中にこないだ見せてもらった地図が浮かぶ。
なるほど、あの辺りなのね。
「そうしたら、もうすぐ川を渡らないといけないんですね」
「あぁ、明日行く予定のクレドには渡し船があって、それに乗るんだ。暗くなる前に着けたら、渡っておきたいんだが」
話しながらもライアンは、ものすごいスピードで料理を腹に収めていく。
全部食べ終わると、彼は食器を片づけて、私の隣に座った。
頬に手を伸ばされて、ビクッとした。
私の反応にライアンは手を引っ込めた。
「………気まぐれに触ったり、突き放されたりすると、私だって傷つきます」
膝を抱えたまま、拗ねたように言ってみる。
そう、突然放置されて、悲しかった。
途中で手を放すくらいなら、最初から触らないで欲しいと思った。
期待しちゃうから。
「ごめん。突き放したつもりはなかった。傷つけたなら謝る。俺はただ……エマの飢えを利用したくないと思ったんだ」
「飢えを利用?」
思ってもみなかった言葉が出てきて、ライアンを見る。
「エマは、夢魔の本能が出てくると、なんでも受け入れてしまうだろ?お前は飢えさせたら、男にされるがままになりそうだから、そこにつけこみたくないと思って」
あの時、急に止めたのは、そんな理由だったんだ。
でも……。
「私、飢えたら、誰にでも好きにさせると思われてるんですね……」
ライアンが私を思いやってくれたのはわかった。
けど、けど、誰でもいいなんて思われてたんだ。
ひどい……。
でも、今までの夢魔の私の行動を考えると否定はできない。
私は飢えると、ライアン以外の人にでも身体を触らせて、精を奪おうとするのかな?
もしかして、私がライアンに触ってほしいと思うことすら、今そばにいるのがライアンだというだけの理由だったりするのかな。
そう思うと、自分の気持ちにも自信がなくなってきた。
もしそうだとしたら、絶望しかない。
ライアンが私を見て、うろたえた。
「エマ、泣かないでくれ!悪かった。俺は失言ばっかりだな……。誰にでもなんて思ってない。俺だけにしといてくれ!」
彼は私の涙を拭おうとして、さっきの反応を思い出したのか、ハッと手を引っ込める。
私はボロボロと涙を流して、その様子を眺めた。
より一層泣けてきた。
膝に顔をうずめて、泣きじゃくる。
「エマ……」
ライアンが私を抱きあげて、自分の膝に乗せた。
そして、全身で包むように抱きしめてくれた。
「エマ、ごめん。さっき言ったのは、俺の不安の裏返しだ。もしかしたら、エマは俺じゃなくてもいいんじゃないかって……」
「不安……?」
「あぁ。でも、エマは俺だから、こうして触れさせてくれてるって自惚れさせてくれ」
ライアンは私の頬をなで、口づけた。
もちろん、それはイヤじゃない。
でも……。
「さっきまでは、そう、思ってました。でも、もうわからない……。そばにいるから、餌をくれるから、そんな理由で夢魔としての私がライアンを受け入れているだけなのかもしれない……」
ほろりと新たな涙が湧き出てくる。
「自分の感情も感覚も、もうすべてが疑わしくなっちゃいました……」
ライアンが痛ましげに私を見た。
指で涙を拭ってくれる。
「エマ………本当にごめん。お前を大事にしたいと言いたかっただけなのに、こんな風に泣かせてしまうなんて」
両手で私の頬を挟むと、ライアンは私にキスをした。
唇に触れるだけのキスを何度も何度も。
愛しいと言われてるようで、胸が熱くなる。
「……なぁ、今どう感じてる?イヤか?」
「イヤじゃないです」
「これを他の奴としたいか?」
「ムリです!」
ライアンに触れられるのはいつだって心地いい。
でも、同じことを他の人にされると思うと、鳥肌が立つくらい拒否感があった。
「今、そう感じてるのは紛れもなくエマだ。それがエマの気持ちと感覚だというのじゃだめか?………っていうか、夢魔として俺を受け入れてるだけかもとか、悲しいこと言うなよ」
ライアンは確かめるように私の顔を覗き込んだ後、私の肩にがっくりと顔をうずめた。
「そのままのエマは、俺に興味ないのか?俺を必要としてないのか……?」
肩口で彼はつぶやいた。
私は慌てて首を横に振った。
「そんなわけありません!」
甘いキスに、やっぱり好きと思ってるのに……。
うなだれるライアンの頭をなでた。
私が不安に思ってることを、ライアンも不安に思ってるなんて知らなかったわ。
「ライアン……」
私が呼ぶ声に顔を上げた彼に、私は想いを込めて口づけた。
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