堅物副社長の容赦ない求愛に絡めとられそうです

入海月子

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1巻

1-3

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   ○●○


 夕食をいただくと、私が洗い物をしている間に、貴さんがお風呂の準備をした。
 彼はセール品の豚肉で、おいしい生姜しょうが焼きを作ってくれた。御曹司もこういう庶民的なものを食べるのね、と彼を身近に感じて、ちょっとほっとした。
 先に貴さんにお風呂に入ってもらって、私は居間でテレビをぼんやり見ていた。
 自宅も和室だったから、床に直接座る生活には馴染なじみがある。
 古民家の木の香りと落ち着いた佇まいに、ただいるだけでゆったりした気分になった。
 まさか、自分で準備してきた古民家宿に自分で泊まることになるとは思っていなかったけど、良さを知るのにいい方法かもしれない。

(それにしても、なんか不思議な感じだなぁ。会ったばかりの人とこうして一緒に暮らすことになるなんて)

 座卓に両手で頬杖をついて、そう考えていた。
 同居の始まりは意外と順調だと思っていたところに――

「うわっ、さ、佐々木さん! 佐々木さん、来てくれ!」

 貴さんの悲鳴のような呼び声がした。
 なにごとかと浴室に急ぐ。

「貴さん? どうしましたか?」

 私が扉をトントンと叩くと、ガラッと引き戸が開いて、上半身裸の貴さんが飛び出してきた。
 引き締まった身体に適度に筋肉がついていて、身体までギリシャ彫刻ちょうこくのようだった。
 男の人の裸なんて当然見たことがなかったけど、しなやかで美しいと思ってしまった。
 しっかり見てしまったあと、我に返った私は「きゃあ」と悲鳴をあげた。
 ボボボッと顔が熱くなる。
 そんな私に構わず、貴さんは「あれ! あれ!」と浴室の隅を指さした。
 昼間より少し大きなクモがいた。怖いのか、眼鏡越しの瞳が揺れている。

「はいはい、クモですね。寒いから入ってきちゃうのかも」

 私はティッシュでつかんで外に出した。

「手! 手で⁉」

 驚愕した様子の貴さんが騒いでいる。
 無表情で冷ややかな普段の様子と正反対で、ちょっとかわいい。
 私は周りを見回し、「もうなにもいないですよ」と安心させるように言った。
 貴さんは同じように確認し、ほっと息をついた。
 そしてすぐに眼鏡のブリッジを指で押し上げ、表情を取りつくろう。

「すまない。それでは、風呂に入ってくる」
「はい。ごゆっくり」

 今さらました顔をしてもと、私はまた噴き出しそうになった。


 貴さんと交代でお風呂に入る。
 ひのき風呂なので、いい香りに包まれて、リラックスできる。お風呂から上がると、居間にまだ貴さんがいた。
 とっくに自室に戻っていると思ったのに。
 水を飲む私を目で追いながら、彼はなにか言いたそうだった。
 紺のやわらかそうな絹地のパジャマを着た貴さんは、昼間の姿と違ってゆったりしているように見えた。あぐらをかいているせいかな。

「あぁ、すまないが……」
「なんでしょうか?」

 言いにくそうに声をかけられ、彼の目を見る。

「寝る前に、寝室のチェックをしてもらいたいのだが」
「あー、それはそうですね!」

 寝室でまた虫に遭遇したら嫌だよね。
 私がうなずくと、貴さんは立ち上がって私を自室に招いた。
 貴さんの部屋に入ると、隅にスーツケースが置いてあったり、テーブルの上にノートパソコンや書類があった。自分で整えたので見慣れた部屋のはずなのに、私物が置いてあると、それだけでもう貴さんの部屋という気がして、ちょっとドキドキする。
 私は隅々まで確認していった。

「大丈夫。なにもいません」
「そうか、ありがとう」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」

 母以外の人におやすみを言って寝るなんて慣れなくて、なんだか気恥ずかしい。
 でも、この儀式は毎日の習慣になった。


   ○●○


 朝起きたら、立派な朝食ができていた。

「お、おはようございます」

 トーストに野菜スープ、キノコとベーコンのオムレツにグリーンサラダ。
 コーヒーのいい香りも漂っている。
 私はいつもトーストにカップスープをつけるか、時間がある時に目玉焼きが加わるくらい。

(女子力半端ない!)

 これが当たり前という顔をして座っている貴さんを、まじまじ見つめてしまった。
 今日も濃紺のスーツがエリート感をかもし出していて、そのお顔はうるわしい。

「おはよう。なにか苦手なものがあったか?」
「いいえ、とてもおいしそうです」
「それなら良かった。食べよう」

 そう言われて、寝起きのまま座卓の前に座ってしまった。

「いただきます」

 手を合わせて、早速オムレツに手を伸ばした。
 フォークで割るとトロッと半熟状の卵が出てくる。
 なんて上級者のオムレツ!
 しかも、塩味のきいたベーコンとまろやかな卵が絡んで、とんでもなくおいしい。

「すごい! これ、レストランクラスの味ですよ!」

 感動した私は興奮して声をあげてしまった。
 貴さんは表情を崩さないまま、眼鏡を上げる。

「大げさだろ」
「いいえ! 本当にすごくおいしいです」
「……それは良かった」

 平坦なトーンで言った貴さんは、確かめるようにオムレツを食べて、ふっと口もとを緩めた。

「不思議だな」
「なにがですか?」
「誰かとこんなふうに食事をしたことなどなかったと思って」
「ご実家でも?」
「あぁ、基本一人だったな。たまに父がいる時は、緊張でガチガチになっていた」
「そう、ですか……」

 家なのに親に緊張するの? お母様は? など疑問はいたけど、聞いていいものかわからず、私は口をつぐんだ。
 視線をさまよわせると、彼の目の下にクマができているのを発見した。

「昨日、もしかして眠れませんでした?」

 やっぱり虫が気になったんだろうかと心配になった。
 もしくは枕が変わると寝られないたちだとか? 貴さんは神経質そうだから、ありえそうだなぁ。

「いや、それはいつものことだ」

 なんてことなさそうに貴さんは答えた。
 常態化しているんだ。気の毒に。
 私なんて、目を閉じたら三秒で寝られる。

「そうなんですね。古民家ショップにハーブのサシェがあるから試してみられますか?」
「ハーブか。アロマは試したことがある」
「いまいちでした?」
「そうだな」

 うなずく貴さんを見て、私と違って繊細だなぁと思った。

「ところで、今日はどうされますか?」

 食後のコーヒーをいただきながら、彼の予定を聞いてみる。返答次第で、私もスケジュールを変えようと思った。昨日聞いておけば良かったんだけど、あまりの非日常の連続に、すっかり忘れていたのだ。

「午前中はリモート会議があるし、片づけたい仕事もあるから、ここにいる」
「じゃあ、午後からこの付近をご案内しましょうか?」
「あぁ、そうしてくれ」
「承知しました」

 コーヒーを飲み終え、お皿を洗っていていく。
 調理用具はすでに貴さんが片づけたようだ。
 本当に綺麗好きらしい。
 顔を洗って、歯を磨いて、今日はなにを着ようかなとぼんやり思う。
 貴さんはちゃんとスーツを着ているけど、うちの会社は服装にはうるさくないので、私はスーツをほとんど着ない。だいたいブラウスにスカート。今の時期は寒いので、カーディガンを羽織っている。もう少しかっちりしている時でもワンピースくらいだ。
 迷った末、今日は綺麗めのワンピースにした。

「それじゃあ、行ってきますね。午後にお迎えに上がります」
「わかった」

 私はいつもより少し遅い時間に家を出た。
 ――家中を二回チェックさせられたから。

(大丈夫かしら? この人をここに残して)

 後ろ髪を引かれる思いで出社したあとは、土産物店の新製品の企画や店頭在庫の相談、準備中の商品のメーカーからの問い合わせなどで午前中をバタバタと過ごした。


   ○●○


「いけない、こんな時間!」

 ふと時計を見ると十二時半を過ぎていて、貴さんとの約束の時間が迫っていた。
 普段はこんなに忙しくはないのに、今日に限って問い合わせが多くて、昼食をとる暇もなかった。

(考えてみたら、今までの仕事に國見コーポレーションとの仕事が加わったんだから、忙しくなるはずよね)

 苦笑しつつ、私はカバンを持って、ホワイトボードに直帰と書いた。

「國見コーポレーションの件で、出かけてきます」
「いってらっしゃい。頼んだよ!」

 社長からプレッシャーをかけられる。
 そりゃあ最善はくすけど、貴さんがどう判断するかはわからないですよ。
 心の中でぼやきながら、車に乗りこんだ。


「お待たせしました。出かけられますか?」
「あぁ、ちょうど切りがいいところだ」

 古民家に戻ると、貴さんは居間でパソコンを開いていた。
 自室では、電波が悪かったらしい。
 落ち着いた様子なので、虫は出なかったようだ。
 良かった良かった。
 思わず貴さんと呼びそうになって、今は仕事中だから國見副社長と呼ぶべきだろうと気づく。

「今日は古い町並みを見ていただいて、その中のショップや昨日ご説明した温泉地まで足を延ばそうと思います」
「わかった。君に任せるよ」

 昨日とは打って変わって素直な返事に、目をまたたく。
 それが伝わったのか、國見副社長は生真面目な顔で言った。

「知っている情報を言葉で重ねられても意味はないが、事前情報があっても実際に現場を見るのとは違う。現地に行くのは初めてだから、君の案内に従うしかないだろう」
「そうですか。じゃあ、行きましょう」

 私たちは連れ立って外へ出た。


 日差しは暖かいものの、今日は風が強い。一際冷たい風が吹いて、ブルッと身をふるわせる。
 ダウンコートにして正解だわ。
 國見副社長を見ると、薄いビジネスコートだった。
 しまった。今日はほとんど徒歩なのに、注意するのを忘れていた。

「寒くないですか? 今日は結構外を歩くので、もし厚手のコートをお持ちなら取りに帰りましょうか?」
「いや、大丈夫だ。寒さには強い」
「そうなんですね。私は寒いのが苦手で」
「そうか」

 國見副社長との会話は、よくこんなふうにぷつんと途切れる。
 思うところがあるわけではなさそうなので、気にしないことにして、まずは資料館になっている古民家の引き戸を開けた。


 次は國見副社長を古民家のショップやレストランに連れていく。店に入るたびに女性店員の目がハートになる。やたらと試食を勧められるので、お昼を食べていないのにお腹がいっぱいになった。
 彼は無感動な目で店を見回してあれこれチェックしているようだったけど、眼鏡をくいっと上げるだけで、なにも言わなかった。

(いいとか悪いとか言ってくれてもいいのに)

 ショップの目玉は、地酒だ。
 天立市は水が綺麗だし、お米もおいしいので、昔から酒作りが行われている。ここで作られるお酒は、つうだけが知っている隠れた銘酒とも言われている。隠れすぎて知名度が全然ないけど。
 実際の酒蔵を店舗として開放して、そこで地酒を売っている。淡麗たんれい辛口のすっきりした味わいは、日本酒をあまり飲まない私でもおいしいと思う。
 私は車を運転するから飲めなかったけど、試飲した國見副社長がうなずいていた。
 お酒は合格点のようで、ほっとする。
 古民家から近いここはいつでも来られるから、これくらいにして温泉地へ車で向かうことにした。
 私の軽の助手席は、足の長い國見副社長には窮屈きゅうくつそうで、申し訳なくなった。

「良かったら席を後ろにずらしてください。後ろに誰かが乗ることはないので」
「あぁ、ありがとう」

 彼がシートをずらして調節したのを確認して、車を発進させた。


 しばらくして、整備中の温泉地へ着いた。
 昨日國見副社長が言っていた通り、ここへのアクセスも考えないといけない。車がないと不便で中途半端な遠さだ。今はバスが一時間に一回しかないし。
 現在、露天風呂、内風呂、休憩所、食事処を作っているところだ。
 昨年温泉がいて、急遽市の予算がついたのだ。
 休憩所と食事処はそれぞれ古民家風の作りにしていて、観光地としての雰囲気を合わせている。

「足湯だけ先に完成しているんです。気持ちいいですよ?」

 温泉に入る時間がない人でも、足湯を楽しめるように、源泉かけ流しの水路を作ってある。
 ヒバの屋根なので、いやされる木の香りも漂う。石のイスを置いていて、座ってゆっくり足湯を楽しめるようにしている。
 タオルとフットカバーの自販機を設置してあるのもこだわりだ。

「このフットカバーを使えば、國見副社長みたいにスーツでも足湯に入れるんです」

 フットカバーというのは、膝丈のビニールの靴下のようなものだ。ゴムで留まるようになっているからずり落ちる心配もない。ストッキングを脱ぐのがイヤな人や、ズボンのすそをまくれない人のためのカバーだ。
 他所で導入していると聞いて、設置してみたのだ。
 私はストッキングの上からフットカバーをつけて足湯に入る。
 戸惑っているところを促すと、ズボンの上に慎重にカバーをつけた國見副社長が隣に腰かけて、足を浸した。
 自分で勧めておいてなんだが、スーツで足湯に入る姿はなかなかシュールだった。

「気持ちいいでしょう?」
「そうだな」

 寒くて縮こまっていた身体が温められて、力が抜ける。
 國見副社長も言葉は少なかったけど、表情が心なしか緩んでいた。
 どうやら足湯は気に入ったようだ。
 そのあと、周囲を案内してから家に帰る。
 一緒の家というのが、なんだか気恥ずかしい。

「なにか買いたい食材はありますか? スーパーが近いので寄っていけますよ」
「そうだな。そうしてもらえるか?」
「わかりました」

 スーパーでも國見副社長は目立っていた。
 視線を集めているのに、彼はまったく構わず、涼しい顔をしている。これだけの美形だから、見られるのに慣れているのかもしれない。
 スーパーのカゴを持って、大根やトマトを吟味している彼の姿はちょっと不思議な感じがした。


(ふぅ、なんだか疲れたな)

 忙しさとまだ慣れない人と過ごした緊張で、古民家に戻ってきた私はベッドに倒れこんだ。
 しばらくでろんとしていると、ノックの音と貴さんの声がした。

「夕食の準備ができた」
「はーい。今行きます」

 本人の希望とはいえ、私が休んでいる間に作ってもらって悪いなと思う。
 座卓の上を見ると、今夜のメニューはポトフだった。
 温かく優しい味は冷えた身体に染み渡った。


   ○●○


「あ~、ようやく休みだ!」

 貴さんをあちこちに案内するかたわら、普段通りの仕事もこなしたり引き継いだりする必要があって、忙しい一週間だった。
 家に帰っても他人と一緒だから、完全には気が抜けない。
 彼も別の仕事があるようで、常に一緒じゃないのは助かるけど。
 土曜日はごろごろと惰眠だみんむさぼろうとしていたのに、八時を過ぎた頃、「わーっ!」という貴さんの悲鳴で飛び起きた。

(また虫かな)

 思った以上に、虫の出現率は高かった。

(刺すこともないし、なんの害もないのになぁ)

 丸まったダンゴムシをつまんで外に出した私に尊敬のまなざしを向けていた貴さんを思い出し、笑う。

「佐々木さん! 佐々木さん! 来てくれ!」

 焦ったような貴さんの声が聞こえた。
 ちなみに、國見副社長と貴さんを使い分けることは早々にあきらめ、貴さんで統一した。

「はいはい、今行きますよ」

 返事をしながら、声のする台所に行く。
 このやり取りにも慣れたものだ。私はのんきに思い、新聞紙に虫を登らせて外に出した。
 貴さんが見てわかるほど、ほっと肩の力を抜いた。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「起こしてしまって、申し訳ない。見たことがなかったから、つい驚いてしまって」

 めずらしく貴さんは言葉を続けた。

「いいえ、半分起きていたので大丈夫です。あれがゲジゲジですよ」
「そうか」

 そんな名前は聞きたくないとばかりに、貴さんは眉をひそめた。
 そして、嫌な記憶を追い出すように首を振ったあと、気を取り直したのか尋ねてきた。

「朝食にするか?」
「そうですね」

 二度寝できそうもないので、起きることにする。
 休日も貴さんが朝食を作ってくれるようだ。
 パジャマ代わりのもこもこの部屋着ワンピースのままだった私は、朝食ができるまでの間に着替えてきた。

「今日は徹底的に掃除をしますね」

 バタートーストを食べながら、貴さんに言った。
 平日は簡単な掃除しかできなかったから、一度隅々まで掃除して、貴さんの悲鳴を少なくしてあげようと思う。

「助かる。できるところは手伝うよ」
「掃除は私の役割だからいいですよ。こうしてご飯を作ってもらっていますし。貴さんの部屋を掃除する時に声をかけますので、ゆっくりしていてください」
「わかった」

 貴さんが生真面目にうなずいた。
 どうやら彼は他人になにかを任せるのが苦手みたい。自分でなにもかもやりたいたちのようだ。
 食事を終えると、私は張り切って、埃を取るふわふわモップと掃除機を出した。
 やり出すと熱中するたちの私は、細かいところまで掃除をしていった。
 古民家は隙間が多く、貴さんが苦手とする客人もいっぱいいた。
 特に、土間は大変なことになっていたので、貴さんに見つかる前に外に出す。


 トントン。

「貴さん、お部屋の掃除をしてよろしいですか?」

 最後に彼の部屋をノックすると、貴さんが引き戸を開けた。
 彼は私の顔を見たとたん、くすっと笑った。
 初めて彼の笑顔を見てびっくりしている私の頬を、貴さんは指でぬぐうようになでた。

「どこをどう掃除したら、顔が黒くなるんだよ」

 優しい手つきに、優しい表情。
 彼がこんな顔をするとは思わず、目を見張った。

慇懃無礼いんぎんぶれいメガネのくせに!)

 ドキドキしてしまって、心の中で悪態をついた。
 貴さんはすぐ笑顔をひっこめて、いつもの無表情になった。
 私も素知らぬ顔で、彼の部屋を掃除した。



   第二章


 十日も経つと、同居生活にも慣れてきた。
 貴さんは相変わらず表情がとぼしいし、自分からしゃべるタイプじゃない。だから、一緒にいてすごく楽しいことがあったわけではなかった。でも、彼の作るご飯はおいしいし、干渉してこないので、一緒に過ごすのは意外と気楽だった。
 潔癖症けっぺきしょう気味なのも食事に関してだけのようで、私が触ったものが触れないなんてこともなく、ほっとした。いちいちそんなのに神経質になられたら過ごしにくいもんね。
 そして、彼のクールな態度はただの言葉足らずだったと次第にわかってきた。

(なんだか不器用そうだしなぁ)

 もうちょっと笑顔があってもいいのに。
 彼の無表情が崩れるのは今のところ虫が出た時だけで、せっかくいい顔なのにもったいないなと思う。

(まぁ、私には関係ないけどね)

 三ヶ月だけの接待係だ。
 積極的に貴さんと仲良くなる必要もないし、なりたいとも思っていない。
 ただ、お互いに気持ち良く暮らせればいいと思うだけだ。
 でも、最初の最悪なイメージと違って、思ったよりかわいらしいところのある彼に少しずつ好感を抱くようになっていた。


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