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弟の地区大会の帰り道、一際目立つ容姿を持った人物を見かけた。
女の子のように可愛らしい顔つきで、隣にいる男の子に笑いかけるその顔が好きだなぁと思った。
それから何回かその子を見かけるようになり、その子が弟の通う空手道場で弟と共に戦っている姿を見たときは思わず声が出そうになった。
「宮永君って可愛いのに格好いいのよね」
子供たちを見ていたお母さん方が頬を緩めながらそう言ってるのを聞いて、初めてあの子が男の子で『宮永』という名字だと知った。
最初はオレの恋愛対象が実は女の子ではなくて男の子だったのかと真剣に悩んだ。
けれど、同じ男の子を見ても何も思わないし好きだと思えなかった。
だからといって女の子が好きになるかというとそうでもなく、『宮永』だけがオレの中で特別な位置に立っていた。
話したこともないし、『宮永』という名字しか知らない。
歳も知らないし、弟の通っている空手道場にいたことしか知らない。
それなのにオレは『宮永』に恋していた。
それから何年か経ち『宮永』がオレと同い年だと知り、気付いたときには白帯から黒帯に変わっていた。
住んでいるところはここから少し離れているが、中学は同じ学校になる地区ではあった。
その事を知ったときは嬉しかったが、相手はオレのことを知る筈もないし、もし知っていても弟のことだけ。
実際、中学に通ってから顔を何度も合わせたが一度も話せることもなく、遠くで見かけていただけ。
オレのことを『宮永』が知っていたのかさえ、分からないまま中学を卒業した。
「おにいちゃん、きょうのおべんとうごうかだね」
「は? あ、やっべ?!日夏ごめん、こんなに食えないよな?!」
昔のことを思い出しながら弁当を作っていたら、いつの間にか弁当のおかずがずらずらと出来上がっていた。
「ひな、おにいちゃんのおべんとうすきだよ?」
「ありがとうな。でもこれは……作りすぎだわ」
テーブル一杯にお弁当のおかずって一体。
弟の幸輝の弁当にするって言ったって多い。
これはもうタッパに入れて夕飯だな。
「ひな、らいねんからしょうがくせいだからがんばってたべるよ?」
「そんなに頑張らなくて良いよ。それより、幸輝を起こしてきてくれないか?まだ寝てると思うから」
お母さんそっくりなふわふわな長い髪を撫でれば、美人で可愛らしい顔をこちらに向けてからリビングを出て行った。
オレは先月中学を卒業し、今日は高校入学前の資料提出に行かなければならないが幸輝と日夏はいつも通り保育園と小学校に通わせなければならない。
提出だけだし、あまり時間はかからないだろう。
「おはよう兄さん、今日はまた凄い量だね」
「おはよう、幸輝。無理して食べなくて良いぞ。食べられない分は夜に回すから」
「ひな、おこしてきた!」
「偉いぞ、日夏」
よしよし、と小さい頭を撫でて朝食へと促し、三人でご飯を食べた。
実は、高校も『宮永』と同じだったりするので今日も上手くしたら会えるかもしれないと期待していたりする。
でも、会えたとしても話しかけられないしどうせ、『宮永』の幼なじみだという宗方大雅が側にいて近付くことすら出来ないのだろう。
小学校の頃はどうだったか分からないが、中学の頃は第三者を近付けない雰囲気を二人が常に醸し出していたことがあり、オレだけでなく他の子たちも『宮永』たちに近付けていなかった。
それは高校に入っても変わることはないのだろう。
「おにいちゃん、まえがみのびたね。ひなのへあぴんあげようか?」
「ん?あぁ、確かに伸びてきたかもな…」
料理していたときも邪魔になっていたし、そろそろ切るべきか。
「このぴんおにいちゃんにあげる」
そう言って日夏に渡されたのは赤いピンで、可愛らしいそれを受け取って前髪につけてみせた。
「ありがとう。どうだ?似合うか?」
「すごいにあうよ!」
「そうか。それじゃあ今日はこれを付けて行こうかな」
「そうして!」
可愛らしい妹のお願いじゃ仕方ない。
今日はこれをつけて行こう。
二人の支度を手伝って、オレはオレで必要なものを鞄に詰めて家を出た。
日夏と手を繋ぎ、日夏の反対の手を幸輝が繋いで歩く。
いつまでこうして一緒に歩いてくれるか分からないが、二人が嫌だと言い出すまでは続けていようと思っている。
「それじゃあ、またね。兄さん、日夏」
「気をつけてな」
「こうきにいちゃんまたね!」
まずは幸輝と小学校の校門前で別れ、日夏ととぼとぼと歩くと保育園に辿り着いた。
「また時間になったら迎えに来るからな、日夏」
しゃがみこんで目線を合わせながら言えば、泣きそうな顔になりながらも日夏は頷き、勢いをつけたまま抱き付いてきた。
「あらあら、一真君と日夏ちゃんはいつも仲良しね」
保育園の先生にその様子を見られて、照れ臭いが毎日のことで慣れてきてしまっていたりする。
「仲良しですよ。今日は日夏からピンも貰いまして。どうですか?似合いますか?」
日夏の背中をとんとん、と叩きながらそう言えば、先生はクスクスと笑いだした。
「とっても似合ってるわ。また女の子たちからキャーキャー言われるんじゃないの?一真君。玖蕗栖君格好いい!って」
「ハハハ……」
何処が格好いいのか分からないけど、女の子たちからは人気があったりするんだよね。
好きな人からは認識すらされてないかもしれないのに。
「おにいちゃん、かっこいいよ?」
「ありがとう、日夏。日夏も可愛いぞ」
「ハイハイ、兄妹仲良しなのは良いけど、一真君とはここまでね」
オレに抱き付いていた日夏を先生はゆっくりと引き離し、奥へと入って行く。
それをオレは手を振りながら見送り、高校へと向かうことにした。
女の子のように可愛らしい顔つきで、隣にいる男の子に笑いかけるその顔が好きだなぁと思った。
それから何回かその子を見かけるようになり、その子が弟の通う空手道場で弟と共に戦っている姿を見たときは思わず声が出そうになった。
「宮永君って可愛いのに格好いいのよね」
子供たちを見ていたお母さん方が頬を緩めながらそう言ってるのを聞いて、初めてあの子が男の子で『宮永』という名字だと知った。
最初はオレの恋愛対象が実は女の子ではなくて男の子だったのかと真剣に悩んだ。
けれど、同じ男の子を見ても何も思わないし好きだと思えなかった。
だからといって女の子が好きになるかというとそうでもなく、『宮永』だけがオレの中で特別な位置に立っていた。
話したこともないし、『宮永』という名字しか知らない。
歳も知らないし、弟の通っている空手道場にいたことしか知らない。
それなのにオレは『宮永』に恋していた。
それから何年か経ち『宮永』がオレと同い年だと知り、気付いたときには白帯から黒帯に変わっていた。
住んでいるところはここから少し離れているが、中学は同じ学校になる地区ではあった。
その事を知ったときは嬉しかったが、相手はオレのことを知る筈もないし、もし知っていても弟のことだけ。
実際、中学に通ってから顔を何度も合わせたが一度も話せることもなく、遠くで見かけていただけ。
オレのことを『宮永』が知っていたのかさえ、分からないまま中学を卒業した。
「おにいちゃん、きょうのおべんとうごうかだね」
「は? あ、やっべ?!日夏ごめん、こんなに食えないよな?!」
昔のことを思い出しながら弁当を作っていたら、いつの間にか弁当のおかずがずらずらと出来上がっていた。
「ひな、おにいちゃんのおべんとうすきだよ?」
「ありがとうな。でもこれは……作りすぎだわ」
テーブル一杯にお弁当のおかずって一体。
弟の幸輝の弁当にするって言ったって多い。
これはもうタッパに入れて夕飯だな。
「ひな、らいねんからしょうがくせいだからがんばってたべるよ?」
「そんなに頑張らなくて良いよ。それより、幸輝を起こしてきてくれないか?まだ寝てると思うから」
お母さんそっくりなふわふわな長い髪を撫でれば、美人で可愛らしい顔をこちらに向けてからリビングを出て行った。
オレは先月中学を卒業し、今日は高校入学前の資料提出に行かなければならないが幸輝と日夏はいつも通り保育園と小学校に通わせなければならない。
提出だけだし、あまり時間はかからないだろう。
「おはよう兄さん、今日はまた凄い量だね」
「おはよう、幸輝。無理して食べなくて良いぞ。食べられない分は夜に回すから」
「ひな、おこしてきた!」
「偉いぞ、日夏」
よしよし、と小さい頭を撫でて朝食へと促し、三人でご飯を食べた。
実は、高校も『宮永』と同じだったりするので今日も上手くしたら会えるかもしれないと期待していたりする。
でも、会えたとしても話しかけられないしどうせ、『宮永』の幼なじみだという宗方大雅が側にいて近付くことすら出来ないのだろう。
小学校の頃はどうだったか分からないが、中学の頃は第三者を近付けない雰囲気を二人が常に醸し出していたことがあり、オレだけでなく他の子たちも『宮永』たちに近付けていなかった。
それは高校に入っても変わることはないのだろう。
「おにいちゃん、まえがみのびたね。ひなのへあぴんあげようか?」
「ん?あぁ、確かに伸びてきたかもな…」
料理していたときも邪魔になっていたし、そろそろ切るべきか。
「このぴんおにいちゃんにあげる」
そう言って日夏に渡されたのは赤いピンで、可愛らしいそれを受け取って前髪につけてみせた。
「ありがとう。どうだ?似合うか?」
「すごいにあうよ!」
「そうか。それじゃあ今日はこれを付けて行こうかな」
「そうして!」
可愛らしい妹のお願いじゃ仕方ない。
今日はこれをつけて行こう。
二人の支度を手伝って、オレはオレで必要なものを鞄に詰めて家を出た。
日夏と手を繋ぎ、日夏の反対の手を幸輝が繋いで歩く。
いつまでこうして一緒に歩いてくれるか分からないが、二人が嫌だと言い出すまでは続けていようと思っている。
「それじゃあ、またね。兄さん、日夏」
「気をつけてな」
「こうきにいちゃんまたね!」
まずは幸輝と小学校の校門前で別れ、日夏ととぼとぼと歩くと保育園に辿り着いた。
「また時間になったら迎えに来るからな、日夏」
しゃがみこんで目線を合わせながら言えば、泣きそうな顔になりながらも日夏は頷き、勢いをつけたまま抱き付いてきた。
「あらあら、一真君と日夏ちゃんはいつも仲良しね」
保育園の先生にその様子を見られて、照れ臭いが毎日のことで慣れてきてしまっていたりする。
「仲良しですよ。今日は日夏からピンも貰いまして。どうですか?似合いますか?」
日夏の背中をとんとん、と叩きながらそう言えば、先生はクスクスと笑いだした。
「とっても似合ってるわ。また女の子たちからキャーキャー言われるんじゃないの?一真君。玖蕗栖君格好いい!って」
「ハハハ……」
何処が格好いいのか分からないけど、女の子たちからは人気があったりするんだよね。
好きな人からは認識すらされてないかもしれないのに。
「おにいちゃん、かっこいいよ?」
「ありがとう、日夏。日夏も可愛いぞ」
「ハイハイ、兄妹仲良しなのは良いけど、一真君とはここまでね」
オレに抱き付いていた日夏を先生はゆっくりと引き離し、奥へと入って行く。
それをオレは手を振りながら見送り、高校へと向かうことにした。
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