広がる世界

mahiro

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いきなり監督に呼ばれた!とスマホを片手に叫ぶ荒巻さんに早く行ってくださいと言えば渋々離れ、無理やり俺の手にマリトッツォを握らせ去って行った。
別に名前を知りたかっただけで食べたかった訳じゃないのだが。
それよりこの集まってしまった視線をどうすれば良いのだ。
今だかつてこんなに視線を浴びたことないんですけど。
俺はいつまでも突き刺さる視線に耐えきれず、走って建物の中に入り込み、人通りの少ない空き教室でひとり自分で購入したパンを食べた。
マリトッツォに関しては教授に渡そう、口止め料として。
思わず握り締めたくなるパンを手から離して、手提げの中に入れて行きたくもない研究室に向かうことにした。


「…………」


「やぁ、嶋貫君。今日は面白い1日だな!」


教室を出るために開けた扉を再度勢いよく閉めた俺は何も悪くないと思う。
例え扉の奥で鼻に当たった!と叫ぶ教授が居ようとも。


「何で閉めるんだよ!」


「そこに教授の顔があったからです」


「意味分からない!」


「分からなくて結構です。こっちも質問させて下さい。何で空き教室の、それもドアの前に居るんですか」


「ほら?お前さんのことだからまっすぐ研究室に帰ってきてくれないと思って………ってまた閉めようとしないで!」


暫くそのやり取りが続いていたのだが、いい年した大人二人がひとつの扉を開けまいとしたり、閉めようとする姿が滑稽に思え、入れていた力を一気に抜けば、力を入れ続けていた教授が反動で尻餅をついて派手に転んでいた。


「いきなり力抜くとか何なの?!」


「いや、何か急に馬鹿馬鹿しく思えて。すみません」


「痛いんですけど?!」


「でしょうね」


音も衝撃も凄かったし。
痛くないわけないだろうな、と鼻とお尻を擦る教授を見下ろしながら手に持っていたパンを手渡した。


「そんな可哀想な教授に、はい、奥さんが探してパン。貰ったんであげます」


「え?!良いのか?」


「貰い物で良ければ」


「やったー!これで並ばずに帰れる!」


「それは良かったですね」


ということで、とパンを掴んだ教授の手を掴み、顔を近付けた。


「これは口止め料です。あそこで見たことは他言無用でお願いします」


良いですね?と無表情で念を押せば、教授は顔を強張らせ何度も首を縦に振った。
この悪魔め、と呟く教授に今更でしょう、と言えば何故か呆れられた。


「俺が言わなくたって目撃者沢山いるじゃんかぁ…」


「教授が一番面白おかしく話を作りそうだから言っているのですよ」


そうだけどぉ、と本人が言ってしまうあたり本当に信用にならない。
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