オレに触らないでくれ

この生活は変わらない

書類提出の後に制服の受け取りを終了した所で、中学の頃にお世話になっていたバスケ部の先輩に見つかって軽く部活に参加させて貰ったんだけど、いつの間にか外が賑やかになってた。
いつものことだから別に構わないけど、どうせ好かれるなら『宮永』だけで良いのにと思うのはいけないことだろうか。
もちろん、弟や妹から好かれるのは万々歳だ。


「疲れた……受験終わってから全然身体動かしてなかったんで」


軽く一ゲームだけって話だったのに結局午前中いっぱい付き合わされた。
日夏も幸輝もまだ帰ってこないから良いけど、洗濯物や洗い物が溜まったままだ。
帰ったらやらないと。


「それであれだけ動けりゃ良いだろ」　


体育館の床に寝そべっていたら、先輩に腹を爪先で蹴られた。


「痛てて…」


「お前もう部活決めてるのか？」


「んーまだですね」


「『スポーツしてる姿が格好良くてイケメン』な玖蕗栖一真君はスポーツはやらないのかね」


「別にイケメンじゃなくても良いんですけどね、オレは。部活は入ってから決めますよ。日夏のお迎えもあるし、幸輝の習い事の送り迎えもあるし。それが、オレにとって最優先事項なんで」


「相変わらず良い兄ちゃんだな、お前は」


いつまでも腹を蹴られるのが嫌で上半身を起こし、流れていた汗を持ってきていたタオルで汗を拭いた。
本当はこのタオルだって、日夏が泣き出したときに拭けるようにって持ってきておいた奴でオレが使うために持ってきた訳じゃないんだけど。


「二人には良い兄に思われたいんでね！」


もしかしたら一生嫁さんを迎えられない兄になる可能性が高いから、今のうちにオレが出来る範囲のことで償っておかないと。
情けない兄でごめんな、って。


「このブラコンめ」

　
「何とでも言ってくださいよ。さて、洗濯して掃除機かけたら幸輝が帰ってくるんでオレは帰ります」


「発言が奥さんだな」　

　
「どちらかというと主夫じゃないですかね？オレ男ですし」


「どっちにしても15歳の発言には思えない」


「ハハハ、確かに。でも、これがオレなんで！」


それじゃあ、と頭を下げ、他にもお世話になった先輩方に挨拶をしてから駆け足で帰った。
洗濯を回しながら食器を洗って、終わったタイミングで洗濯物干して、掃除機かけたらちょうど幸輝が学校から帰ってきた。


「ただいま」


「お帰り、幸輝。この後すぐ行くんだろう？」


「うん」


ランドセルを置き、道場に行く準備が整ったら二人して家を出て幸輝を無事道場に連れていき、一端その場を離れる。
そこから数分歩いた距離にある保育園に日夏を迎えに行き、眠っている日夏を先生から預かり、そのまま道場に戻る。
日夏を抱っこしたまま幸輝を見守って、終わったらまた三人で手を繋いで帰る。
皆で手を洗って、オレは洗濯の取り込みと夕飯作り。
幸輝は風呂を洗いながら身体を洗い、日夏はその横で幸輝の真似をしながら身体を洗っている。
足りない所を幸輝が洗って上げて、二人して出てくるのがいつもの流れだ。
その流れがオレの生活の流れで、大きく変えるつもりは今のところない。
例えオレが高校生になり、幸輝が六年生になったとしても。
もしかしたら来年、日夏が小学生になって幸輝が中学生になったら変わるかもしれないけど。

そういえば今日高校に行ったのに、『宮永』と会えなかったな。
非常に残念だ。
私服姿とか見てみたかったな。