泣くなといい聞かせて

mahiro

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チャンス到来のはずなのに

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こいつ俺と別れても女性の前で『アキちゃん』を連呼しすぎて嫌われんじゃないか?
心配になってきたんだが。
でも、それを踏まえて好きになってくれる女性も中にはいるだろうしな。


「それよりそろそろお風呂行かない?」


お、これはチャンス到来か。
流石にお風呂場までスマホは持っていかないだろうし。


「先に入ってくると良い、俺はその後に入るさ」


「何言ってんの。男女じゃあるまいし、別々に入る必要ないでしょ。しかも、部屋風呂じゃなくて共有の露天風呂だから一人一人じゃねぇし」

いや、そういうことじゃないんだが、と言う前に引き摺られるように部屋を出され、途中まで連れて行かれた所で気付いた。
忘れ物したと言って部屋に戻ればスマホ見れるよな。
よし、その手で行こう。


「北嶌、すまん。忘れ物した。先に行っていてくれないか?」


「あ?何忘れたんだよ」


「先ほどお前から貰ったクーポン券のようなものよ」


「あー、あれか」


「すまんな。先に行っててくれ」


よし、これで部屋に行って念のため鍵閉めて、スマホを見つけていざ、連絡先削除。
そう思って机にあったスマホに触れた。
触れたのは良いんだが、ロックがかかっているではないか。
しかもこいつのスマホ、ロックを3回間違うと開かなくなるタイプ。
何ということだ。
試せるのは2回だけということではないか。
仕方ない、思い浮かぶ数字を入れるか。
まずは奴の誕生日を入力してみたが、ダメだった。
あともう1個。
それでダメならこれは諦めるしかなかろう。


「あとは……」


やっぱりアキの誕生日か。
あいつにとって大切な奴の誕生日だからな。
そう思って入力してみたがこれもダメだった。
これも違うとは思わなかったな。
どっちかだと思ったのに。

何なんだ、先から敗北してばっかりではないか。
畜生。
もう、こうなったら鍵だけ鞄に入れて別れを今日中に伝えてみせる。
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