きっと、あなたは知らない

mahiro

文字の大きさ
上 下
2 / 33

2

しおりを挟む
浜砂と出会ったのは平松がいつものごとく普通科に顔を出していたとある日のことだった。
いつもは一人でふらふらとやって来ては騒いで帰って行くのに、その日は誰かと話ながら教室に来ていて、珍しいなと思っていた。


「しーいーなー、俺、ゆーしゅーな後輩が出来た!」


優秀な、と心の中でツッコミを入れておく。
平松と比較すれば誰もが優秀に見えるのでは、と思ってしまったのも口には出さないでおこう。
ショボくれるし、まだ平松のことを知らないであろう後輩の前でそんなこと言われたくないだろうし。


「おーおー良かったね。だけど、選抜クラスと普通科って出入りしないようにって言われてるんだから、あまり平松に連れ回されてこっち来たら後輩が可哀想だろ」


平松は忠告も聞かずに一年の頃からずっと普通科に顔だしてるけど。
最初は先生方が注意していたけれど、毎回のことだから何も言わなくなったが、今年入った一年生はまだその規則というか、この学校の風習というか、それらを知らない人が多いのだから先輩になった平松が教えなくちゃいけないのに、何で連れてくるかな。


「えーだって、そうしたらいつまで経っても椎名に紹介出来ないじゃん!」


しなくて良い、と言いたい。
通常の学校生活を送っていれば、普通科の人間は選抜クラスと関わりを持つことなく学生生活を終える。
それなのに、平松が気にせず来てしまうから関わりがあるだけで。
これ以上、選抜クラスの人物と関わりを持ちたくない、というのが私の気持ちだった。
だって、選抜クラスからも普通科からも平松のせいでよく思われてないし、私。


「なぁーなぁー折角ついてきて貰ったんだから良いだろう?紹介くらい!」


私が頭を抱えていると、その周りを煩いくらいに平松がなぁーなぁーと声をかけてくる。
正直言って鬱陶しい。
まぁ、校舎も別で選抜クラスから普通科までかなり距離がある中を歩いてきてくれたのだから、自己紹介だけでもしておこうか。
関わることなど、どうせないだろうけど、とそう思って視線を平松からその後ろにいた人物へと視線を向けた、その瞬間、全てを奪われたと思った。


「初めまして、浜砂悠真と申します。よろしくお願いいたします」


視線が合って、暫くしてから落ち着いた声が耳に届いたとき、漸く我に返ることが出来たが、それのせいで少し反応が送れてしまった。


「は、初めまして。椎名 春しいな はるです。こちらこそ、よろしく」


慌てて頭を下げながら、顔に集まる熱量と心臓の高鳴りが暫く止まることはなかった。


その後だ。
浜砂が高嶺の花だと呼ばれていると知ったのは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

彼が指輪を嵌める理由

mahiro
恋愛
顔良し、頭良し、一人あたり良し。 仕事も出来てスポーツも出来ると社内で有名な重村湊士さんの左薬指に指輪が嵌められていると噂が流れた。 これはもう結婚秒読みの彼女がいるに違いないと聞きたくもない情報が流れてくる始末。 面識なし、接点なし、稀に社内ですれ違うだけで向こうは私のことなんて知るわけもなく。 もうこの恋は諦めなきゃいけないのかな…。

偽りの向こう側

なかな悠桃
恋愛
地味女子、蓮見瑠衣はイケメン男子、多治見慧とある事がきっかけで付き合うことに・・・。曖昧な関係に終止符を打つため彼女は別れを切り出すが・・・。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...