私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子

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11.メロンパン②

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 駅ビルから出て、使ったことのない階段に誘導されて、そこを下りると外に出た。
 攻防を繰り返したあと結局、手をつながれて、藤崎さんの家に向かった。
 途中、「あ、化粧品とかいるんじゃないの?」と、藤崎さんがまた駅ビルに引き返そうとするので、慌てて「ドラッグストアでいいです」と言うと、「それならこっち」と手を引かれる。
 ファンデーションやチークなどを買ってもらうと、また広い道路の歩道を歩き始める。

「ちゃんと一人で来られるように道を覚えてね」

 そう言われて、目印になるものを覚えようとしたけど、意外にも普通の住居が立ち並ぶだけで特に変わったものはない。らせん状になった階段の辺りから方向を見失い、寄り道もしたので、すでに自信がなかった。
 自慢じゃないけど、私は地図が読めない女なのだ。
 いざとなったらスマホに聞けばいいし。
 それでも迷う自信はあるけど。
 私は覚えるのを放棄した。
 その気配を感じたのか、「希って方向音痴なの?」と聞かれた。

「まぁ、はい。恵比寿って滅多に来ないし、駅ビルの外に出たのも初めてですし」
「この道は駅からひたすら真っ直ぐだよ?」
「そうなんですか? ドラッグストアに寄ったからわからなくなって」
「なるほど、相当方向音痴だね。気をつけることにするよ」

 そんなことを言いつつ歩いていくと十分もいかないうちに、藤崎さんの家が見えた。
 特徴的な形だから、すぐわかった。
 歩いてきた道を振り返る。
 遠くにさっきの駅ビルが見える。

「あ、本当にわかりやすい! 駅からこの道をまっすぐですね」
「そう、わかりやすいでしょ?」

 藤崎さんはおかしそうに微笑んだ。

(っていうか、こんな一等地に持ち家って、どんだけお金持ちなの! やっぱり世界が違うわ……)

 普通のサラリーマン家庭に育った私とはきっと感覚からして違う。
 当たり前のことなのに、なぜか打ちひしがれてしまう。
 そんな私に気づかず、藤崎さんは玄関を入るなり、「希……」と呼んで、キスをした。
 その甘い声に唇に、心が囚われそうになる。
 だんだんキスが深くなっていくから、ジタバタ暴れて、「ちょ、んっ……藤崎、さん!……メロンパン!」とさわいだ。
 すると、藤崎さんは唇を離して、「ハァァァ~」と深い溜め息をついた。

「はいはい。僕はメロンパンより優先順位が低いんだね」

 藤崎さんが拗ねた顔で私を見る。

(……かわいい。そんな顔、初めて見た)

 藤崎さんは大人の男の人って感じで、いつも余裕あるように見えていたから、そんな子どもっぽい顔が新鮮だった。

「だって、焼き立てがおいしいって言ってたから……」

 もう焼き立てでもないだろうけど、ずっと気になってたんだ。
 藤崎さんが私に食べさせたいと思ってくれたメロンパンのことが。
 言い訳をすると、また藤崎さんは溜め息をついた。

「しまったなぁ。買って来なければよかった」

 藤崎さんはブツブツ言いながらも、メロンパンをウェッジウッドのお皿に乗せ、アイスコーヒーも添えて、ソファーの前のローテーブルに出してくれた。

「わぁ、食べていいですか?」
「どうぞ?」
「いただきます!」

 早速メロンパンを頬張った。
 サクッとして、ジュワーと中のバターが口に広がる。
 まだほんのり温かかった。

「おいしい! こんなの食べたことないです!」
「でしょ?」

 私の隣に座った藤崎さんが得意げになり機嫌を治して、目を細めた。そして、自分の分を取り上げ、大きな口でかぶりつく。
 小ぶりで軽い食感のメロンパンなので、二人ともあっという間に食べてしまった。
 感激のおいしさだった。

「ごちそうさまでした。本当においしかったです! ありがとうございました」

 手を合わせて、お礼を言うと、藤崎さんの胸に引き寄せられて、「じゃあ、今度は僕が希を食べる番」と耳もとでささやかれた。
 ぞくんと身体が反応する。
 私は本当に藤崎さんの声に弱い。

「ダメです! 汗くさいから、シャワーを浴びたいです」
「そんなのいいよ。それを含めて味わいたいから」
「変態ちっくですよ!」
「そんなこと、初めて言われた」

 目を丸くした藤崎さんが吹き出した。
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