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「イヴ、最愛なる息子のことを頼んだよ」
いつも柔らかく微笑んでいた先生は、真剣な眼差しを俺に向け、産まれたばかりの赤子を俺に手渡してきた。
先生の後ろにはいつも俺のことを茶化す先生の妻ーーーティファニーが同様の眼差しを俺に向けて頷いていた。
「待って先生、俺じゃあ」
ダメだ、と言いたかったのにもう二人の姿はなかった。
何故出来損ないの俺に二人の宝物を託したんだ。
ゲルハルトのように優秀ではなく、一族の中では一族の恥さらしと言われているような奴なのに。
大抵3歳頃から能力に目覚めるのが当たり前なのに、8歳になった今も能力の目覚めが一切なく、ただの力のない子供でしかなかった。
体術だって出来ないし、一般的に使えるはずの魔術だって使えない。
そんな無力な子供に何で。
「っ………!?」
赤子をぎゅっと強く抱き締めた所で、建物が大きく揺れた。
ダメだ、このままじっとしていては。
理由はどうあれ、託されたからには俺がこの赤子を守るんだ。
そう思って一歩足を踏み出した瞬間、背中に衝撃を受けた。
「っはは、やっぱ、」
先生、託した相手間違えてるって。
だってこんな簡単に死ぬんだぜ?
他の魔法使いだったらさ、治癒で治したり、矢が当たる前に防いだり出来るんだろ?
当たり前に出来ることが俺には出来ないって知ってる筈じゃん。
まぁ、でも少し自分を誉められる点を挙げられるとしたら、赤子のことを守れたことかな?
背中に刺さった矢は貫通しなかったみたいだから。
「ご、めんな」
最期まで守りきれなくて、そう言いたかったけれど、俺の意識はそこで途絶え、俺の人生は一度幕を閉じた。
それから五年後、また俺はこの世に生まれた。
産まれてすぐ森の中に捨てられていた俺を拾ってくれたのは、何の縁なのか分からないがあの時に守りきれなかった男の子だった。
先生と全く同じ金髪に青い大きな瞳をもち、真の強そうな瞳は先生の奥さんーーーティファニーそっくりだった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
不思議そうに俺を見つめる男の子はまだ話せず、思うように身動きの取れない俺を抱き上げ、先生の笑っていた顔によく似た表情で笑った。
「よくわからないけど、ひとりはさみしいだろ?いっしょにいこ?」
何も言い返せない俺をそのまま抱っこし、森を抜けた男の子は自分の名前をヨーゼフ・レントヘンと言った。
先生ーーーユーダ・レントヘンの最愛の一人息子で間違えなかった。
どうやら無事生き残れたようで良かったと一安心したが、ヨーゼフが辿り着いた場所を見て息を飲んだ。
「おとーさん、おかーさん、これからいっしょにこのことくらそうとおもうの!」
そこはあの時、城があった場所だった。
今は建物などなく、その代わりに二人の名前が書かれたお墓があった。
「きっとむらのじーちゃんもいいよっていってくれるからだいじょうぶ。もうひとりじゃないよ」
明るく振る舞うヨーゼフに、俺は大きな泣き声を上げてボロボロと泣くことしか出来なかった。
いつも柔らかく微笑んでいた先生は、真剣な眼差しを俺に向け、産まれたばかりの赤子を俺に手渡してきた。
先生の後ろにはいつも俺のことを茶化す先生の妻ーーーティファニーが同様の眼差しを俺に向けて頷いていた。
「待って先生、俺じゃあ」
ダメだ、と言いたかったのにもう二人の姿はなかった。
何故出来損ないの俺に二人の宝物を託したんだ。
ゲルハルトのように優秀ではなく、一族の中では一族の恥さらしと言われているような奴なのに。
大抵3歳頃から能力に目覚めるのが当たり前なのに、8歳になった今も能力の目覚めが一切なく、ただの力のない子供でしかなかった。
体術だって出来ないし、一般的に使えるはずの魔術だって使えない。
そんな無力な子供に何で。
「っ………!?」
赤子をぎゅっと強く抱き締めた所で、建物が大きく揺れた。
ダメだ、このままじっとしていては。
理由はどうあれ、託されたからには俺がこの赤子を守るんだ。
そう思って一歩足を踏み出した瞬間、背中に衝撃を受けた。
「っはは、やっぱ、」
先生、託した相手間違えてるって。
だってこんな簡単に死ぬんだぜ?
他の魔法使いだったらさ、治癒で治したり、矢が当たる前に防いだり出来るんだろ?
当たり前に出来ることが俺には出来ないって知ってる筈じゃん。
まぁ、でも少し自分を誉められる点を挙げられるとしたら、赤子のことを守れたことかな?
背中に刺さった矢は貫通しなかったみたいだから。
「ご、めんな」
最期まで守りきれなくて、そう言いたかったけれど、俺の意識はそこで途絶え、俺の人生は一度幕を閉じた。
それから五年後、また俺はこの世に生まれた。
産まれてすぐ森の中に捨てられていた俺を拾ってくれたのは、何の縁なのか分からないがあの時に守りきれなかった男の子だった。
先生と全く同じ金髪に青い大きな瞳をもち、真の強そうな瞳は先生の奥さんーーーティファニーそっくりだった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
不思議そうに俺を見つめる男の子はまだ話せず、思うように身動きの取れない俺を抱き上げ、先生の笑っていた顔によく似た表情で笑った。
「よくわからないけど、ひとりはさみしいだろ?いっしょにいこ?」
何も言い返せない俺をそのまま抱っこし、森を抜けた男の子は自分の名前をヨーゼフ・レントヘンと言った。
先生ーーーユーダ・レントヘンの最愛の一人息子で間違えなかった。
どうやら無事生き残れたようで良かったと一安心したが、ヨーゼフが辿り着いた場所を見て息を飲んだ。
「おとーさん、おかーさん、これからいっしょにこのことくらそうとおもうの!」
そこはあの時、城があった場所だった。
今は建物などなく、その代わりに二人の名前が書かれたお墓があった。
「きっとむらのじーちゃんもいいよっていってくれるからだいじょうぶ。もうひとりじゃないよ」
明るく振る舞うヨーゼフに、俺は大きな泣き声を上げてボロボロと泣くことしか出来なかった。
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