私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子

文字の大きさ
上 下
7 / 43

7. 夢じゃなかった①

しおりを挟む
 翌朝、ピピピという電子音で目覚める。
 私は目覚めはいい方で、アラームがあれば、たいがい最初のピで起きる。
 今日もぱっちりと目覚めたけれど、なんだか体がだるい。
 起き上がろうとしたら、がっつり藤崎さんに抱きこまれていた。

(昨日、藤崎さんに何度も……)

 うっかり思い出してしまって、顔がほてる。
 それに、藤崎さんの綺麗な寝顔が至近距離にあって、朝から心臓に悪い。

「藤崎さん、藤崎さん、朝ですよ!」

 呼びかけてみるけど、ピクリともしない。
 肩をトントン叩いて呼びかけても反応なし。

(どうしよう?)

 しかも、私たちは裸のままで寝てた。
 またも昨日のことを思い出し、藤崎さんの契約の恋人になったことが現実だったと思い知らされる。契約の恋人なのに、昨夜の藤崎さんはとても甘かった……。

(なに思い出してるのよ!)

 ひとり悶えながらも、とにかく藤崎さんを起こさないと服を着ることすらできない。
 仕事に行かないといけないのに。

「藤崎さん! 藤崎さんってば!」

 ちょっと乱暴に揺り動かしたり、ほっぺたをピタピタと触れてみたりすると、ようやく「うーん」という呻き声がしたけど、まだ目は開かない。

「藤崎さん、お願い、起きてください!」

 また揺り動かす。起きてくれないと困る。そう思いつつ……。
 藤崎さんって、朝は弱いんだ。
 そんなささやかな情報がひそかにうれしい、この複雑なファン心理。

「……東吾」
「え?」

 ふいに藤崎さんがつぶやいて、私は聞き返した。

「東吾って呼んでって言ったのに……」

 目をつぶったまま、藤崎さんが不満そうに言う。
 確かに昨夜はそう言ってたけど、それは睦言の間のことだけじゃなかったの?
 それとも、寝ぼけてるのかしら?

「じゃあ、東吾さん、起きて!」
「……キスしてくれたら起きる」
「……藤崎さん、起きてますよね?」

 私が低い声で言うと、藤崎さんはにやっとして目を開けた。

「さすがの希でも騙されてくれなかったか……目覚めのキスをしてほしかったな」
「もう、ふざけないでください!」

 怒ったふりをすると、後頭部を持たれ、チュッとキスされた。
 瞬時に顔が熱くなる。藤崎さんはそれに構わず、伸びをして、ようやく起き上がった。

「ご飯食べる余裕ある?」
「ないです」
「しょうがない。着替えて出ようか」

 私たちは身支度をして、車で譜道館に向かった。
 朝の渋滞時間は過ぎていて、道はそんなに混んでおらず、ほっとした。
 でも、通り過ぎる景色に見覚えがあるようなないような、普段電車しか使わない私には自分の位置がさっぱりわからなかった。
 すんなり譜道館に着いて、ここまででいいって言ったのに、藤崎さんはついでだから事務所まで送ってくれると言う。

(誰かに見られたらどうするの?)

 そう思ってハラハラする私と裏腹に、藤崎さんはまったく無頓着だった。
 一緒に譜道館の中までついてきてくれて、私がカバンを回収するのを見届けた。

「よかったね。ちゃんとあって」
「ありがとうございます。助かりました」

 家に戻ってる時間はないので、服はあきらめた。幸い、昨日は事務所に顔を出してないから、気づかれないし。
 譜道館から事務所への行き方なら当然わかる。もう一度、ここで別れようとするけど、藤崎さんは私の手を引っ張っていき、車に乗せた。藤崎さんはなかなか強引だ。
 車が事務所の近くに来ると、さすがに私にもわかった。
 そうすると、今度は誰か知り合いに見られないかとハラハラした。

「じゃあ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」

 目立たないように事務所の裏口の道路で車を停めてもらう。
 ペコリとお辞儀をして、誰かが来る前に離れようとしたのに──

「あれー? 希ちゃん、彼氏に送ってもらったの? やるね……って、藤崎さん!?」

 ……あっさり事務所の先輩に見つかってしまった。

(あーあ)

 溜め息をついた私に、いたずらっぽく笑った藤崎さんは手を上げて、去っていった。
 残された私は、唖然としている先輩の背中を押して、事務所に入った。
 先輩の木崎さんは変な噂を立てる人じゃないけど、ちゃんと言い訳をする。
 車の中で万が一、誰かに見られたときのためにそれらしい言い訳を必死で考えていたのだ。考えておいてよかった。 

「譜道館に忘れ物を取りに行ったら、ばったり藤崎さんに会って、送ってもらっただけですよ」
「なーんだ、そうだったのか。でも、あの藤崎さんに送ってもらうなんて贅沢だなぁ。ずいぶん仲良くなったんだな」

 木崎さんは、藤崎さんと私がどうこうなるはずがないと思ったのか、あっさり信じた。
 そうよね。
 あり得ないよね。
 疑うまでもないという先輩の反応に納得しつつも、チクリと胸が痛んだ。

「仲良くまではなってないけど、おかげさまでそれなりに話してくれるようにはなりました」

 うん、仲良くはない。嘘はついてない。
 そう自分をごまかして、私は無理やり笑みを浮かべた。

 先輩から解放されると私は自分のデスクに座って、パソコンを立ち上げ、メールチェックや、郵便物や書類の整理をした。
 昨日一日空けていたので、それなりの量が溜まっている。
 ニュースやSNSをチェックして、TAKUYAのライブが好評だったことにホッとする。
 特に、藤崎さんに提供してもらった『ブロッサム』について書かれた記事が多かった。
 もちろん、高評価の方で。
 自分のことのようにうれしくなる。
 五日間のライブなので、今日も譜道館だ。
 TAKUYAを迎えに行く時間まで、私は事務仕事を片付けた。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...