騎士団長の幼なじみ

入海月子

文字の大きさ
上 下
1 / 14

舞踏会①

しおりを挟む
「あら、騎士団長とマール嬢よ。兄妹みたいでかわいらしいですわ」
「ラディアン様、なんて麗しいの!」
「騎士団長はいつもマール様を本当の妹みたいにかわいがっておいでですわね」
「幼なじみですって。いつもは厳しいお顔なのに、ラディアン様があんなに優しい表情をされるなんて、目の保養だわ」

 舞踏会に現れたラディアンに見惚れたついでに、女性たちがパートナーの私を見て、そう評する。
 女性人気王宮一のラディアンの隣にいたら普通なら嫉妬の目を向けられても仕方ない。でも、彼の態度が家族の親愛以上のものを見せないので、私はまったく気にも留められていなかった。
 安心安全な彼のアクセサリーのような扱いだ。
 普段は騎士団長らしく鋭い目つきのラディアンのめずらしい表情が見られると重宝されているぐらい。
 そっと溜め息をつく。

「どうかしたのか、マール?」

 精悍な顔が私を見下ろした。
 金色の短髪に切れ長の目、深い青の瞳のラディアンはここにいる誰よりかっこいい。
 見慣れている顔なのに、やっぱりときめく。
 そして、いつも私を気づかってくれる優しい幼なじみだ。

「ううん、なんでもないわ」

 私は笑みを浮かべ、かぶりを振った。


 *****


 私はマール・シェルム伯爵令嬢。十七歳。
 幼なじみのラディアンのことが大好き。
 彼は騎士団長でブランジ子爵の三男。出世頭のうえ、容姿端麗でもあるので、あらゆる女性から狙われている。
 たまに浮名を流しているけど、未だに正式な相手は決めておらず、こうして舞踏会では私の相手を務めつづけてくれている。
 十歳も上の彼は私をかわいがってはくれるものの、みんなが言うとおり、妹としか見てなくて、恋愛感情はないらしい。

(童顔なのがいけないのかしら?)

 私はぱっちり二重の大きな目で、かわいらしい顔とよく言われる。焦げ茶の瞳も大きく、ふわふわな茶色の髪の毛と小柄なのも相まって、小動物っぽいらしい。
 一方、ラディアンは昔から背が高く大人っぽかった。常に落ち着いていて、私たちは年齢以上の差で見られた。
 身長だって、152センチしかない私に比べ、がっしりと鍛え上げられた体のラディアンは191センチもある。腕を組んでいても、彼にぶらさがっているようだった。

 タウンハウスが隣同士のシェルム伯爵家とブランジ子爵家とは昔から交流が深く、物心がついた頃から私はラディアンに遊んでもらっていた。
 兄とラディアンは同い年で気が合うようで、たびたび遊びに来たラディアンは私を猫かわいがりしてくれた。
 私も小さい頃から『大きいお兄ちゃん』と彼に懐いてべったりくっついていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

処理中です...