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ついにその日が来てしまい、私は国王陛下と王妃様の好物を手に門前まで来てしまった。
何故二人の好物を知っているのかとローランドに怪しまれてしまったが、誤魔化せたかどうか分からないが、適当に答えた覚えがある。
「…………はぁ」
思わずため息を吐いたのは、何を話されるのかが予想できないこととこの城には嫌な思い出しかないからだ。
国王陛下と王妃のミューズ様は『彼女』が現れるまでは『私』に良くしてくださったけれど、それ以降は無関心を貫いていたように思える。
それにはドミニク殿下が心から『彼女』が好きなのだと分かったからなのかもしれない。
頻繁に足を踏み入れても前のようには歓迎されなくなったときから『私』も気付けば良かったのに、それに気付かすにお二人に会いに行っていた覚えがある。
周りを見ていなかったにも程があった、と過去を振り返りながら開けたくない私の気持ちなど知らずに扉は容赦なく開いてしまった。
開いていく扉の中は相変わらず豪華で、足を踏み入れるのも躊躇したくなる。
けれど、そのままというわけにも行かず、ゆっくりと部屋の中に入り、ある一定の場所で頭を深く下げた。
「よく来てくれたね、ローレンス。顔を上げてくれ」
国王陛下に言われ、少し顔を上げた。
久しぶりに聞く国王陛下の声は記憶にあるものと分からないが、少しだけ声が高く感じるのは気のせいか。
「お招きいただき、ありがとうございます。国王陛下、ミューズ様。こうして貴重な機会を頂戴し、大変光栄に思います。先日の音楽祭におかれましても、大変素晴らしい賞をいただき、大変身に余る光栄にございます」
頭を少し下げたまま、そう言い、手に持っていたものを自分の前に出した。
「この度はローランド・ギルアート様にご協力賜り、お二人がお好きだと伺いました品物をお持ちしました」
端から見たら緊張して言いたいことを全て言い尽くしたように見えるだろうが、さっさと終わらせたくて勢いで話してしまっただけなのだが、失礼だっただろうか。
そう思っていると、ミューズ様が品を見て反応してくれた。
「まぁ、よく知っていたわね。私そのお店のお菓子大好きなの」
「本当だね。私もそこのメーカーのものは好きで取り寄せているよ。ありがとう、あとでいただくよ」
二人は朗らかに笑ってそう言ったが、これを知ったのは勿論前の『私』が失礼がないようにと調べぬいたものであって、今の『私』が知るわけがないし、二人とはあまり接点がないローランドでさえ、二人の好みは知らない。
知っているのはドミニク殿下とこの城に勤務している者たちだけだろう。
「賞についてだが、あれは本当に素晴らしかった。昔から音楽は嗜まれていたのい?」
「はい、少しではございますが」
そんなわけない。
私がローレンスになってから音楽を嗜む機会など一度もなかった。
だから、これは全て過去の『私』がひたすら練習を繰り返していたおかげだ。
だけど、そんなこと口が裂けても言えないのでそう答えてみた。
「そんな謙遜しないで?少しだけであんな素晴らしい演奏は出来ないわ」
「ありがとうございます、ミューズ様。けれど、平民の私にはとても頻度よく楽器に触れる機会はないので、本当に少しだけでございまして」
事実、学校での練習しかしていないし。
「そうか、それであんな演奏が出来るとは素質があるのかもしれないね。ときにローレンスは学園での成績も態度も良いと聞くし、品もある。マナーもあるようだし……」
そう言った陛下は、少し言いにくそうに呟いた。
その代わりにミューズ様が困ったように笑いながら私としては恐ろしいお言葉を呟かれた。
「貴女の演奏やお話を聞いてうちの子の婚約者が貴方だったら良かったのに、というお話を私と陛下で話していた所なの」
何故二人の好物を知っているのかとローランドに怪しまれてしまったが、誤魔化せたかどうか分からないが、適当に答えた覚えがある。
「…………はぁ」
思わずため息を吐いたのは、何を話されるのかが予想できないこととこの城には嫌な思い出しかないからだ。
国王陛下と王妃のミューズ様は『彼女』が現れるまでは『私』に良くしてくださったけれど、それ以降は無関心を貫いていたように思える。
それにはドミニク殿下が心から『彼女』が好きなのだと分かったからなのかもしれない。
頻繁に足を踏み入れても前のようには歓迎されなくなったときから『私』も気付けば良かったのに、それに気付かすにお二人に会いに行っていた覚えがある。
周りを見ていなかったにも程があった、と過去を振り返りながら開けたくない私の気持ちなど知らずに扉は容赦なく開いてしまった。
開いていく扉の中は相変わらず豪華で、足を踏み入れるのも躊躇したくなる。
けれど、そのままというわけにも行かず、ゆっくりと部屋の中に入り、ある一定の場所で頭を深く下げた。
「よく来てくれたね、ローレンス。顔を上げてくれ」
国王陛下に言われ、少し顔を上げた。
久しぶりに聞く国王陛下の声は記憶にあるものと分からないが、少しだけ声が高く感じるのは気のせいか。
「お招きいただき、ありがとうございます。国王陛下、ミューズ様。こうして貴重な機会を頂戴し、大変光栄に思います。先日の音楽祭におかれましても、大変素晴らしい賞をいただき、大変身に余る光栄にございます」
頭を少し下げたまま、そう言い、手に持っていたものを自分の前に出した。
「この度はローランド・ギルアート様にご協力賜り、お二人がお好きだと伺いました品物をお持ちしました」
端から見たら緊張して言いたいことを全て言い尽くしたように見えるだろうが、さっさと終わらせたくて勢いで話してしまっただけなのだが、失礼だっただろうか。
そう思っていると、ミューズ様が品を見て反応してくれた。
「まぁ、よく知っていたわね。私そのお店のお菓子大好きなの」
「本当だね。私もそこのメーカーのものは好きで取り寄せているよ。ありがとう、あとでいただくよ」
二人は朗らかに笑ってそう言ったが、これを知ったのは勿論前の『私』が失礼がないようにと調べぬいたものであって、今の『私』が知るわけがないし、二人とはあまり接点がないローランドでさえ、二人の好みは知らない。
知っているのはドミニク殿下とこの城に勤務している者たちだけだろう。
「賞についてだが、あれは本当に素晴らしかった。昔から音楽は嗜まれていたのい?」
「はい、少しではございますが」
そんなわけない。
私がローレンスになってから音楽を嗜む機会など一度もなかった。
だから、これは全て過去の『私』がひたすら練習を繰り返していたおかげだ。
だけど、そんなこと口が裂けても言えないのでそう答えてみた。
「そんな謙遜しないで?少しだけであんな素晴らしい演奏は出来ないわ」
「ありがとうございます、ミューズ様。けれど、平民の私にはとても頻度よく楽器に触れる機会はないので、本当に少しだけでございまして」
事実、学校での練習しかしていないし。
「そうか、それであんな演奏が出来るとは素質があるのかもしれないね。ときにローレンスは学園での成績も態度も良いと聞くし、品もある。マナーもあるようだし……」
そう言った陛下は、少し言いにくそうに呟いた。
その代わりにミューズ様が困ったように笑いながら私としては恐ろしいお言葉を呟かれた。
「貴女の演奏やお話を聞いてうちの子の婚約者が貴方だったら良かったのに、というお話を私と陛下で話していた所なの」
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