泣くなといい聞かせて

mahiro

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今回のデートだが、俺から誘ったもので、何処に行きたいとか何かしたいとかは考えておらず、目標を達成させる事しか考えていなかったりする。
その目標だってどうやって達成させるのか具体的に考えていたわけではない。
デート中に鍵を返し、連絡先を消し、別れを告げることしか考えていなかったのだ。
 
奴が向かっている場所も分からないし、隙があるようでない奴だから鍵を鞄に仕込むことも出来やしない。
降りたばかりの筈の駅に戻ったかと思えば、下り線のホームに向かっていく奴の後ろをただついて行くしかない。
奴の家とは逆方向ということは、奴の家に行くわけではないようだが、一体何処に向かっているんだ。


「お前明日の予定は?」


「明日か?」


「そう明日」


急に振り返ってきたかと思えばそんなこと。
明日、明日か。
明日の今頃お前と俺はどうなっているんだろうな。
俺は朝からやけ酒かもしれんな。
ひたすら泣いて、これ以上涙が出ないほど泣いて。
奴との気持ちを墓まで持っていくけじめをつけようとしている頃だろうか。
今はこんなに近くにいて、触れようと思えば触れ合える距離に居るのに明日になれば、この距離に居ることさえ出来ず、顔も声も聞けなくなるのか。
そう思うと、別れるなどと言いたくなくなる。


「おい、宝生(ほうじょう)。聞いてんの?」


また頭を叩かれ、奴を見上げれば怪訝そうな顔で俺のことを見ていた。


「すまない、明日の予定を思い出そうとして物思いにふけてしまっていたよ」


「何してのお前。まぁ、いいや。バイトとか学校とかあんの?」


「それはないな」


「なら一回お前んち行くぞ」


「何故だ?!」


どうしてそうなるのだ。
普段であれば突然来られても困るような物は何一つないが、今はまずい。
荷物が段ボールに詰められているから、あの家を去るつもりだと奴に知られてしまう。
まだ何にも目標を達成していないというのに。



「あ?俺と違ってお前、お泊まり道具が必要なんでしょ?」


「お泊まり道具だと?」


「そ、今から向かう場所って宿だから」


「は?!」


何だそれは聞いてないぞ。
それでは今日中に別れを告げる予定が、いや、待て。
これはチャンスと考えるべきか。
鞄に入れるタイミングも携帯から消すタイミングも普通のデートより試すチャンスがある。
例えば奴が風呂に入っているときとか、トイレに行っている間とか。
別れも何とか今日中に伝えて、日付が変わったタイミングで去ってしまえば良い。
我ながら完璧な作戦だ。


「行こうじゃないか、宿!」


「急に騒ぐな、うっさい」


「悪い悪い。さ、我が家に行こうじゃないか!」


バシバシと奴の背中を押し、ホームの奥の方へと進んで行った。
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