夢魔はじめました。

入海月子

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一緒に。

夢魔はじめました。

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 お昼ごはんを終えて、馬車乗り場に戻ってくる。

「この馬車はロイド行きか?」
「そうだよ」
「二人頼む」
「一人3ベルだよ」

 ライアンが普通に私の分まで払おうとするので、私は慌てて10ベル札を出した。

「エマ、気にしなくていいよ」

 ライアンは6ベルジャスト出していたので、御者は私達を見比べていたけど、ライアンの方を手に取った。

「お嬢さん、彼氏に格好つけさせてやりなよ」
「……はい」

 また言われた。
 そうだよね。
 いいと言われてるのに払うと言い張るのは、恥をかかせるのかもしれない。
 バイト先の先輩の場合は迂闊に奢られると、それをネタになにを要求してくるかわからない人だったから、自腹を主張したけど。

 なんとなくしょぼくれてる私の頭をポンポンと叩いて、ライアンは乗車を促した。

 馬車は満員だった。
 かろうじて空いてた席に座る。
 私の隣は中年夫婦、ライアン側は若めの男の人だった。

「ねぇ、あんた達、夫婦なのかい?」

 早速、隣のおばさんが話しかけてきた。

「はい」
「新婚旅行中なんだ」

 ライアンが私の手を握る。

「いいねー!若いねー!でも、あんた、馬車の中ぐらいフードを取ったらどうなんだい?暗いだろ?」

 おばさんがいきなり私のフードをめくった。

「おやまあ、ずいぶんキレイな娘だねぇ」

 大きなおばさんの声に、乗客の目が一斉に集まった。
 恥ずかしくて、私はうつむいた。
 そんな私にフードをかけ直してくれて、ライアンは言った。

「かわいすぎて狙われるから、隠してるんだよ」
「それは悪かったね。確かにかわいいし、ちっちゃいし、簡単に拐われそうだ」
「まぁ、襲ってきた奴は叩きのめしたけどね」

 ライアンが牽制するように言う。

「あんた、強そうだもんね。よかったね、旦那さんが頼りがいがあって」
「はい!」

 頼りがいがあるのは事実なので、笑顔で頷く。

「ロイドにはなにしに行くんだい?」
「シュトラーセ教国に祝福に受けに行く途中なんです」
「あー、なるほどね。私も一度は行ってみたいんだけどね。遠いからねー。私はロイドに住んでる下の娘に子どもが生まれたから、この人と会いに行くんだよ」
「それはおめでとうございます」
「初孫なんだよ。楽しみで楽しみで……」

 おばさんはひとしきり孫への期待を話した後、上の娘さんのところにはなかなか子どもができない話や隣にいる旦那さんへの不満やなんやかんや話し続けた。
 私は圧倒されて、ただただ相槌を打っていた。

 親戚づきあいとか、近所づきあいなんかしたことがなかったから、こんな経験なかったけど、もししてたら、こんな感じだったのかなぁ。

 小休憩で馬車が停まると、私はホッとして、ライアンの後に続いて馬車を下りた。

「大丈夫か?」

 ライアンが顔を覗き込んできた。
 途中、何度か彼が話しかけてくれて、おばさんの弾丸トークを止めようとしてくれたんだけど、まったく止まらなかった。
 私は苦笑して、「この馬車限りの話なら、なんとか耐えられます」と答えた。

 トイレに寄った後、ちょっと外れの方へ行って、キスの補給を受ける。
 なんだか疲れていたようで、ライアンの抱擁が心地いい。

 補給が終わった後も、ライアンにくっついていると、彼は笑って、頬にキスをくれた。

「戻ったら、寝てるフリをするといい」

 労るように頭をなでてくれて、馬車に戻る。
 私は彼のアドバイス通り、「ちょっと疲れました」と言って、目をつぶると、ライアンは肩を引き寄せて、自分の肩に頭を乗せてくれた。

 落ち着く……。

 そうしてると、さすがにおばさんも話しかけてこず、そのうち、本当に寝てしまった。




 馬車の振動が止まって、私は目を覚ました。
 頭にあった重みがふっと消えた。
 ライアンも私の頭にもたれて寝てたみたいだ。

「悪い。重くなかったか?」
「全然。ライアンこそ、肩凝ってないですか?」
「あぁ、大丈夫だ」

 隣のおばさんが降りるときに手を振ってくれた。
 それに手を振り返して、私達も馬車を降りた。

 ロイドの街は近かったようで、まだ夕暮れで明るい。
 近場の宿を目指して、移動した。


「宿代は俺が出すからな。俺も泊まらないといけないんだし」
「わかりました」
「でも、馬車代は自分で出します」
「だけど、そんなに払ってたら260ベルもあっという間になくなってしまうぞ?」
「でも、それはライアンも同じですよね?」
「俺は騎士の給料が分不相応なほどよかったから、金はあるんだ。特に使うこともなかったしな」

 やっぱりライアンは自分のお金から私の旅費を出してくれてたんだ。
 だったらなおさら……。

 私は頭の中で計算した。
 これまでの馬車代って、3~8ベルだった。
 8ベルで高いってライアンが言ってたから、マックス8ベルだとして、アーデルトに行くのに多分2週間くらい。
 14日✕8ベル=112ベル。
 多めに見積もって、これなら、アーデルトまでの馬車代は払えて、半分以上のお金が残るわ。
 アーデルトで暮らす初期費用にはなるかな。

「だったら、出せるところまで出させてください」
「………エマがそう望むなら、わかった」

 ライアンはちょっとさみしそうに言った。

 ごめんね、ライアン。
 私、ずっと一人で生きてきたから、誰かに頼るのが怖いの。
 頼ってしまってからいなくなられたら、もう私は一人では立てなくなってしまいそうで。


 宿が見つかって、部屋に案内される。
 こじんまりとした宿で、お風呂も小さいから、部屋ごとに使える時間が決まってるらしい。
 今ならすぐ使えるそうなので、急いでお風呂の用意をする。
 浴場に行くと、確かに小さい。
 っていうか、家庭用のお風呂並み。
 当然、脱衣所も狭くて、二人並んだらいっぱいになるほど。

 ライアンは護衛のために一緒に来てくれてたけど、先に入っていいと、こないだみたいに背を向けてくれた。

 でも、手が触れそうな距離で裸になるのは恥ずかしい……。

 ぶつからないように服を脱いでると、「なぁ……」と話しかけられた。

「なんですか?」
「毎回これも面倒だし、一緒に入るってなしか?」

 確かに、いつもお互いが横で脱ぎ着したり、お風呂に入ったりするのを脱衣所で待つのも気まずい。
 どうせ裸はもう見られてるし、見てるし……。

「……なしじゃないです」

 あらかた脱いでいた私はそう言うと、残りをさっと脱いで、浴室に逃げ込んだ。

 私が身体を洗ってると、ドアが開いて、ライアンが入ってくる。
 振り返った瞬間に、バッチリと裸を見てしまって、赤くなる。
 やっぱり慣れない。
 ライアンも止まって、私を見て、額に手を当てた。

「俺、バカだ……」
「ライアン……?」
「なんでもない」

 彼は首を振ると、近寄ってきて、横で身体を洗い始める。
 髪を洗ってると、トンと腕がライアンに当たってしまった。

「ごめんなさい!」
「い、いやいい」

 腕が触れただけなのに、ライアンをすごく意識してしまって、身体の奥がキュッと反応する。

 髪の毛を流して、湯船に浸かる。

 気持ちいい……。

 脚を伸ばして、目を細める。

 でも、湯船も小さくて家庭のお風呂の毛が生えた程度の大きさだった。

 ザバッ

 後ろでライアンが入ってきた音がした。
 慌てて、身体を縮めようとすると、「そのままでいい」と言って、後ろから抱きかかえるように座った。
 思わず固まると、「いやか…?」と耳許で囁かれる。
「イヤじゃないです……」と言って、私は身体の力を抜いた。
 ライアンが笑った気配がして、彼にもたれかからせるように身体を引き寄せられた。
 密着した肌が心地いい。

「エマの身体はどこもスベスベで柔らかくて気持ちいいな……」

 ライアンの声が耳をくすぐる。
 そのまま耳に口づけられて、耳殻を甘噛みされ、耳穴を舐られた。

「あっ……ふぅん……」

 恥ずかしい声が漏れる。

 耳を舐めながら、手は私の胸を揉み始める。
 ライアンの手で淫らに形を変えられ、先端を摘まれると、「あ、あんっ、んっ……」と嬌声をあげて、身体をくねらせてしまう。

「お前、どこまで俺に許すつもりだよ……」

 ライアンが掠れた声で囁いた。
 お尻に硬くて熱いものが押しつけられる。

 どこまでって……。

「あんっ……んっ……」

 私は答えられずに喘ぐ。

 片手が胸からおへそを辿って、内腿を撫でる。
 だんだん際どいところに近寄っていくけど、熱に浮かされた私は止められない。

 ライアンは、私の顎を掴んで振り向かせて、キスしようとした。
 そして、私の目を見ると、「クソッ」と言って、いきなり愛撫を止め、立ち上がった。
 支えを失ってひっくり返りそうになった私を抱きあげると、「補給させてやる」と言って、脱衣所に出る。

 私はなにがなんだかわからずに、ぼんやりしていた。
 床に下ろされると、のろのろと身体を拭く。
 火照った身体は、そこからも快楽を拾ってしまって、声を漏らさないように唇を噛んだ。

 夢魔の私が出てきてたのかな……?
 でも、ライアンにもっと触れられたいと思ってたのは私なんだけどな。

 ライアンは黙ったまま、身体を拭くとさっさと服を着ている。
 私も服を身につけると、二人で部屋に戻った。

 部屋に戻るなり、口づけられる。
 唾液を供給されると、少し飢えてたんだなと思うけど、そこまでじゃない。
 いつもより荒々しく口の中を貪られ、溢れそうな唾液を飲み込む。

 ライアンは口を離すと、「悪い……飯取ってくる」と言って、部屋を出ていった。



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