騎士団長の幼なじみ

入海月子

文字の大きさ
上 下
4 / 14

あきらめる?②

しおりを挟む
「侯爵様に求められて嫁げるなんて光栄なことだぞ? ……ラディアンくんと将来の約束はしてないんだろ?」

 お父様も私の片想いを知っていて、彼にその気がないのも知っている。

「……はい。そうですね」
「じゃあ、悪いが、明日は二人で出かけるのは中止してくれ。ダンリケ侯爵に顔が立たない」

 はっとした。
 
(もうラディアンと一緒に出かけられないなんて……)

 いつも私の誕生日にはラディアンと一緒に過ごしていた。
 今年ももちろんそうするつもりだった。
 暗黙の了解で私たちは約束すらしてなかった。
 でも、確かに縁談が来ているのに、他の男の人と出かけるなんて許されないだろう。

「はい、承知しました……」

 突然のお別れに衝撃を受けて、胸が痛い。
 私はなんとか絞り出すように声を出し、涙をこらえてうつむいた。


 自室に戻った私は顔を覆った。
 こんなことになるなら、この間、無理にでも迫って、ラディアンのものにしてもらえばよかった。
 せめてそれを良い思い出に侯爵家に嫁いでいくことができたのに。
 もう会えないなんて。
 もう一緒に過ごせないなんて。

「ううん、まだ遅くないわ! 今夜なら……」

 突然ひらめいた。
 ラディアンに告白して思い出をもらおう。それで長年の片想いにケリをつけよう。
 私は心に決めた。

 
 夜になって、ひそかに家を抜け出した私は、隣のブランジ子爵家に行く。
 夜遅い訪問にメイドたちは驚いていたけど、私がラディアンのところを訪れるのはめずらしいことではない。

「ラディアン様はまだお戻りではごさいません」
「いいの。ラディアンを驚かせたくて。誕生日のサプライズよ」
「誕生日なのはマール様のほうなのに?」

 茶目っ気たっぷりに片目をつぶり、秘密よと言うと、みんな笑って納得してくれた。
 妙齢の男女なのに、まるで勘ぐられることがなくて、ひそかに傷ついた。

 私は勝手にラディアンの寝室に忍び込み、ドレスを脱いで、ベッドにもぐり込んだ。
 枕からはほのかにラディアンが匂いがする。
 心臓が早鐘を打つ。
 
(なんて言えばいいのかしら? 誕生日のリクエストって言えばいい?)

 いつもラディアンは誕生日に私の願いを叶えてくれた。
 このところは二人で過ごしたいというリクエストばかりだったけど。
 ラディアンはケーキが美味しいと評判のカフェや花盛りの公園など、私の喜びそうなところを探して連れていってくれた。そして、最後にジュエリーを贈ってくれるのだ。
 節度を保って、夕方には家に送り届けてくれるのがいつも残念だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

処理中です...