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3. 契約の恋人
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コーヒーを飲み終えると、藤崎さんはこちらを見て言った。
「これから曲を作るけど、仕事場見る?」
「見たいです!」
藤崎さんが曲を作るところを見られるなんて!と目を輝かせると、またキスをされた。
びっくりして目を瞬く。
藤崎さんは口角を上げ、私の後ろのソファーの背に腕を乗せた。身体が近づき、じっと見つめられた。
「警戒心なさすぎじゃない?」
(確かに……)
自分でもそう思うけど、『憧れの藤崎さん』と思うだけで、私の警戒心が自然と解除になってしまうみたいだ。それに、未だに藤崎さんの家にいるのも信じられないし、こんなに近い距離にいるのも信じられない。
非日常すぎて、夢の中のように思考が鈍くなっている。
そんなことをわかりもしないで、綺麗な顔でいじわるく笑う藤崎さんを睨む。
「だって、ずっとファンだったんだからしょうがないじゃないですか!」
拗ねたように言うと、藤崎さんは意外にも困ったような顔をした、気がした。
どこか楽しんでいるような顔から、笑いが抜けた。
(まさかね……)
びっくりしてると、気を取り直した藤崎さんに手を引っ張られた。
「ほら、仕事場はこっち」
手を引かれて誘導されてきたのは、スタジオのように防音された部屋だった。
ピアノにシンセサイザー、ギター、アンプ、パソコン、マイク、録音設備、そして、仮眠用なのか、カウチソファーもあった。
ここで、一通りのことができるようになっているみたいだ。
個人でこんなに立派なスタジオを持ってるなんて、さすがだった。
(ここが藤崎さんの仕事場! ここであんな素敵な曲が生み出されてるのね!)
私は感動して、興味深く部屋中を見回した。
そんな私を見て、くすっと笑うと藤崎さんはパソコンの前に座った。
「しばらく曲作ってるから、好きにしてて。飽きたらリビングでテレビでも見てていいから。冷蔵庫も勝手に開けていい」
「近くで見ていいですか?」
気が散るかなと思いつつ、好奇心が抑えられず、聞いてみたら、「どうぞ、お好きなように」と横に椅子を並べてくれた。
パソコンを立ち上げた藤崎さんはすぐ集中し始めた。
画面には左側にピアノの鍵盤のようなものが縦に配列され、それに対応したマス目が広がっている。
藤崎さんは、そのマス目に色を付けていっているようだ。
それを見ていても、いったいどんな曲ができているのか、さっぱりわからない。
それでも、藤崎さんの曲作りを見ていると思うだけで、ワクワクした。
一画面が埋まったところで、急に藤崎さんが振り向いて、「ここまでできた分、聴いてみる?」と言った。
うんうんと大きく頷くと、笑みをこぼして、彼はパソコンを操作した。
電子的なピアノ音が流れる。
♪~~♪~♪~~~~♪~
綺麗な旋律。
でも、藤崎さんは顔をしかめて、カチャカチャとさっきの画面で何か修正する。
そして、また再生。
♪~~♪~~♪~~~~♪♪~
さっきとは微妙に変わった。
こうやって作曲していくのね。
それはまるで魔法のようで、作曲風景を初めて見た私は、夢中になった。
でも、藤崎さんの作業を見守っている間に、だんだん眠くなってきた。
音楽を再生してくれるとき以外は、私からしたら謎の模様ができていくだけで、曲を想像すらできない。ライブの準備で忙しく寝不足だった私はうとうとしだした。
座っているイスが沈み込むように身体を包むタイプのチェアーで心地よく、懸命に抵抗したけど、何時の間にか眠りの誘惑に負けてしまった。
♪♪♪
気がつくと、見知らぬベッドで寝ていた。両手を伸ばしても端に触れないほど大きなベッド。ほのかにシトラス・ウッドの香りがする。
天井にはシーリングライト、壁際には間接照明。ブルーグレーの落ち着いた壁紙。見慣れない場所だ。
だんだん意識がはっきりしてくると、がばっと起き上がった。
「起きた?」
すぐそばから藤崎さんの声がした。ベッドの端に腰かけた藤崎さんがいた。
「あ、私、寝ちゃってました? ごめんなさい!」
「別にいいよ。かわいい寝顔のおかげで、また一曲できたから」
そう言って、藤崎さんはおもむろに歌い出す。
今度は歌詞までついたちゃんとした曲。
好きな女の子の寝顔を見て幸せを感じる男の子のキュンとする歌だった。
作ったばかりとは思えない完成度に驚く。
「やっぱり藤崎さんは天才ですねー。私なんかの寝顔でこんな幸せな歌ができちゃうなんて」
「……そうでもないけどね」
私が感心して言うと、藤崎さんは顔を曇らせた。
「なぜか君がいると曲ができるんだ。今日はもう3曲もできたブラッシュアップは必要だけどね。この分だとアルバムもそのうちできるな」
「アルバムを作るんですか!?」
私は食い気味に藤崎さんに迫った。
ずっとアルバムが出ないかなと待ってたから。
私の勢いに目を瞬きながらも、藤崎さんは答えた。
「作りたいと思ってたけど、気に入る曲ができなかったんだ。……だから、手伝ってくれないか?」
藤崎さんが真剣な目で私を見つめる。
熱のこもった瞳に魅了されるように視線を吸い寄せられる。
(もしかして、話ってそれ?)
「言っただろ? 君といると曲が湧いてくるんだ。だから、抱いたらどうなるのかなって。きっとあふれるように音楽が湧いてくるはずだ」
「そんなわけ……」
「あるんだ。ねぇ、僕と契約してくれない?」
「契約?」
「アルバムができるまで、契約の恋人になってよ」
(恋人!?)
藤崎さんの口から甘い言葉が出て、心臓が跳ねたけど、『契約の』と頭についていることに気づいて、スッと熱が冷めた。
それでも、アルバムのことを言われると冷静ではいられなくなる。
藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。
(それが、私がいればできるの? 私を抱いたらできるの?)
契約の恋人なんて、体のいいセックスフレンドだ。わかってる。
絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないと思うのに――
私はうなずいてしまった。
「っ、ありがとう!」
息を呑むようにしたあと、藤崎さんは破顔した。
そして、私に口づけ、そっと押し倒した。
「これから曲を作るけど、仕事場見る?」
「見たいです!」
藤崎さんが曲を作るところを見られるなんて!と目を輝かせると、またキスをされた。
びっくりして目を瞬く。
藤崎さんは口角を上げ、私の後ろのソファーの背に腕を乗せた。身体が近づき、じっと見つめられた。
「警戒心なさすぎじゃない?」
(確かに……)
自分でもそう思うけど、『憧れの藤崎さん』と思うだけで、私の警戒心が自然と解除になってしまうみたいだ。それに、未だに藤崎さんの家にいるのも信じられないし、こんなに近い距離にいるのも信じられない。
非日常すぎて、夢の中のように思考が鈍くなっている。
そんなことをわかりもしないで、綺麗な顔でいじわるく笑う藤崎さんを睨む。
「だって、ずっとファンだったんだからしょうがないじゃないですか!」
拗ねたように言うと、藤崎さんは意外にも困ったような顔をした、気がした。
どこか楽しんでいるような顔から、笑いが抜けた。
(まさかね……)
びっくりしてると、気を取り直した藤崎さんに手を引っ張られた。
「ほら、仕事場はこっち」
手を引かれて誘導されてきたのは、スタジオのように防音された部屋だった。
ピアノにシンセサイザー、ギター、アンプ、パソコン、マイク、録音設備、そして、仮眠用なのか、カウチソファーもあった。
ここで、一通りのことができるようになっているみたいだ。
個人でこんなに立派なスタジオを持ってるなんて、さすがだった。
(ここが藤崎さんの仕事場! ここであんな素敵な曲が生み出されてるのね!)
私は感動して、興味深く部屋中を見回した。
そんな私を見て、くすっと笑うと藤崎さんはパソコンの前に座った。
「しばらく曲作ってるから、好きにしてて。飽きたらリビングでテレビでも見てていいから。冷蔵庫も勝手に開けていい」
「近くで見ていいですか?」
気が散るかなと思いつつ、好奇心が抑えられず、聞いてみたら、「どうぞ、お好きなように」と横に椅子を並べてくれた。
パソコンを立ち上げた藤崎さんはすぐ集中し始めた。
画面には左側にピアノの鍵盤のようなものが縦に配列され、それに対応したマス目が広がっている。
藤崎さんは、そのマス目に色を付けていっているようだ。
それを見ていても、いったいどんな曲ができているのか、さっぱりわからない。
それでも、藤崎さんの曲作りを見ていると思うだけで、ワクワクした。
一画面が埋まったところで、急に藤崎さんが振り向いて、「ここまでできた分、聴いてみる?」と言った。
うんうんと大きく頷くと、笑みをこぼして、彼はパソコンを操作した。
電子的なピアノ音が流れる。
♪~~♪~♪~~~~♪~
綺麗な旋律。
でも、藤崎さんは顔をしかめて、カチャカチャとさっきの画面で何か修正する。
そして、また再生。
♪~~♪~~♪~~~~♪♪~
さっきとは微妙に変わった。
こうやって作曲していくのね。
それはまるで魔法のようで、作曲風景を初めて見た私は、夢中になった。
でも、藤崎さんの作業を見守っている間に、だんだん眠くなってきた。
音楽を再生してくれるとき以外は、私からしたら謎の模様ができていくだけで、曲を想像すらできない。ライブの準備で忙しく寝不足だった私はうとうとしだした。
座っているイスが沈み込むように身体を包むタイプのチェアーで心地よく、懸命に抵抗したけど、何時の間にか眠りの誘惑に負けてしまった。
♪♪♪
気がつくと、見知らぬベッドで寝ていた。両手を伸ばしても端に触れないほど大きなベッド。ほのかにシトラス・ウッドの香りがする。
天井にはシーリングライト、壁際には間接照明。ブルーグレーの落ち着いた壁紙。見慣れない場所だ。
だんだん意識がはっきりしてくると、がばっと起き上がった。
「起きた?」
すぐそばから藤崎さんの声がした。ベッドの端に腰かけた藤崎さんがいた。
「あ、私、寝ちゃってました? ごめんなさい!」
「別にいいよ。かわいい寝顔のおかげで、また一曲できたから」
そう言って、藤崎さんはおもむろに歌い出す。
今度は歌詞までついたちゃんとした曲。
好きな女の子の寝顔を見て幸せを感じる男の子のキュンとする歌だった。
作ったばかりとは思えない完成度に驚く。
「やっぱり藤崎さんは天才ですねー。私なんかの寝顔でこんな幸せな歌ができちゃうなんて」
「……そうでもないけどね」
私が感心して言うと、藤崎さんは顔を曇らせた。
「なぜか君がいると曲ができるんだ。今日はもう3曲もできたブラッシュアップは必要だけどね。この分だとアルバムもそのうちできるな」
「アルバムを作るんですか!?」
私は食い気味に藤崎さんに迫った。
ずっとアルバムが出ないかなと待ってたから。
私の勢いに目を瞬きながらも、藤崎さんは答えた。
「作りたいと思ってたけど、気に入る曲ができなかったんだ。……だから、手伝ってくれないか?」
藤崎さんが真剣な目で私を見つめる。
熱のこもった瞳に魅了されるように視線を吸い寄せられる。
(もしかして、話ってそれ?)
「言っただろ? 君といると曲が湧いてくるんだ。だから、抱いたらどうなるのかなって。きっとあふれるように音楽が湧いてくるはずだ」
「そんなわけ……」
「あるんだ。ねぇ、僕と契約してくれない?」
「契約?」
「アルバムができるまで、契約の恋人になってよ」
(恋人!?)
藤崎さんの口から甘い言葉が出て、心臓が跳ねたけど、『契約の』と頭についていることに気づいて、スッと熱が冷めた。
それでも、アルバムのことを言われると冷静ではいられなくなる。
藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。
(それが、私がいればできるの? 私を抱いたらできるの?)
契約の恋人なんて、体のいいセックスフレンドだ。わかってる。
絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないと思うのに――
私はうなずいてしまった。
「っ、ありがとう!」
息を呑むようにしたあと、藤崎さんは破顔した。
そして、私に口づけ、そっと押し倒した。
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