21 / 43
21.どうして、ここに?①
しおりを挟む
ポロポロ涙をこぼしながら椅子にしがみつき、抵抗していたら、急に長谷川さんの手が離れ、グイッと身体を引き寄せられた。
そして、馴染みのあるさわやかな香りが私を包む。
「この子は僕のものなんだ。勝手に触らないでくれるかな?」
聞いたことないくらい冷たい藤崎さんの声が頭上から聞こえた。
「藤崎さん……?」
「なんであんたが!?」
ここにいるはずのない人の声と体温に驚いて、仰ぎ見る。
優しい手が私を抱きしめ、耳もとに口づけられた。
気持ち悪かった感触を上書きしてもらえたようで、ほっと息を吐く。
「それにこれは明らかに犯罪だよ、長谷川さん」
「い、いや、これは誤解で、希ちゃんが酔っぱらっちゃったから、休ませようと……」
「嫌がる相手を?」
「ちがっ……」
藤崎さんと長谷川さんが冷たいやり取りをしているのに、私は涙でぐしょぐしょになりながら、藤崎さんにしがみついた。
(藤崎さん! 藤崎さん! どうしてここに?)
藤崎さんは安心させるようにギュッと私を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてくれた。
助かったと頭が認識したからか、膝がかくんと崩れた。
手足の力が入らず、ズルズルと崩れ落ちそうになる。
藤崎さんが腰を抱いて支えてくれる。しっかり抱きかかえられ、安堵の息を吐く。
「もう大丈夫だよ」
藤崎さんが髪の毛を優しくなでてくれた。その優しい手つきに新たな涙がこみあげる。
なぐさめるように藤崎さんが目もとに頬にキスをくれた。
その間に、長谷川さんはそろそろと出口に向かって、逃げようとしていた。
「こっちです!」
戸口から新たな声がした。
その声は佐々木さん?
驚いて見ると、彼女に誘導されてきたのはお巡りさんだった。
長谷川さんの顔が強ばる。
「なんだと!?」
「この人がお酒に薬を盛って、この子に乱暴を働こうとしたんです」
「店の奥に連れていこうとしてるのをスルーしてたから、バーテンダーもグルだね」
佐々木さんがお巡りさんに説明して、藤崎さんが補足する。
大事な場面だというのに、そこで私の記憶が途絶えた。
後で聞いたところによると、なんだか嫌な予感がした藤崎さんが佐々木さんに話してみると、佐々木さんの知り合いが長谷川さんの被害にあったばかりだった。なにかの薬を飲まされて暴行されたのだ。
血相を変えた藤崎さんは何度も私に電話してくれていたらしい。でも、接待に入っていた私は全然気がつかなかった。
私に連絡がつかなくて焦った藤崎さんが、ツテをたどってバーを見つけようとしてたところに、被害にあった知り合いから店の名前を聞き出した佐々木さんと合流した。ようやく店に着いたところ、奥に引っ張り込まれようとしていた私を発見して、藤崎さんが助け出してくれ、佐々木さんがお巡りさんを呼びに行ってくれたらしい。
警察は、社長と私の飲んでたカクテルから強力な睡眠薬を検出して、私たちの血液からも同じ成分が検出された。
バーテンダーが長谷川さんの指示で薬を入れたことを自白して、何度か同じことをしたのを認めた。
後のことだけど、佐々木さんの知り合いの被害者も訴えることになり、長谷川さんは逮捕された。
そして、彼はテレビ局を即日懲戒解雇されたらしい。
そうした経緯を私は藤崎さんの腕の中で聞いた。
目を覚まして、ガタガタ震える私を、藤崎さんはずっと抱きしめてくれていた。
「間に合って、本当によかった……」
藤崎さんの声も震えていて、本当に心配してくれていたんだと涙がこぼれた。
温かい胸に頬を寄せ、しがみついていると、だんだん落ち着いてきた。
「藤崎さん、本当にありがとうございます。私、もうダメかと……」
またあの時のことを思い出して、ホロリと涙が溢れる。
無力感、絶望感、嫌悪感に苛まれ、また震えた。
「もう大丈夫だから、思い出さなくていい」
藤崎さんが優しく背中をなでてくれる。唇が目もとを這い、涙を拭ってくれる。
その優しさに甘え、私は彼に訴えた。
「藤崎さん……すごく嫌だったの。気持ち悪かったの」
「うん」
藤崎さんは髪をなでて、優しく聞いてくれる。
「もう大丈夫だよ」
「うん……でも……」
あの時の感触がまだ身体に残っている。
気持ち悪い、あの感触がこびりついている。
(やだやだやだ……)
私は駄々っ子のように目を閉じて首を振った。
「希?」
私は藤崎さんにすがった。
「藤崎さん、上書きして?」
「うん」
彼は優しく私を抱きしめ、腕や背中をさすってくれた。あの場面を見ていたのか、耳もとにもキスを落としてくれる。
でも、まだ足りない。
「藤崎さん、抱いて? 忘れたいの」
訴えた私を藤崎さんは困った顔で見下ろした。
そして、馴染みのあるさわやかな香りが私を包む。
「この子は僕のものなんだ。勝手に触らないでくれるかな?」
聞いたことないくらい冷たい藤崎さんの声が頭上から聞こえた。
「藤崎さん……?」
「なんであんたが!?」
ここにいるはずのない人の声と体温に驚いて、仰ぎ見る。
優しい手が私を抱きしめ、耳もとに口づけられた。
気持ち悪かった感触を上書きしてもらえたようで、ほっと息を吐く。
「それにこれは明らかに犯罪だよ、長谷川さん」
「い、いや、これは誤解で、希ちゃんが酔っぱらっちゃったから、休ませようと……」
「嫌がる相手を?」
「ちがっ……」
藤崎さんと長谷川さんが冷たいやり取りをしているのに、私は涙でぐしょぐしょになりながら、藤崎さんにしがみついた。
(藤崎さん! 藤崎さん! どうしてここに?)
藤崎さんは安心させるようにギュッと私を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてくれた。
助かったと頭が認識したからか、膝がかくんと崩れた。
手足の力が入らず、ズルズルと崩れ落ちそうになる。
藤崎さんが腰を抱いて支えてくれる。しっかり抱きかかえられ、安堵の息を吐く。
「もう大丈夫だよ」
藤崎さんが髪の毛を優しくなでてくれた。その優しい手つきに新たな涙がこみあげる。
なぐさめるように藤崎さんが目もとに頬にキスをくれた。
その間に、長谷川さんはそろそろと出口に向かって、逃げようとしていた。
「こっちです!」
戸口から新たな声がした。
その声は佐々木さん?
驚いて見ると、彼女に誘導されてきたのはお巡りさんだった。
長谷川さんの顔が強ばる。
「なんだと!?」
「この人がお酒に薬を盛って、この子に乱暴を働こうとしたんです」
「店の奥に連れていこうとしてるのをスルーしてたから、バーテンダーもグルだね」
佐々木さんがお巡りさんに説明して、藤崎さんが補足する。
大事な場面だというのに、そこで私の記憶が途絶えた。
後で聞いたところによると、なんだか嫌な予感がした藤崎さんが佐々木さんに話してみると、佐々木さんの知り合いが長谷川さんの被害にあったばかりだった。なにかの薬を飲まされて暴行されたのだ。
血相を変えた藤崎さんは何度も私に電話してくれていたらしい。でも、接待に入っていた私は全然気がつかなかった。
私に連絡がつかなくて焦った藤崎さんが、ツテをたどってバーを見つけようとしてたところに、被害にあった知り合いから店の名前を聞き出した佐々木さんと合流した。ようやく店に着いたところ、奥に引っ張り込まれようとしていた私を発見して、藤崎さんが助け出してくれ、佐々木さんがお巡りさんを呼びに行ってくれたらしい。
警察は、社長と私の飲んでたカクテルから強力な睡眠薬を検出して、私たちの血液からも同じ成分が検出された。
バーテンダーが長谷川さんの指示で薬を入れたことを自白して、何度か同じことをしたのを認めた。
後のことだけど、佐々木さんの知り合いの被害者も訴えることになり、長谷川さんは逮捕された。
そして、彼はテレビ局を即日懲戒解雇されたらしい。
そうした経緯を私は藤崎さんの腕の中で聞いた。
目を覚まして、ガタガタ震える私を、藤崎さんはずっと抱きしめてくれていた。
「間に合って、本当によかった……」
藤崎さんの声も震えていて、本当に心配してくれていたんだと涙がこぼれた。
温かい胸に頬を寄せ、しがみついていると、だんだん落ち着いてきた。
「藤崎さん、本当にありがとうございます。私、もうダメかと……」
またあの時のことを思い出して、ホロリと涙が溢れる。
無力感、絶望感、嫌悪感に苛まれ、また震えた。
「もう大丈夫だから、思い出さなくていい」
藤崎さんが優しく背中をなでてくれる。唇が目もとを這い、涙を拭ってくれる。
その優しさに甘え、私は彼に訴えた。
「藤崎さん……すごく嫌だったの。気持ち悪かったの」
「うん」
藤崎さんは髪をなでて、優しく聞いてくれる。
「もう大丈夫だよ」
「うん……でも……」
あの時の感触がまだ身体に残っている。
気持ち悪い、あの感触がこびりついている。
(やだやだやだ……)
私は駄々っ子のように目を閉じて首を振った。
「希?」
私は藤崎さんにすがった。
「藤崎さん、上書きして?」
「うん」
彼は優しく私を抱きしめ、腕や背中をさすってくれた。あの場面を見ていたのか、耳もとにもキスを落としてくれる。
でも、まだ足りない。
「藤崎さん、抱いて? 忘れたいの」
訴えた私を藤崎さんは困った顔で見下ろした。
0
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる