泣くなといい聞かせて

mahiro

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きっかけ

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俺がどうして別れようと思ったのか話そうか。
それを語るには数ヵ月前に遡ろうと思う。
20歳になり、お酒の飲める歳になったので久しぶりに集まろうかと当時の高校3年生全員を対象に同窓会が開催された。
そこには数多くの参加者がいて、その中に俺も含まれていた。
俺の友人は皆、サークルやバイトが重なり来れなかった。
奴だってそうだ。
バイトの調整がつかずどうしても行けないと連絡が着ていた。
そんな中で始まった同窓会は思ったより楽しく、今まで話したことのない人物との会話も新鮮で良かったのだ。
そんな時、同じテーブルにいた女子が言った。


「北嶌君ってさぁ、1年生のときってとにかくヤバい格好をしてて近寄りにくかったじゃん?それが段々なくなってきてさ、卒業するときには普通の男の子になっててさ、顔は怖いのに基本優しいじゃん。そういう所が当時好きだったんだよね、北嶌君のこと」


その瞬間、俺の時が止まったのかと錯覚した。
俺と同じように奴を好きな人が居たのかと。


「えぇ?あの目怖くない?」


「そこも良いじゃん。もし子供があの目を引き継いでも愛せる自信あったよ?」  


子供、か。
彼女が話す内容はどれも俺の心に突き刺さった。
もし彼女が奴と上手くいっていた未来があったのなら今頃奴と付き合っていたのは俺ではなく彼女。
もしその未来があれば、奴には将来子供が出来ていたかもしれないのだ。
俺では与えられない将来だ。
告白したときに考えなかった訳じゃない。
俺と付き合えば奴にとって障害ばかりで幸せではないかもしれないと。
先もないものだと。

本当は、もう誰も身内のいない奴の隣は俺ではない方が良いと何度も考えた。
女性と結婚した方が奴に家族を与えられると。
でも、この度に離れたくないと言う気持ちが邪魔をして奴を掴むこの手を離すことが出来なかった。


でも、いい加減その手も離すときなのかもしれない。
いつまでも俺の我が儘で奴を離さないでいてはならぬだろう。
残りの人生、あいつにはまだまだ明るい未来が待っているのだからこの手を離さなくては。

それがきっかけだった。
あの後、酔いすぎたと言って店を出たのだが、どうやって帰ってきたのか分からない。
気付いたら自宅の布団の上で泣いていた。
 

そこから何度も決行しようとしては止めて、決行しようとしては止めてを繰り返していた。
でも、今回は本当に決行しようとして思っている。
これはあいつのためだと信じて。
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