夢魔はじめました。

入海月子

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夢魔の本能

夢魔はじめました。

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 馬車を降りたのは夕暮れ近くだった。
 ライアンは、そのままそこにいた案内人に話しかける。

「シュトラーセ教国方面に行きたいんだが、そっち方面の馬車はあるか?」
「はい。明日7時出発のレーベン行きの馬車があります」
「7時か……。早いな」
「仕方ないですよ。レーベンはそこそこ距離があるから、それでも飛ばしてようやく日暮れに着くぐらいなんです。それが嫌なら、手前の街のクッタ行きの馬車が10時発になっています」
「そうか……」

 ライアンは迷っているようだった。

「早起きならいくらでもしますよ?私、寝起きはいいんです」
「そうだな。じゃあ、レーベン行きにしよう」
「それでは、あちらの御者に予約を取ってください」
「わかった」

 ライアンと私は、指し示された御者の方へ向かった。

「明日のレーベン行きだが、二名乗れるか?」
「大丈夫ですが、これで満員なので、少々窮屈だと思いますが、大丈夫ですか?」

 ライアンか私を伺うので、私は頷いた。

「大丈夫です」
「それなら、お一人8ベルです」
「高いな」
「最近は魔物の動きが活発になっていて、護衛代が嵩むんですよ」

 8ベルの相場がわからない。
 でも、服を買った時、全部合わせて10ベルだったから、高いのかな?
 やっぱり私がいることで、旅費が倍になってしまうから、早くアクセサリーを換金して、旅費ぐらい自分で出したいな。

 ライアンは料金を支払うとチケットをもらった。
 ついでにおすすめの宿を聞く。

「女性を連れているなら、中央広場の一本奥の『アランの宿』が小綺麗でいいと思いますよ。共同ですが、お風呂もありますし」
「アランの宿な。ありがとう」

 暗くなってきたし、このまま宿に向かうことにした。
 教えられた宿はすぐ見つかった。

「二人部屋はあるか?」
「あいにくベッドが一つの部屋しか空いてないんです。その代わり、夫婦用の部屋はベッドが大きいですが」

 若いお兄さんがカウンターにいて、ライアンは彼に話しかけた。
 二人部屋ってツインのことかな?

「じゃあ、そこでいい。あと風呂って先に入れるか?混む前に入りたいんだが」
「今すぐならいいですよ。あ、わかった!一緒に入りたいんでしょ?綺麗な顔してお兄さんも男だねー」
「バレたか」

 宿の人がニヤニヤするのに合わせて、ライアンもニヤッと笑った。

 一緒に!?
 あ、そういうことにするってことよね。
 びっくりした……。

 部屋に案内されながら、ライアンは明日のお弁当まで頼んでいた。

「レーベンだといとこが宿屋を経営してるんです。ぜひ泊まってやってください。パースの紹介と言えば、ちょっとはサービスしてくれると思うんで。馬車通りの東の『カールの宿』っていうんです」
「覚えておこう」

 部屋は案内人が勧めただけあって、古いけど清潔感溢れる部屋だった。

 荷物を置くと、「風呂に行くぞ」とライアンが言った。

「えっ!一緒に?」
「嫌なのか?」
「…………嫌ではないです」
「嫌じゃないのかよ!」

 ライアンが頭を抱えた。
 からかわれただけだと悟って、真っ赤になる。
 嫌じゃないとか言っちゃった……。
 もう、なに口走ってるんだろう。

「脱衣所まで一緒に行く。お前が先に入って、上がったら、俺が入るから、そこで待っとけ。一人でいると狙われそうだからな」

 そっぽを向いたまま、ライアンが早口で言った。
 変なことを言っちゃったのを挽回しようと、反論する。

「でも、今日は誰にも会ってないから目をつけられてはないんじゃないですか?」
「いや、湯上がりに呑気に一人でいたら、絶対に襲われる!エマの湯上がりの姿はエロすぎだからな」

『絶対』『エロすぎ』って……。

 やっぱりブラをつけてないのがよくなかったかな。

「今日はちゃんと下着をつけるから大丈夫です」
「それは当たり前だ!ほら、行くぞ」

 ライアンに促されて、しぶしぶ着替えを持って、お風呂に向かう。

 お風呂には『使用中』かどうかを示す札があって、ライアンはそれを表に向けて、中に入った。

「早く入ってこい」

 紳士的に彼が背中を向けてくれる。
 私は手早く脱いで、お風呂場に入った。
 ドアの外にライアンがいると思うと落ち着かない。
 さっと身体と髪を洗って、湯船に浸かる。
 それから、下着を洗って、絞った。

「お待たせしました」と言って、脱衣所に出ると、振り向いたライアンが赤くなった。

「バカッ、服を着てから声をかけろ!」
「ご、ごめんなさい……」

 急いで服を着て、「もう大丈夫です」と再度声をかけた。

「俺も入ってくるから、ここに座っておけ。結界を張ってるから、ドアを開けるなよ?」
「わかりました」

 私が背を向けると、衣擦れの音がして、ライアンがお風呂場に入っていった。
 私が髪の毛をタオルドライしていると、すぐにライアンが上がってきた。

「もっとゆっくり入ってもいいんですよ?」
「女と違って、そんなに時間がかからないだけだ」

 浴場を出たところで、ちょうどお風呂場に入りに来たらしい男性に会った。
 ねっとりとした視線で見られて、思わずライアンの袖を掴む。
 彼は私を抱き寄せて、これみよがしに髪に口づけた。
 俺のものだと言うように。
 彼は気まずそうに視線を逸らせた。

「風呂は空いたよ」

 ライアンはそう言って、私の腰を抱いたまま部屋に戻った。

「な?危険だろ?」
「はい……」

 襲われるまではないかもしれないけど、一人だったら危なかったかもと実感して、しょんぼりする。
 ライアンが言う通り、エロい身体になったんだな……。

「エマが悪いわけじゃない。気をつけろと言ってるだけだ」

 ライアンは慰めるように頭をポンポンする。

「まだ濡れてるな。乾かしてやる」

 ベッドに腰掛けて、膝の間に私を座らせると、ライアンは私の髪を丁寧に梳きながら、乾かしてくれた。
 そのまま、私の瞳を見て「赤くなってきたな」と言うと、口づけてきた。
 甘い夕ごはんを貪る。
 ライアンとのキスは気持ちよくて、いつまでもしていたくなってしまう。

「そういえば、今さらですが、私が精を分けてもらって、ライアンは大丈夫なんですか?しんどくなるとかないですか?」
「いや、大丈夫だ。特に体調に変化はない。精を吸われすぎなければいいんじゃないか?」
「そうですか。よかった!なにかあったら言ってくださいね」
「わかった」

 私が生きるために誰かを犠牲にするのは嫌だ。
 特にライアンに迷惑をかけることはしたくない。
 他の夢魔に出会えたら、いろいろ聞けるのになぁ。

「俺も飯を食べてくるよ。結界を張っていくから、お前は部屋にいろ」
「はい」



 ライアンがご飯に行ってる間に、歯磨きをしたり、髪を梳いたりして、寝る準備をする。

 コンコン

「俺だ」

 そう言って、ライアンが帰ってきた。
 そして、彼も寝る支度をする。

「ライアン、お願いがあるんですけど……」
「なんだ?」
「下着を洗ったので、乾かしてもらえませんか?」
「あぁ、いいぞ。どれだ?」
「そこの……」

 私はタオルに包んでいた塊を指差すと、ジュンッという微かな音がして、洗濯物が一瞬で乾いた。
 呆気にとられて、「なにしたんですか?」と聞くと、「水分を飛ばした」と言う。
 なんて便利!

「それなら、髪の毛も一瞬で乾かせるんじゃ……」
「バカ、生き物にそんなことしたら、干からびるだろ」
「だから、ゆっくり乾かしてくれてたんですね……。ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことじゃない」

 ライアンは笑って、私の手を引くと、ベッドに連れていった。

「なぁ、俺からもお願いというか、なんと言うか……」
「なんですか?」

 彼は決まり悪そうに視線を逸らせた。

「明日、朝早くから晩までずっと馬車の中だろ?補給も昼ぐらいしかできないから………」

 補給……?
 ワンテンポ遅れて、彼がなにを言いたいか、理解した。
 私は赤くなりながら言った。

「わかりました。口でした方がいいってことですね」
「エマが嫌なら、馬車の中で補給してもいいけど……」

 それって、馬車の中でキスするってことよね?
 それはそれで恥ずかしい。

「嫌じゃありません……」

 でも、さっき晩ごはんをくれたばかりだからか、肝心な夢魔の本能が出てきてなくて、戸惑う。
 前は夢中になってたから、そんなに意識がなかったんだけど、どうやってたっけ?

「俺もエマに触ってもいいか?」
「はい……」

 向かい合って座ると、ライアンがキスして、胸を揉み始める。
 下から掬い上げたり、寄せたり、親指で先端をグリグリしたり。

「ん……あ、ん……んん……」

 気持ちよくて、やらしい声が出てしまう。
 でも、今日は下着をつけてるから、ちょっともどかしい。

 あれれ?
 今、夢魔の本能が出てきてないから、そう思ってるのは素の私……?

 意を決して、私も恐る恐る彼のモノに手を伸ばす。
 布越しでも熱く硬くなってきているのがわかる。
 これを握ってたわよね?
 そっと指先で触れて握ってみる。
 彼がピクリと身じろぎした。
 慌てて手を離す。

「エマ……?」

 私の様子がおかしいと思ったのか、ライアンが手を止めて、私の顔を覗き込んだ。
 多分、彼の瞳には真っ赤な私が映ってる。

「夢魔の本能が出てきてないみたいで………」
「そうか、間隔が短いからまだ飢えてないんだな」
「飢えて……」
「飢えてるエマは……なんと言うか、驚くほど積極的だからな」

 確かに、自分からガツガツ彼を求めてたかも……。
 改めて言われると恥ずかしくてたまらない。

「そうか。素のエマの反応はこうなのか……」

 ライアンは優しい目で私の頰をなでた。

「無理しなくていいよ。今がこんな状態なら、明日一日ぐらいキスで乗り切れるだろう」
「でも、乗り切れなかったら……?」

 満員の馬車の中はお互いが近いだろう。
 そこで、赤い瞳を見られてしまったら……。

「大丈夫です。頑張りますから、しましょう!」
「頑張るって……」

 私は再び彼のモノに手を伸ばした。
 さっきより硬くなくなってる?

 でも、そっと握って擦ると、みるみるさっきの
 硬さを取り戻した。

「ちょっと待て。こんなこと、頑張ってしなくていい!」

 慌てたようにライアンが言う。
 やっぱり彼は優しい。
 でも……。

「馬車の中で夢魔だってバレるのは嫌なんです。あなたにも迷惑がかかってしまいますし」
「大丈夫だ。誤魔化すから!」
「でも!」

 私はウエストから手を入れて、彼のモノを直接触った。
 熱くて硬い。

「うっ、こ、こらっ!」

 ライアンは止めさせようとするけど、私が両手で握って上下に動かすと、力なく呻いた。

 彼の瞳が欲望に染まってくる。

 私を止めようとしていた手が、今度は私の胸元に入っていき、そこを揉み始めた。
 日頃は頼りがいのある彼が、私の手でコントロールを失っていく。
 私は背徳感のある喜びに満たされた。
 自分にこんな感情があったなんて……。

 私はライアンのズボンをずり下げて、彼のモノを露出させると、えいっと口に入れた。
 口の中がそれでいっぱいになる。
 手で残りの部分を握って動かして、先っぽを一生懸命舐めたり吸ったりしてみた。

 そのうち甘い露が出てきて、夢魔の本能が目覚めるのを感じる。
 それからは、求めるものが与えられるまで、夢中でそれに吸いついた。

 口の中が彼の精で溢れると、私の身体は歓喜に慄く。
 粘り気のあるそれをごっくんと飲み干す。
 まだ、もっと……。
 チュウチュウと吸って、最後まで絞り出すと、ライアンが溜息をついた。



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