雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子

文字の大きさ
上 下
3 / 8

どうして来たの?

しおりを挟む
 高校の頃よりさらに背が伸びて、上背があるほうの私でも見上げないといけない。
 彼にバスタオルを渡すと身体を拭いて、入ってきた。
 
「シャワー浴びたら? 風邪引くわ」
 
 十月に入り、数週間前の暑さが嘘のように急に肌寒くなった。身体が冷えているはずだ。
 うなずいた伶をバスルームに案内して、着替えにジャージを出した。私は背が高いし、伶は細身だから、なんとか着られるだろう。
 彼がシャワーを浴びている間にコーヒーを淹れた。

(いったいなんの用なの?)

 久しぶりに伶をまともに見て、胸の高鳴りが収まらない。
 そして、その直後に思い出す。

(そういえば、結婚するんだっけ? その報告に来たとか?)

 そう考えて、気持ちが暗く沈んでいく。
 もういい加減に伶から卒業しなくちゃと、告白された人と付き合ったこともあったけど、キスする段階で無理だった。
 でも、今度こそ、思い切らないといけない。
 胸が締めつけられたように痛んで、苦しくなった。

 髪を拭きながら、伶が風呂からあがってくる。
 細いと思っていたのに、ぴちぴちのジャージに引き締まった筋肉質な身体が浮き彫りだ。短いズボンがサブリナパンツみたいだったけど、それでも伶はかっこよかった。
 大人になった伶に会うのは本当に久しぶりで、つい見惚れそうになって、目を逸らす。

「コーヒー飲む?」
「飲む」

 言葉少なに答えた伶は、今年商社に就職して、忙しくしていると母から聞いていた。
 こんなに無口で大丈夫なんだろうかと心配になるが、彼は器用なたちだから、それなりに仕事をこなしているのだろう。
 テーブルにコーヒーを出し、ソファーに座る。
 伶も隣に座って、コーヒーをすすった。
 沈黙が続く。

「で、なんの用?」

 彼が口を開かないので、私は焦れた。我慢できずに、聞いてしまう。きっと聞きたくない話なのに。
 伶は私をじっと見つめてぼそっと言った。

「……姉弟を止めに来た」

 予想よりひどい話に、目の前が真っ暗になった。
 彼の整った顔を呆然と見つめる。
 長いまつ毛の奥の瞳は思いつめたように私を見ている。

(縁を切りたいってこと? そんなに嫌われてたの?)

 ゴ、ゴー、ザザーッ。

 また一段と雨の音がひどくなった。風の音も加わる。
 でも、その音も私の心を落ち着けることはできなくて、喉が詰まって息ができない。
 伶は眉を曇らせ私の顔に手を伸ばした。知らないうちに頬を流れていた涙を拭ってくれる。
 彼に触れられたのは花火大会以来かもしれない。
 涙を拭った手はそのまま私の頬に留まって、顔を持ち上げた。
 伶の顔が近づく。黒い瞳に私が映っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

ハイスペ男からの猛烈な求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペ男からの猛烈な求愛

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...