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15. 幸せな時間①
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「そういえば、あげられる曲が二曲できたけど、選ぶ?」
「もう二曲も?」
「この間作ってた曲だけど、仕掛りはもっとあるよ。聴いてみる?」
「聴きたいです!」
「じゃあ、おいで」と藤崎さんに仕事部屋に連れていかれた。
パソコンの前の椅子に藤崎さんは腰掛けると、手を引いて、私を膝の上に乗せる。
「なんでこんな体勢で?」
「僕が楽しいから」
私の抗議の目をものともせず、藤崎さんはパソコンを操作して、曲を流し始める。
メロディが流れ始めて、慌てて居ずまいを正す。
膝の上だけどね……。
流れてきたのは、藤崎さんの歌付きの曲だ。
ひとつは、この間、歌ってくれた『寝顔』というほのぼのとしてかわいらしい歌。
もうひとつは、ちょっと哀愁を帯びたメロディで、片想いの女の子を思う切ない男の子の心情を歌ったバラード。
まだタイトルはないらしい。
どちらも、ブロッサムの続きの場面と言って通るようなキュンとする恋の歌。
「どちらもすごくいいですね」
「どっちが欲しい?」
どっちも捨てがたいけど、ブロッサムが初恋の喜びを歌った陽の歌だったから、次の曲は、後者の恋の切なさを歌った陰の歌の方がTAKUYAの展開に深みが出る気がする。
『寝顔』という曲も癒し系のTAKUYAの雰囲気にぴったり合ってるんだけどね。
なにより二曲目のほうが私の心に響いた。
職権乱用だけど、どうせ誰にも相談できないから、独断と偏見で決めてしまった。
「じゃあ、二曲目の方をください」
「了解。タイトルはまたあとで考えるよ」
「ありがとうございます!」
藤崎さんは早速DVDに焼いて、渡してくれる。
(こんなにあっさり藤崎さんの曲をもらっちゃっていいのかな?)
うれしいけど、心配になっていると、藤崎さんが言った。
「細かいところは佐々木と相談してね」
「わかりました。リリースのタイミングはお任せしてもらっていいですか? ちょっと先になると思うんですが」
「いいよ。『ブロッサム』が流行ってる間は、それで行きたいもんね」
「そうなんです。ありがとうございます!」
TAKUYAも社長も喜ぶなぁ。
でも、しばらくは隠しておかないと、こんなにすぐ曲がもらえるのはどう考えても怪しまれるよね。
佐々木さんにも相談しないと。
藤崎さんのマネージャーの佐々木さんは、敏感マネージャーだ。美人でとてもかっこいい。
確か、藤崎さんと同い年だって言ってたけど、二人が並ぶと本当に絵になって、見惚れてしまうくらいだ。
二人とも独身だし、お似合いだから、昔から藤崎さんとの噂が絶えない。
前に勇気を出して聞いてみたことがあったけど、二人とも顔を見合わせて「ないない! あり得ない!」と異口同音に言っていた。
でも、わかり合ってる様子は心底うらやましい。
そういえば、藤崎さんをまだ口説いている間に、なぜか佐々木さんに気に入られて、ずいぶん融通を効かせてもらった。
藤崎さんのスケジュールをこっそり教えてもらったおかげで、かなりの頻度で藤崎さんを捕まえて話ができたのだ。
藤崎さんを説得できたのも、佐々木さんのおかげだ。佐々木さんとは『ブロッサム』をもらう過程でも何度もやり取りをしていて、頼れる先輩のようだった。
(……だとしても、今の状況は相談できないなぁ)
佐々木さんに曲のことを話すタイミングも考えなくちゃ。
そう思っていたら、藤崎さんが私の頭をなでて、言った。
「僕はもう少し曲を進めるけど、希はもう寝てていいよ。疲れたでしょ?」
「あまりお邪魔してもいけないし、そうさせてもらいます」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
藤崎さんは、軽くキスをして、私を解放してくれた。
仕事部屋を出て、藤崎さんの寝室に向かう。
藤崎さんのベッド。
今日は使ってないから、きれいにベッドメイキングされている。
(やっぱりここで寝るのよね?)
モソモソとタオルケットにくるまる。ほのかな藤崎さんの香りに包まれて、目を閉じた。
翌朝、目覚めると、藤崎さんの抱き枕にされていた。
胸もとに彼の顔があって、腰に手を回されている。
ぐっすり寝てて、藤崎さんがベッドに入ってきたのも気づかなかった。
こんな状態で熟睡できるなんて、私ってけっこう図々しいわね。
(藤崎さんは何時に寝たのかな? 遅かったのかな?)
起こさないようにそっと、目に掛かっていた髪を払ってあげる。
綺麗な寝顔。
睫毛が驚くほど長くてクルンと上を向いている。
唇は微かに笑っているように上向きのカーブを描いている。
気持ちよさそうに寝息を立てる藤崎さんにキュンとなる。
あの藤崎さんのこんなに近くにいて、一番に曲を聴かせてもらえるなんて、こんなラッキーなことがあるかしら?
なにも考えず、この幸運に浸っていよう。
しばらく藤崎さんの寝顔を堪能していたけど、そろそろ起きたい。
そっと藤崎さんの腕から抜け出して、寝室を出る。
顔を洗って、昨日買ってもらったワンピースを着た。
藤崎さんがたまたま手に取ったワンピースだったけど、すごく好みでかわいい。
でも、それだけにとても高かった。
(自分では絶対買わないなぁ。そんなものを買ってもらってしまって、なんだか申し訳ない)
次はちゃんと着替えを持ってこようと反省した。
「もう二曲も?」
「この間作ってた曲だけど、仕掛りはもっとあるよ。聴いてみる?」
「聴きたいです!」
「じゃあ、おいで」と藤崎さんに仕事部屋に連れていかれた。
パソコンの前の椅子に藤崎さんは腰掛けると、手を引いて、私を膝の上に乗せる。
「なんでこんな体勢で?」
「僕が楽しいから」
私の抗議の目をものともせず、藤崎さんはパソコンを操作して、曲を流し始める。
メロディが流れ始めて、慌てて居ずまいを正す。
膝の上だけどね……。
流れてきたのは、藤崎さんの歌付きの曲だ。
ひとつは、この間、歌ってくれた『寝顔』というほのぼのとしてかわいらしい歌。
もうひとつは、ちょっと哀愁を帯びたメロディで、片想いの女の子を思う切ない男の子の心情を歌ったバラード。
まだタイトルはないらしい。
どちらも、ブロッサムの続きの場面と言って通るようなキュンとする恋の歌。
「どちらもすごくいいですね」
「どっちが欲しい?」
どっちも捨てがたいけど、ブロッサムが初恋の喜びを歌った陽の歌だったから、次の曲は、後者の恋の切なさを歌った陰の歌の方がTAKUYAの展開に深みが出る気がする。
『寝顔』という曲も癒し系のTAKUYAの雰囲気にぴったり合ってるんだけどね。
なにより二曲目のほうが私の心に響いた。
職権乱用だけど、どうせ誰にも相談できないから、独断と偏見で決めてしまった。
「じゃあ、二曲目の方をください」
「了解。タイトルはまたあとで考えるよ」
「ありがとうございます!」
藤崎さんは早速DVDに焼いて、渡してくれる。
(こんなにあっさり藤崎さんの曲をもらっちゃっていいのかな?)
うれしいけど、心配になっていると、藤崎さんが言った。
「細かいところは佐々木と相談してね」
「わかりました。リリースのタイミングはお任せしてもらっていいですか? ちょっと先になると思うんですが」
「いいよ。『ブロッサム』が流行ってる間は、それで行きたいもんね」
「そうなんです。ありがとうございます!」
TAKUYAも社長も喜ぶなぁ。
でも、しばらくは隠しておかないと、こんなにすぐ曲がもらえるのはどう考えても怪しまれるよね。
佐々木さんにも相談しないと。
藤崎さんのマネージャーの佐々木さんは、敏感マネージャーだ。美人でとてもかっこいい。
確か、藤崎さんと同い年だって言ってたけど、二人が並ぶと本当に絵になって、見惚れてしまうくらいだ。
二人とも独身だし、お似合いだから、昔から藤崎さんとの噂が絶えない。
前に勇気を出して聞いてみたことがあったけど、二人とも顔を見合わせて「ないない! あり得ない!」と異口同音に言っていた。
でも、わかり合ってる様子は心底うらやましい。
そういえば、藤崎さんをまだ口説いている間に、なぜか佐々木さんに気に入られて、ずいぶん融通を効かせてもらった。
藤崎さんのスケジュールをこっそり教えてもらったおかげで、かなりの頻度で藤崎さんを捕まえて話ができたのだ。
藤崎さんを説得できたのも、佐々木さんのおかげだ。佐々木さんとは『ブロッサム』をもらう過程でも何度もやり取りをしていて、頼れる先輩のようだった。
(……だとしても、今の状況は相談できないなぁ)
佐々木さんに曲のことを話すタイミングも考えなくちゃ。
そう思っていたら、藤崎さんが私の頭をなでて、言った。
「僕はもう少し曲を進めるけど、希はもう寝てていいよ。疲れたでしょ?」
「あまりお邪魔してもいけないし、そうさせてもらいます」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
藤崎さんは、軽くキスをして、私を解放してくれた。
仕事部屋を出て、藤崎さんの寝室に向かう。
藤崎さんのベッド。
今日は使ってないから、きれいにベッドメイキングされている。
(やっぱりここで寝るのよね?)
モソモソとタオルケットにくるまる。ほのかな藤崎さんの香りに包まれて、目を閉じた。
翌朝、目覚めると、藤崎さんの抱き枕にされていた。
胸もとに彼の顔があって、腰に手を回されている。
ぐっすり寝てて、藤崎さんがベッドに入ってきたのも気づかなかった。
こんな状態で熟睡できるなんて、私ってけっこう図々しいわね。
(藤崎さんは何時に寝たのかな? 遅かったのかな?)
起こさないようにそっと、目に掛かっていた髪を払ってあげる。
綺麗な寝顔。
睫毛が驚くほど長くてクルンと上を向いている。
唇は微かに笑っているように上向きのカーブを描いている。
気持ちよさそうに寝息を立てる藤崎さんにキュンとなる。
あの藤崎さんのこんなに近くにいて、一番に曲を聴かせてもらえるなんて、こんなラッキーなことがあるかしら?
なにも考えず、この幸運に浸っていよう。
しばらく藤崎さんの寝顔を堪能していたけど、そろそろ起きたい。
そっと藤崎さんの腕から抜け出して、寝室を出る。
顔を洗って、昨日買ってもらったワンピースを着た。
藤崎さんがたまたま手に取ったワンピースだったけど、すごく好みでかわいい。
でも、それだけにとても高かった。
(自分では絶対買わないなぁ。そんなものを買ってもらってしまって、なんだか申し訳ない)
次はちゃんと着替えを持ってこようと反省した。
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