きっと、あなたは知らない

7

戸惑っている私から携帯を取り返した平松は、浜砂に向かって叫んだ。


「浜砂、どうしよう。俺普通科に移りたい！」

　
『馬鹿なこと言わないでください。日本一になりたいって言っていた平松さんは何処に行ったんですか』


スピーカーモードにしたのか、受け取ったときにしてしまったのか分からないけど、浜砂の平坦な声がよく聞こえた。


『話が聞こえていたので言わせて貰いますが、平松さんは劇中だけの王子様で良いんですか？その他の場面は別の人に譲って良いのですか？俺だったら絶対に嫌ですけど。どうせなら、ひとつの作品として作られた限りある時間だけの存在だけじゃなくて、作られたものではなく、俺とその人とが作り出した時間を過ごしていきたいと思いますが』


結構始めの方から聞いていたのね、浜砂。
何処からかけていたのか気になるわ。


「俺だってそうだけど！それでも好きな人が違う人と仮にもラブシーンを演じるとか嫌じゃん！」


『だからって普通科に編入とかは絶対にさせません。あなたは大事なエースなんですから、試合のことをまずは真剣に考えてください』


「はぁい………」


親に叱られた子供みたいな顔をしているが、電話の相手は年下の男の子なんですけどねぇ。
いや、それしても流石だわ浜砂。
私だったらこうもいかなかった。


『あと言わせて欲しいのですが、いくら仲が良いとは言え、夜遅くに彼女でもない女性の部屋に居るのはどうかと思いますよ』


「えぇ？だって椎名の家だぞ？」


『何がだってなのか分かりませんが、椎名さんも女性です。平松さんが好きな女性と同じ性別なんです。好きな女性のためにも疑われるような行動や言動はよした方が良いと思いますけど』