離したくない、離して欲しくない

mahiro

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その19

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あの部屋でひとり寂しく感じていたから皆と会いたくなったんですか?

今は家に先輩が待ってくれているから少しでも早く帰ろうと頑張っているからか前に比べて帰る時間が早まったけど、それまでは終電に間に合う形か間に合わなきゃタクシーで帰れば良いやくらいの気持ちでいたから、遅いときは3時、4時に帰っていた。
誰かがあの家で、それも俺の帰りを待つことなど考えたこともなかった。
しかも、待っている人がそんな気持ちでいるなんて考えもしなかった。


「先輩、すみませんでした」


先輩があとどれくらい俺の家に居るのか分からないけれど、もう少し家で待っている先輩の事も考えるようにしないといけないなと思った。
それから約20分過ぎたあたりで、タクシーはアパートに到着し、眠っている先輩を無理やり車から降ろして、何とかベッドに放り込むことに成功した。
それだけでも重労働だけど、日々先輩にやって貰ってることを考えたら家に連れて帰るくらいやっても足りないくらいだよな。
さて、シャワー浴びて今日は寝ようと先輩に背中を向けた途端に腹に先輩の腕が回り込み、そのままベッドに倒れ込んだ。
何が起きたのかと思って、周りを見てみれば俺の腹部には先輩の両腕ががっしりと俺を抱えており、俺の背中は先輩の胸にぴったりとくっついている。
足には先輩の足が絡められ、身動きが全く取れない。


「は?いや、先輩、寝惚けるのは止めてくださいよ。俺女の子じゃないっすよ?」


貴方が抱き締めてるのは男の、それも疲れて果てたおじさんだぞ。
起きてびっくりされること間違えなしだ。
俺はその、嬉しいけど、心臓に悪いから止めて欲しい。
変な汗とか出てきたし。


「先輩?」


先輩を呼んだり、手を叩いたり、それを外そうとしてみたりしたけどどれもダメだ。
びくともしない。
本当に寝てるのかと首だけ後ろに向けてみれば、規則正しい呼吸が聞こえてくるのと、瞳が完全に閉じた先輩の姿が見えた。
どう見ても寝たふりとかではなく、熟睡しているようにしか見えない。
あぁ、背中が暖かいのと先輩の香りに包まれて段々瞼が重くなってきたな。
今日はもうこのまま寝よう、そう思って瞼を閉じようとしたとき。


「笠原」


先輩がしっかりとした口調で俺の名前を呼んだ。
まさか起きたかと後ろを向けば、やはり寝ているようだ。
まさか夢でも見ているのだろうか。
夢を見てるときに話しかけちゃまずいよな、確か。
そう思ってまた寝ようとした次の瞬間。


「やっぱり俺、お前のこと好きだわ」


そう、確かに言ったのが聞こえてきた。
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