4 / 6
④
しおりを挟む
◇◇◇
天の理は人間には知られてはいけない。
そのためにダリウスには詳しいことは告げられなかった。
一目でしびれて動けなくなるほど、心を奪われた。
望まぬ人との政略結婚を控え、憂さ晴らしに地上に下りてきたときのことだった。
自分の立場もなにもかも忘れて彼を求めた。そして、与えられた。
新しい名前を、彼のすべてを。
(愛しい人。必ず、戻ります)
キスをして、天に意識を向ける。
浮遊感とともに、見慣れた草原に下り立った。
これから対峙することを思って深呼吸する。決意を固め直すと、白い建物に近づいた。
「シイナフェリス、どこへ行っていたの? 婚礼の日が近いというのに……なんですか、その格好!?」
玄関を入ると、早速、お母様に見咎められた。人間界の衣に身を包んだ私を見て、柳眉を逆立てる。
「お母様、私はもうシイナフェリスではありません。ゴダック様と結婚もできません。純潔も失っております」
「な、な、なんてこと! あなた、いったい……」
静かに事実を告げると、お母様はお顔を真っ赤にされて、絶句した。
そのあと、いつものヒステリックな声で私を罵る。
それでも、もう心を彼のところに置いてきた私にとってはなにも響かず、聞き流した。
「お父様のところに行きます」
堕天の手続きをしてもらって、早くダリウスのもとへ帰りたい。
天界と人間界では時の流れが違う。
ここでの数時間が人間界での何日にもなって、それだけダリウスを心配させてしまう。
「待ちなさい!」
叫ぶお母様を残して、別棟へと移動した。
◇◇◇
シーナが消えて五年が過ぎた。
最初は俺もシーナの言葉を信じて待った。いや、戻るという言葉にすがっていた。
シーナのいない家は空虚で、でも、いつ彼女が戻ってくるかわからないと、俺は長期の依頼を入れるのを止めた。
近場の簡単な依頼をこなし、急いで家に帰る毎日。
扉を開けて、誰も待つ者がいないとわかったときの落胆を日々味わう。
周りには里帰りだと告げていたが、一年も経つ頃には逃げられたんだろうと同情され、三年もすると、しきりに再婚を勧められた。
(シーナ以外に欲しい女はいない)
余計なおせっかいを跳ね除け、ただひたすら待つ。
待つしかできなかった俺は初めてシーナに会った湖にもちょくちょく足を伸ばした。
それでも、シーナはどこにもいなかった。
あのとき、戻ると言ったが、やはり天界の方がよかったのか。
俺のことなど忘れたのだろうか。
天の理は人間には知られてはいけない。
そのためにダリウスには詳しいことは告げられなかった。
一目でしびれて動けなくなるほど、心を奪われた。
望まぬ人との政略結婚を控え、憂さ晴らしに地上に下りてきたときのことだった。
自分の立場もなにもかも忘れて彼を求めた。そして、与えられた。
新しい名前を、彼のすべてを。
(愛しい人。必ず、戻ります)
キスをして、天に意識を向ける。
浮遊感とともに、見慣れた草原に下り立った。
これから対峙することを思って深呼吸する。決意を固め直すと、白い建物に近づいた。
「シイナフェリス、どこへ行っていたの? 婚礼の日が近いというのに……なんですか、その格好!?」
玄関を入ると、早速、お母様に見咎められた。人間界の衣に身を包んだ私を見て、柳眉を逆立てる。
「お母様、私はもうシイナフェリスではありません。ゴダック様と結婚もできません。純潔も失っております」
「な、な、なんてこと! あなた、いったい……」
静かに事実を告げると、お母様はお顔を真っ赤にされて、絶句した。
そのあと、いつものヒステリックな声で私を罵る。
それでも、もう心を彼のところに置いてきた私にとってはなにも響かず、聞き流した。
「お父様のところに行きます」
堕天の手続きをしてもらって、早くダリウスのもとへ帰りたい。
天界と人間界では時の流れが違う。
ここでの数時間が人間界での何日にもなって、それだけダリウスを心配させてしまう。
「待ちなさい!」
叫ぶお母様を残して、別棟へと移動した。
◇◇◇
シーナが消えて五年が過ぎた。
最初は俺もシーナの言葉を信じて待った。いや、戻るという言葉にすがっていた。
シーナのいない家は空虚で、でも、いつ彼女が戻ってくるかわからないと、俺は長期の依頼を入れるのを止めた。
近場の簡単な依頼をこなし、急いで家に帰る毎日。
扉を開けて、誰も待つ者がいないとわかったときの落胆を日々味わう。
周りには里帰りだと告げていたが、一年も経つ頃には逃げられたんだろうと同情され、三年もすると、しきりに再婚を勧められた。
(シーナ以外に欲しい女はいない)
余計なおせっかいを跳ね除け、ただひたすら待つ。
待つしかできなかった俺は初めてシーナに会った湖にもちょくちょく足を伸ばした。
それでも、シーナはどこにもいなかった。
あのとき、戻ると言ったが、やはり天界の方がよかったのか。
俺のことなど忘れたのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
39
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる