騎士団長の幼なじみ

入海月子

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あきらめる?①

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「ラディアン、ベッドまで運んでくれない?」

 私の居室まで運んで、ソファーに下ろそうとしたラディアンに私はねだった。
 うっかり間違いでも起きてくれないかと思ったのだ。
 彼の首に手を回しているので、いつもは見上げる端正な顔がとても近くにある。
 ラディアンは少し目をすがめ、私を流し見た。
 その目つきはとてつもなく色っぽくて、ちょっと期待した。

「……わかった」

 大胆なことを言ってしまって、私は心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていたのに、ラディアンは一瞬止まっただけで、すぐうなずいて、私を寝室に運んでくれた。
 その表情はとても自然で少しの動揺もなかった。
 ベッドに私を下ろしたラディアンにしがみついたままでいたら、彼が覆いかぶさるような体勢になった。それでも彼は私をぶら下げたまま、ポンポンと私の頭を叩いて笑った。

「マールは本当に甘えっこだな」

 完全に子ども扱いだった。
 悲しくなって手を放した。目を伏せてお礼を言う。

「ありがとう、ラディアン。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。かわいいマール。お大事にな」

 するっと指先で私の頬をなでて、ラディアンは寝室を出ていった。
 
(ここまでしてもだめなの……?)

 頬に剣だこのあるガサリとした指の感触が残っている。うれしいけど、切ない。

(ラディアンは私を大事にしてくれている。でも、それは女としてじゃない……)

 私はがっかりして涙をこぼした。
 それでも、私はラディアンをあきらめきれなかった。


 *****


「マール、夕食後、私の執務室まで来なさい。話がある」

 お父様から言われたのは誕生日の前日だった。
 硬い表情のお父様に嫌な予感がした。

「ダンリケ侯爵からお前に縁談が来た」
「縁談?」
「この間の舞踏会でお前を見初めたそうだ」
「いやよ!」

 思わず拒否の言葉が口に出た。
 貴族の娘らしくないふるまいだったけど、ラディアンに恋する私にはとうてい受け入れがたい話だった。

「残念ながら、こちらに拒否権はないのだよ、マール」

 同情するような目でお父様が私を見る。
 ダンリケ侯爵といえば、つい最近侯爵家を継いだ二十歳そこそこの方だ。評判も悪くなく断る理由が見当たらない。それに、そもそも格上の相手からの縁談だからよっぽどのことがないと断れない。
 貴族の結婚なんて意に沿わぬものが多いのはわかっていた。
 それでも、こんなに早いとは思ってもみなかった。

(ラディアン……)

 もうあきらめろということかもしれない。
 明日成人になる私。子どものわがままはもう通用しない。
 先方はなるべく早く嫁いできてほしいそうだ。
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