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7. 夢じゃなかった①
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翌朝、ピピピという電子音で目覚める。
私は目覚めはいい方で、アラームがあれば、たいがい最初のピで起きる。
今日もぱっちりと目覚めたけれど、なんだか体がだるい。
起き上がろうとしたら、がっつり藤崎さんに抱きこまれていた。
(昨日、藤崎さんに何度も……)
うっかり思い出してしまって、顔がほてる。
それに、藤崎さんの綺麗な寝顔が至近距離にあって、朝から心臓に悪い。
「藤崎さん、藤崎さん、朝ですよ!」
呼びかけてみるけど、ピクリともしない。
肩をトントン叩いて呼びかけても反応なし。
(どうしよう?)
しかも、私たちは裸のままで寝てた。
またも昨日のことを思い出し、藤崎さんの契約の恋人になったことが現実だったと思い知らされる。契約の恋人なのに、昨夜の藤崎さんはとても甘かった……。
(なに思い出してるのよ!)
ひとり悶えながらも、とにかく藤崎さんを起こさないと服を着ることすらできない。
仕事に行かないといけないのに。
「藤崎さん! 藤崎さんってば!」
ちょっと乱暴に揺り動かしたり、ほっぺたをピタピタと触れてみたりすると、ようやく「うーん」という呻き声がしたけど、まだ目は開かない。
「藤崎さん、お願い、起きてください!」
また揺り動かす。起きてくれないと困る。そう思いつつ……。
藤崎さんって、朝は弱いんだ。
そんなささやかな情報がひそかにうれしい、この複雑なファン心理。
「……東吾」
「え?」
ふいに藤崎さんがつぶやいて、私は聞き返した。
「東吾って呼んでって言ったのに……」
目をつぶったまま、藤崎さんが不満そうに言う。
確かに昨夜はそう言ってたけど、それは睦言の間のことだけじゃなかったの?
それとも、寝ぼけてるのかしら?
「じゃあ、東吾さん、起きて!」
「……キスしてくれたら起きる」
「……藤崎さん、起きてますよね?」
私が低い声で言うと、藤崎さんはにやっとして目を開けた。
「さすがの希でも騙されてくれなかったか……目覚めのキスをしてほしかったな」
「もう、ふざけないでください!」
怒ったふりをすると、後頭部を持たれ、チュッとキスされた。
瞬時に顔が熱くなる。藤崎さんはそれに構わず、伸びをして、ようやく起き上がった。
「ご飯食べる余裕ある?」
「ないです」
「しょうがない。着替えて出ようか」
私たちは身支度をして、車で譜道館に向かった。
朝の渋滞時間は過ぎていて、道はそんなに混んでおらず、ほっとした。
でも、通り過ぎる景色に見覚えがあるようなないような、普段電車しか使わない私には自分の位置がさっぱりわからなかった。
すんなり譜道館に着いて、ここまででいいって言ったのに、藤崎さんはついでだから事務所まで送ってくれると言う。
(誰かに見られたらどうするの?)
そう思ってハラハラする私と裏腹に、藤崎さんはまったく無頓着だった。
一緒に譜道館の中までついてきてくれて、私がカバンを回収するのを見届けた。
「よかったね。ちゃんとあって」
「ありがとうございます。助かりました」
家に戻ってる時間はないので、服はあきらめた。幸い、昨日は事務所に顔を出してないから、気づかれないし。
譜道館から事務所への行き方なら当然わかる。もう一度、ここで別れようとするけど、藤崎さんは私の手を引っ張っていき、車に乗せた。藤崎さんはなかなか強引だ。
車が事務所の近くに来ると、さすがに私にもわかった。
そうすると、今度は誰か知り合いに見られないかとハラハラした。
「じゃあ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
目立たないように事務所の裏口の道路で車を停めてもらう。
ペコリとお辞儀をして、誰かが来る前に離れようとしたのに──
「あれー? 希ちゃん、彼氏に送ってもらったの? やるね……って、藤崎さん!?」
……あっさり事務所の先輩に見つかってしまった。
(あーあ)
溜め息をついた私に、いたずらっぽく笑った藤崎さんは手を上げて、去っていった。
残された私は、唖然としている先輩の背中を押して、事務所に入った。
先輩の木崎さんは変な噂を立てる人じゃないけど、ちゃんと言い訳をする。
車の中で万が一、誰かに見られたときのためにそれらしい言い訳を必死で考えていたのだ。考えておいてよかった。
「譜道館に忘れ物を取りに行ったら、ばったり藤崎さんに会って、送ってもらっただけですよ」
「なーんだ、そうだったのか。でも、あの藤崎さんに送ってもらうなんて贅沢だなぁ。ずいぶん仲良くなったんだな」
木崎さんは、藤崎さんと私がどうこうなるはずがないと思ったのか、あっさり信じた。
そうよね。
あり得ないよね。
疑うまでもないという先輩の反応に納得しつつも、チクリと胸が痛んだ。
「仲良くまではなってないけど、おかげさまでそれなりに話してくれるようにはなりました」
うん、仲良くはない。嘘はついてない。
そう自分をごまかして、私は無理やり笑みを浮かべた。
先輩から解放されると私は自分のデスクに座って、パソコンを立ち上げ、メールチェックや、郵便物や書類の整理をした。
昨日一日空けていたので、それなりの量が溜まっている。
ニュースやSNSをチェックして、TAKUYAのライブが好評だったことにホッとする。
特に、藤崎さんに提供してもらった『ブロッサム』について書かれた記事が多かった。
もちろん、高評価の方で。
自分のことのようにうれしくなる。
五日間のライブなので、今日も譜道館だ。
TAKUYAを迎えに行く時間まで、私は事務仕事を片付けた。
私は目覚めはいい方で、アラームがあれば、たいがい最初のピで起きる。
今日もぱっちりと目覚めたけれど、なんだか体がだるい。
起き上がろうとしたら、がっつり藤崎さんに抱きこまれていた。
(昨日、藤崎さんに何度も……)
うっかり思い出してしまって、顔がほてる。
それに、藤崎さんの綺麗な寝顔が至近距離にあって、朝から心臓に悪い。
「藤崎さん、藤崎さん、朝ですよ!」
呼びかけてみるけど、ピクリともしない。
肩をトントン叩いて呼びかけても反応なし。
(どうしよう?)
しかも、私たちは裸のままで寝てた。
またも昨日のことを思い出し、藤崎さんの契約の恋人になったことが現実だったと思い知らされる。契約の恋人なのに、昨夜の藤崎さんはとても甘かった……。
(なに思い出してるのよ!)
ひとり悶えながらも、とにかく藤崎さんを起こさないと服を着ることすらできない。
仕事に行かないといけないのに。
「藤崎さん! 藤崎さんってば!」
ちょっと乱暴に揺り動かしたり、ほっぺたをピタピタと触れてみたりすると、ようやく「うーん」という呻き声がしたけど、まだ目は開かない。
「藤崎さん、お願い、起きてください!」
また揺り動かす。起きてくれないと困る。そう思いつつ……。
藤崎さんって、朝は弱いんだ。
そんなささやかな情報がひそかにうれしい、この複雑なファン心理。
「……東吾」
「え?」
ふいに藤崎さんがつぶやいて、私は聞き返した。
「東吾って呼んでって言ったのに……」
目をつぶったまま、藤崎さんが不満そうに言う。
確かに昨夜はそう言ってたけど、それは睦言の間のことだけじゃなかったの?
それとも、寝ぼけてるのかしら?
「じゃあ、東吾さん、起きて!」
「……キスしてくれたら起きる」
「……藤崎さん、起きてますよね?」
私が低い声で言うと、藤崎さんはにやっとして目を開けた。
「さすがの希でも騙されてくれなかったか……目覚めのキスをしてほしかったな」
「もう、ふざけないでください!」
怒ったふりをすると、後頭部を持たれ、チュッとキスされた。
瞬時に顔が熱くなる。藤崎さんはそれに構わず、伸びをして、ようやく起き上がった。
「ご飯食べる余裕ある?」
「ないです」
「しょうがない。着替えて出ようか」
私たちは身支度をして、車で譜道館に向かった。
朝の渋滞時間は過ぎていて、道はそんなに混んでおらず、ほっとした。
でも、通り過ぎる景色に見覚えがあるようなないような、普段電車しか使わない私には自分の位置がさっぱりわからなかった。
すんなり譜道館に着いて、ここまででいいって言ったのに、藤崎さんはついでだから事務所まで送ってくれると言う。
(誰かに見られたらどうするの?)
そう思ってハラハラする私と裏腹に、藤崎さんはまったく無頓着だった。
一緒に譜道館の中までついてきてくれて、私がカバンを回収するのを見届けた。
「よかったね。ちゃんとあって」
「ありがとうございます。助かりました」
家に戻ってる時間はないので、服はあきらめた。幸い、昨日は事務所に顔を出してないから、気づかれないし。
譜道館から事務所への行き方なら当然わかる。もう一度、ここで別れようとするけど、藤崎さんは私の手を引っ張っていき、車に乗せた。藤崎さんはなかなか強引だ。
車が事務所の近くに来ると、さすがに私にもわかった。
そうすると、今度は誰か知り合いに見られないかとハラハラした。
「じゃあ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
目立たないように事務所の裏口の道路で車を停めてもらう。
ペコリとお辞儀をして、誰かが来る前に離れようとしたのに──
「あれー? 希ちゃん、彼氏に送ってもらったの? やるね……って、藤崎さん!?」
……あっさり事務所の先輩に見つかってしまった。
(あーあ)
溜め息をついた私に、いたずらっぽく笑った藤崎さんは手を上げて、去っていった。
残された私は、唖然としている先輩の背中を押して、事務所に入った。
先輩の木崎さんは変な噂を立てる人じゃないけど、ちゃんと言い訳をする。
車の中で万が一、誰かに見られたときのためにそれらしい言い訳を必死で考えていたのだ。考えておいてよかった。
「譜道館に忘れ物を取りに行ったら、ばったり藤崎さんに会って、送ってもらっただけですよ」
「なーんだ、そうだったのか。でも、あの藤崎さんに送ってもらうなんて贅沢だなぁ。ずいぶん仲良くなったんだな」
木崎さんは、藤崎さんと私がどうこうなるはずがないと思ったのか、あっさり信じた。
そうよね。
あり得ないよね。
疑うまでもないという先輩の反応に納得しつつも、チクリと胸が痛んだ。
「仲良くまではなってないけど、おかげさまでそれなりに話してくれるようにはなりました」
うん、仲良くはない。嘘はついてない。
そう自分をごまかして、私は無理やり笑みを浮かべた。
先輩から解放されると私は自分のデスクに座って、パソコンを立ち上げ、メールチェックや、郵便物や書類の整理をした。
昨日一日空けていたので、それなりの量が溜まっている。
ニュースやSNSをチェックして、TAKUYAのライブが好評だったことにホッとする。
特に、藤崎さんに提供してもらった『ブロッサム』について書かれた記事が多かった。
もちろん、高評価の方で。
自分のことのようにうれしくなる。
五日間のライブなので、今日も譜道館だ。
TAKUYAを迎えに行く時間まで、私は事務仕事を片付けた。
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