9 / 112
9
しおりを挟む
白いフードを脱ぎ、瓦礫の上を器用に降りてきたヨーゼフはいつもより疲れた表情を見せながら近寄ってきた。
よく見ると頬や腕に細かな傷がついていた。
先日家に帰ってきたときにはなかったものなので、今回の任務でついたものだろうか。
本当は見える傷だけでも治せたら良いのに、その術を俺は持っていない。
薬箱だって持ってきていないし、気の効いたものなんて何一つない。
さっきまで特訓をしていたため、ステッキは持っているが俺からしてみればただの棒だ。
「ゲルハルト先生、何でこんな危ない所にイヴを連れてきたんですか?」
近付いてきたと思ったら大きな青い瞳をゲルハルトに向けたヨーゼフの背に隠された。
何故ゲルハルトから距離を取るようにしたのか、分からないが守られているのは分かった。
それが気に食わないが、こんな所で感情的に騒いで彼らの足手まといになるのは避けたい。
周りを見たところ、見覚えのない土地だし自力で帰るのは不可能だ。
「ヨーゼフの制御が解除されるんじゃないかと思ってね」
「先輩の思い付きって当たり外れが激しいですよね」
遅れてエクベルトが俺の横に腰に手を当てて立っていた。
呆れ顔のエクベルトの顔を見上げれば、茶色の髪に真っ黒な瞳だった。
「今回は当たりだと思うけどね」
口角を上げて笑うゲルハルトに、エクベルトは大きな溜め息を吐いた後、俺の方に顔を向けた。
「何だかヨーゼフから話を聞いていたから初めてという気がしないのだけど、自己紹介をしておこうかな。私はエクベルト・スアレス。これでも一応、上級の魔法使いでヨーゼフの先生だよ。よろしくね、イヴ君」
そう言って大きな手を差し出された。
ゴツゴツとしたその手と目元を弛ませたエクベルトの顔を交互に見てから恐る恐る手を差し出した。
「イヴです、よろしくお願いします」
包まれた手のひらが予想外に温かく、遠い記憶にあった祖母のことが脳裏に浮かんでは消えた。
よく見ると頬や腕に細かな傷がついていた。
先日家に帰ってきたときにはなかったものなので、今回の任務でついたものだろうか。
本当は見える傷だけでも治せたら良いのに、その術を俺は持っていない。
薬箱だって持ってきていないし、気の効いたものなんて何一つない。
さっきまで特訓をしていたため、ステッキは持っているが俺からしてみればただの棒だ。
「ゲルハルト先生、何でこんな危ない所にイヴを連れてきたんですか?」
近付いてきたと思ったら大きな青い瞳をゲルハルトに向けたヨーゼフの背に隠された。
何故ゲルハルトから距離を取るようにしたのか、分からないが守られているのは分かった。
それが気に食わないが、こんな所で感情的に騒いで彼らの足手まといになるのは避けたい。
周りを見たところ、見覚えのない土地だし自力で帰るのは不可能だ。
「ヨーゼフの制御が解除されるんじゃないかと思ってね」
「先輩の思い付きって当たり外れが激しいですよね」
遅れてエクベルトが俺の横に腰に手を当てて立っていた。
呆れ顔のエクベルトの顔を見上げれば、茶色の髪に真っ黒な瞳だった。
「今回は当たりだと思うけどね」
口角を上げて笑うゲルハルトに、エクベルトは大きな溜め息を吐いた後、俺の方に顔を向けた。
「何だかヨーゼフから話を聞いていたから初めてという気がしないのだけど、自己紹介をしておこうかな。私はエクベルト・スアレス。これでも一応、上級の魔法使いでヨーゼフの先生だよ。よろしくね、イヴ君」
そう言って大きな手を差し出された。
ゴツゴツとしたその手と目元を弛ませたエクベルトの顔を交互に見てから恐る恐る手を差し出した。
「イヴです、よろしくお願いします」
包まれた手のひらが予想外に温かく、遠い記憶にあった祖母のことが脳裏に浮かんでは消えた。
48
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる