雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子

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義弟

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 高校二年生のとき、母が再婚して、相手の連れ子が伶だった。
 ひとつ歳下の伶は整った精悍な顔立ちで、初対面のときには心臓が跳ねた。

(こんなにかっこいい子が弟になるの!?)

 ときめく胸を抑え、私はにっこり笑った。

「これから、よろしく。仲良くしてね」
「あぁ、よろしく」

 そう言ったのに、無口で無愛想な伶はなにを考えているかわからず、私たちは結局仲良い姉弟にはなれなかった。
 私が姉貴風を吹かせても、伶はめんどくさそうに応対するだけだった。
 かならず、相手はしてくれたけど。
 伶はずるいのだ。
 そっけない態度の癖に、ふいに優しさを見せて、私をときめかせる。彼に惹かれずにはいられなかった。
 部活で遅くなった私をさりげなく待ってたり、塾帰りの雨のときには傘を持って迎えに来てくれた。出かけたついでだと言って。
 家に帰る間、ほとんど私がしゃべって、伶は相槌を打つだけだったけど、うれしかった。
 でも、私たちは義理だとしても姉弟だ。
 そんな気持ちを知られるわけにはいかない。
 私は必死で姉ぶって、姉弟の関係を壊さないように頑張った。

 一度だけ二人で花火大会を見にいったことがある。
 私が伶にねだったのだ。どうしても見たいと。
 伶は溜め息混じりにうなずいてくれた。
 当日、張り切って浴衣を着た私をじっと見た伶は、微かに眉をひそめた。
 今思えば、迷惑な姉だったと思う。
 友達に見られたら恥ずかしいと思ったに違いない。
 それでも、人混みにはぐれそうになって掴まれた手の大きさを、その熱さを今でも覚えている。

「危ない!」

 ぶつかられそうになって、肩を引き寄せられ、触れた彼の胸板の硬さにドキッとした。男の人だと意識した。
 花火のことは全然覚えていないのに、そのときの伶の綺麗な横顔は鮮明に思い出せる。
 そういえば、避けられ始めたのはその頃からかもしれない。会話はするけど、目を合わせてくれなくなった。
 「嫌われてるのかな?」と言う私に、母は「思春期だからね」と笑って取り合わなかったけど、そんな伶のそばにいるのがつらくなって、私は大学入学とともに家を出た。
 そのまま就職して二年目。その間、伶とはほとんど会ってない。

(それなのに、どうして突然?)

 目の前の成長した怜を見つめる。
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