私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子

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12.お礼①

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 ダメだと言ったのに、藤崎さんは私に口づけ、ソファーに押し倒した。
 いきなり深いキスをされる。

「んっ……ん……。あぁーっ!」

 藤崎さんのキスは気持ちよくて、それに翻弄されながらも、いきなり思い出したことがあって、私は藤崎さんの頬を挟んでキスを止めた。

「そういえば、藤崎さん、ありがとうございました!」
「え、なに?」

 突然止められて驚いた顔の藤崎さん。
 こんな体勢で言うのもなんだけど、ちゃんと言っておかないと気持ちが悪い。
 私は彼の顔を見上げて、お礼を言った。

「SNSのコメントをありがとうございます! おかげで『ブロッサム』がバズってて、すごいんです!」
「あぁ、あれね。あれは……なんでもない」
「?」
「ただ僕が思ってることを書いただけだから」
「でも、このタイミングで書いてもらって有り難いです。社長も大喜びしてました」
「それならよかった」

 藤崎さんは言葉の割におもしろくなさそうな顔をして、私の頬をツンツンとつついた。

「それにしても、君はムードもへったくれもないね。わざとかな?」
「わざとなんて!」

 そんな意図などなく、驚いた私に、藤崎さんは苦笑した。
 「気が削がれたから、ご飯でも食べる?」と身を起こした。

「あ……、ごめんなさい」

 やっぱり今言うことじゃなかったかな……。
 藤崎さんの気分を害しちゃったかしら?
 夢中になるとなにも見えなくなっちゃうのは、私の悪いくせだ。

(こんなふうにムードを壊していったら、すぐに藤崎さんに飽きられるんだろうな……)

 シュンとする私を引っ張り起こして、今度は藤崎さんが私の頬を両手で挟んだ。
 「なんでそんな顔をしてるの?」とキスをする。
 その距離のまま、じっと見つめる。

(もう! そんなに気軽にキスしないでほしい。心臓がもたないから)

 今日だけでも何度キスされただろう? 藤崎さんってキス魔なのかもしれない。
 そんなことを思っていると、藤崎さんは私の唇を意味ありげに触れて、艶っぽく笑う。

「そんな残念そうな顔しなくても、後でたっぷりしてあげるよ」
「残念そうな顔なんてしてません!」

 憤慨する私に、ハハッと笑って、彼はキッチンへ行った。
 私も手伝おうとついて行く。
 こげ茶のキッチンカウンターのついた対面式キッチンは広く、ペールブルーで統一されていた。二人並んでもゆとりがあり、お客さんと話しながら、料理が作れそうだ。
 大きなシルバーの冷蔵庫、ポットや電子レンジさえ、デザイン性のあるもので、スタイリッシュだった。
 辺りを見回している私に、藤崎さんが声をかけてくれる。

「家政婦さんがなにか作ってくれてるから、温めるだけだよ」
「やっぱり家政婦さんがいるんですねー」
「うん、通いでね」

 隅々まできれいだもんなとまたキッチンを見ていると、ちょっとアピールするように藤崎さんが言った。

「自分で作ることもあるけどね」
「え、藤崎さん、料理するんですか?」
「ずっと家にいるから、暇なんだよ。今度、手料理をご馳走しようか?」
「いえ、いいです! 遠慮します!」

 私は慌ててかぶりを振る。
 藤崎東吾の手料理なんて、恐れ多くて食べられないわ!
 そう思ったのに、彼は額に手を当て、不満そうに私を見た。

「……君って本当にひどいな」
「だって、藤崎さんが作った料理なんて、食べるのがもったいないです!」
「なにそれ」

 私の答えが意外だったようで、藤崎さんが苦笑した。
 そして、冷蔵庫から作り置きの料理を取り出し、レンジに入れたり、お鍋のまま入ってたお味噌汁を火にかけたりして、手早く準備をしてくれる。
 ちゃんと二人分用意してあるんだ。

「はい、テーブルを拭いてきて」

 手を出すタイミングがつかめず、ウロウロしてる私に、布巾が差し出された。

「はい!」

 ようやくできた仕事にホッとして、テーブルを拭いて戻ると、すれ違いに藤崎さんは料理を運んだ。
 私も残りのお皿を持っていく。
 メニューは、ご飯、お味噌汁、白身魚の甘酢あん掛け、モヤシのおひたし。佃煮。
 白身魚に乗ったパプリカのオレンジや黄色が目にも鮮やかだし、暑いので、さっぱりメニューがうれしい。

「食べようか?」
「はい、いただきます」

 手を合わせて、食べ始める。
 藤崎さんと隣り合わせにこうして家庭料理を食べてるなんて、不思議。

「そういえば、君は料理はするの?」
「まぁ、ひとり暮らしだから一応はしますよ」
「ご馳走するとは言ってくれないの?」
「だって、こんなにおいしく作れませんし」
「おいしいおいしくないの問題じゃないんだけどな……女の人って、すぐ料理アピールしてくるってイメージがあったけど、君は違うんだね」
「それは狙われてただけですよ」

 私は苦笑いをする。
 今まで数限りなく女の人に狙われてきたんだろうなぁ。
 口説く必要もないくらい。
 しかも、藤崎さんを狙う人なんて、相当レベルが高そう。

「君は狙ってくれないの?」
「そんなの考えたこともないですよ!」
「傷つくなぁ」

 食事の手を止め、藤崎さんが目を伏せるので、慌てて弁解した。

「違いますよ! 私が藤崎さんを狙うなんて恐れ多くて、そんなことを考えることすらしたことがないってことです。私はただのいちファンで充分なので」
「ふ~ん、ただのいちファンね……」

 藤崎さんは頬杖をついて、私をじっと見たあと、深い溜め息をついて、食事を再開した。
 なにか失言ばかりしているみたい。
 そっと彼のほうを窺って、私も口を動かした。
 さっき、メロンパンを食べた割に、甘酢あん掛けがちょうどいい酸味でおいしくて、あっさり完食してしまう。
 お皿をキッチンに持っていくと、藤崎さんが食洗機に次々と入れた。

「お鍋とかはそのままでいいから」
「でも、これくらい洗いますよ?」
「家政婦さんの仕事を取らないで」
「あ、はい」

 藤崎さんに手を引かれて、リビングに戻る。
 ソファーに座った彼の膝に乗せられた。
 身体の線をなぞられて、彼の顔が近づく。

 
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