悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!

入海月子

文字の大きさ
上 下
8 / 22

仲良くなっちゃった

しおりを挟む
「ところで、フルーツタルト、ものすごくおいしかったです。あんなのが毎日食べられるなんて、幸せですね」

 言葉の通り、幸せそうな顔で、セシルが微笑んだ。
 かわいい……。この子はなんてかわいく笑うのかしら。
 複雑な気分を隠して、私は話を続けた。

「そうでしょ? うちにもパティシエがいるけど、フルーツタルトはここのが一番おいしいわ。あとはたまに出てくるチーズシフォンケーキもおいしいのよ」
「わぁ、楽しみ! ルビアナ様も甘いものがお好きなんですね」
「そうなの。栄養が偏らないなら、毎食ケーキでいいぐらい」
「ふふっ、それはかなりの甘党ですね。でも、気持ちはわかるかも」
「わかってくれる? うれしい! 今まで賛同してくれる人がいなかったの」
「私はそれがチョコレートですけどね。チョコが一番好きなんです」
「あら、それじゃあ、授業が終わったらサロンに招待するわ。ちょうど街で評判のチョコレートを入手したから、一緒に食べましょ?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「うれしいです!」

 男性陣は甘いものを食べなくはないけど、こうテンションが上がって話すほどでなく、もの足りなかったのだ。
 憧れの女子トークができるチャンスだわ!
 『おいしー!』って盛り上がりたかった私は、唐突にセシルをサロンに誘ってしまった。

 いつも入り浸っているサロンは高級貴族とその招待客のものとされているんだけど、ジュリアン様、リカルド、ダンガルド、今年からラミレスが使っているので、誰も近寄らない、私達専用サロンになっていた。
 セシルをサロンに連れていくと、そこでお茶を飲んでいたジュリアン様を見て、彼女が頬を染めるのを見て後悔した。
 バカね、私は。なにも自らジュリアン様とセシルの接点を増やさなくてもいいのに…。



 セシルは裏表のない本当にいい子だった。聖女なだけあって、癒やし系。
 甘いものの話題から、ほどなく打ち解けて、私に初めての女友達ができた。
 友達って言っていいわよね? まだ早いかしら?

 サロンにセシルが顔を出すようになって、リカルドもダンガルドもラミレスさえも大歓迎だった。
 ラミレスはこれを機会に姉離れするといいわ。
 女友達っていいわね。楽しくって仕方ない。
 私はセシルに夢中になった。ジュリアン様が『少しは僕もかまってよ』と文句を言うほど。

 私達と一緒に行動しているし、聖女ということで、最初はセシルも遠巻きにされていたけど、彼女の親しみやすい人柄にだんだんクラスメートも受け入れていき、気がついたら、私よりみんなと仲よくなっていた。

「ルビアナ様は完璧すぎて、近寄りがたいんですよ」
「私なんて全然完璧じゃないのに」
「うふふ、お茶目でかわいらしいところもあるのにね」
「それも違うわよ」

 私は赤くなる。
 綺麗とは言われるけど、かわいいなんて、ジュリアン様以外に言われたことないわ。

「ほら、そういうところ!」

 セシルがおかしそうに笑う。
 彼女とじゃれているうちに、クラスメートとも少し打ち解けてきた。

 そんな楽しい新学期を送るうちに、私は大事なことを忘れかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

当て馬令嬢からの転身

歪有 絵緖
恋愛
当て馬のように婚約破棄された令嬢、クラーラ。国内での幸せな結婚は絶望的だと思っていたら、父が見つけてきたのは獣人の国の貴族とのお見合いだった。そして出会ったヴィンツェンツは、見た目は大きな熊。けれど、クラーラはその声や見た目にきゅんときてしまう。    幸せを諦めようと思った令嬢が、国を出たことで幸せになれる話。 ムーンライトノベルズからの転載です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

幼馴染の腹黒王太子、自分がテンプレ踏んでることに全然気付いてないので困る。

夏八木アオ
恋愛
◆毒舌で皮肉っぽい王太子のヴィクターと、転生者でめんどくさがりな令嬢ルリア。外面の良い幼馴染二人のラブストーリーです◆ モーズ公爵家の次女、ルリアは幼馴染の王太子ヴィクターに呼び出された。ヴィクターは、彼女が書いた小説のせいで、アメリア嬢との婚約を解消の話が出ているから責任を取れと言う。その上、ルリアは自身がヴィクターの新しい婚約者になったと聞き、婚約解消するために二人で奔走することに…。 ※他サイトにも掲載中

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

隣国に嫁いだちょいぽちゃ王女は帰りたい

恋愛
パンデルム帝国の皇帝の末娘のシンシアはユリカ王国の王太子に政略結婚で嫁ぐことになった。食べることが大好きなシンシアはちょいぽちゃ王女。 しかし王太子であるアルベートにはライラールという恋人がいた。 アルベートは彼女に夢中。 父である皇帝陛下には2年間で嫌になったら帰ってもいいと言われていたので、2年間耐えることにした。 内容はありがちで設定もゆるゆるです。 ラブラブは後半。 よく悪役として出てくる隣国の王女を主役にしてみました。

処理中です...