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王都のタウンハウスに戻って来て2日目、今日は早くから出かける支度をしています。

さすがに旅の疲れもありますから、初日はゆっくりさせてもらいました。

でも、お母様はタウンハウスに着くなり侍女たちに指示を飛ばしていましたね。

私はマルクスからだったし、休みなく馬車に揺られて身体のあちこちが悲鳴を上げていました。。

タウンハウスに着くなりベッドに倒れこみ意識を失う様に眠り込みました。

一眠りした後、たっぷりのお湯に浸かって、パティとタウンハウスの侍女のカーラ、エレナにじっくり時間をかけて身体中を揉みほぐしてもらい、やっと疲れが取れました。




「はぁー、昨日は3人のお陰で癒されたわ
パティ、カーラ、エレナありがとう」

私は外出の支度を手伝ってくれている3人に言います。

「お嬢様、びっくりするくらいどこもかしこもガチガチに凝っていましたよ」
カーラが大袈裟なくらい驚いたように言う。

エレナも私の髪を解かしながら、頷いている。

「そうでしょうね、だって身体中痛かったもの」

「お嬢様ったら、このところ働き過ぎだったのですよ。
だから無理しないで下さいと言いましたでしょう」
とパティは渋い顔で言います。

「そうよね、帰ってくる前からいろいろ忙しかったものね…
でも、頑張ったからお父様の手紙を読んで直ぐに帰ってこれたのよ」

のんびりと木の実の生産準備と農夫の寮の計画を立てていたら、今頃まだマルクスでモタモタしていたかもしれないもの。

「でも、3人のお陰で、今日は元気よ。
しっかり復活したわ」


コンコン

「リディ、支度は終わったかしら?」


「お母様、もう終わりますわ。
ねぇお母様、やはり私も夜会のドレスは持っているものでいいわよ」


「だめよ!
リディのドレスはちゃんと新しい物をあつらえるわ。
その為に今日はマダムローラと約束をしているのだし、
そもそもリディったらサイズが変わってしまったから、去年のドレスでは入らないでしょ」

マダムローラはお母様の懇意にしている衣装店のマダムです。

彼女はお母様のファンでもあるので、いつもジャルジェ伯爵家を優先してくれています。
何と言っても、お母様は社交界の花と呼ばれた有名なお方ですからね。

「ですが、お母様が新しいドレスを作らないのに…それではマダムローラが納得しないのでは?」

マダムローラはお母様のドレスを作る事を切望していますから。

「その事はローラとも話が済んでいるわ。
大丈夫、彼女がちゃんと納得のいくようにしたから」

お母様のドレスを作らないで、マダムローラが納得ってどういう事かしら?

そもそも、なぜお母様が建国際の夜会のドレスを作らないか?と言うと、それは北の領地の復興の為に我が家の贅沢を禁止して、出来るだけ節約をしようと言う事になったからです。

ロエベ子爵からの融資、援助のお陰で資金の目処も付き、あまり付き合いのない貴族に借金をするリスクは回避出来ています。

数年経てばロエベ商会との共同事業などで、収益も見込め
もとの生活には戻れるでしょう。

しかし今現在は出来る限り、出費を抑えて復興資金に回したい。
それがお父様の考えです。

そうは言っても、伯爵家に仕えてくれている使用人達に迷惑は掛けたくない。
だから家族の間の贅沢だけでもと言う話になったのです。


だから、私も今持っているドレスでいいって言っているのに…


「とにかく時間がないから行きますよ」
お母様は私の言葉を遮り出ていきます。

仕方がないので、黙って付いていきます。

       :


王都の西、サントレビス地区ランブラス通り。
ここは貴族御用達の高級店が建ち並ぶ場所。

この通りの一際大きく立派なお店がマダムローラの店です。

「エヴァリーヌ様、お待ちしていました。
リディアーヌ様もお変わりありませんか?」

お店の前に馬車が着くなり、飛び出して来た、マダムローラ。

「ローラ、久しぶりね。
元気だった?」


「こんにちは、マダムローラ」

私達はマダムローラの特別応接室に通されます。

実はマダムローラのお店に私が来た事は数回しかなく、この特別応接室には初めて入りました。
だって何時もマダムが伯爵家に来てくれるから。

ただ建国際前の時期はマダムが多忙な為にこちらから出向いたと言う訳です

この特別応接室はマダムが認めたお客様専用なんですって。

ちなみに今現在はお母様とスワン公爵夫人の2人のみしか使用が認められていないそうですよ。

「ローラ、10着程持ってきたから、あなたが先ずは選んでみて」

この豪華で広い応接室に何を運んできたのかしら?って思っていた長持。

「お母様、10着って?」

「私のドレスよ。言ったでしょ?
ローラが納得するようにしたって」

お母様はマダムローラに作ってもらった私物のドレスを持ってきたと言う。



「このドレスを2人で考えて新たなものに作り変えるのよ」


「その通りです。
これなら1からドレスを作るお値段の10分の1ですみますし、時間もかかりません」

マダム曰く、いつもドレスの材料を最高級品にするから、とてもお高い物になってしまうそうですが、もともとあるドレスを形を変えたり、飾りを足したり取ったりするなら、飾りに使うレースやガラス飾り代と手間賃のみだそうです。

「それに手間賃は私が自ら手掛けるのでかかりませんわ」
とニッコリ笑う。

「だから、それはちゃんと請求なさいって言っているではありませんか」
とお母様。

「いいえ、エヴァリーヌ様にそんなことで煩わせませんよ。
何と言ってもあなたは私の恩人ですもの」

「もう、何十年前の話?」
お母様が呆れて言います。

マダムがお母様を恩人と呼ぶのは、2人が学園のご学友だった頃に遡ります。

マダムローラはプロダンテス男爵の令嬢でした。

プロダンテス男爵は数百年前に廃れてしまったルファラン織を復活させた功績により、一代限りの男爵位を賜った職人さんでした。

父親の貴族昇格によって庶民であったローラ嬢が貴族用の学園に転入してきた時、声を掛けたのがお母様だったようです。
貴族になったとはいえ、もと庶民の男爵令嬢というローラ嬢はとても肩身の狭い思いをしていたようですが、侯爵令嬢だったお母様がローラ嬢を近くに置いたことで随分周りからの対応が変わったと言います。

結婚前のお母様は侯爵家の三女でした。
侯爵令嬢と言うだけではなくその頃からその美しさで憧れの的だったようですしね。

お母様はルファラン織にとても興味があったようでローラ嬢に声を掛けたのだとか。

そこから2人は大好きな生地やレースなどの話で盛り上がり親友と呼び合う程の仲になったようです。

でも、恩人と言うのはその後の事。

卒業後、大好きな服飾の仕事に就いたローラ嬢。
貴族のドレスを手掛けているお店で10年近く修行して、ようやくお店を持てるまでになったそう。

でも、貴族のご婦人やご令嬢は皆贔屓のデザイナーやお店があるものです。
何のコネもなく、パトロンもいなければやってはいけないのです。

全く注文が入らず、裕福な庶民のご婦人からたまに入るオーダーをこなしながら細々と続けている、そんな時にお店を出したと知ったお母様がマダムローラの店に現れたとか。


「もう店をたたみ、父の知り合いの後妻に入れと言われていたような時期でした。
あの時、エヴァリーヌ様が『私の為だけにドレスを考えて。
学園のいた頃の様に2人であれこれアイデアを出して唯一無二の物を作るのよ。
そしたら、私が社交界であなたのドレスを着て皆に見せ付けてくるわ』
と仰って。
あの日からエヴァリーヌ様が私のミューズですわ。
エヴァリーヌ様は学園でも助けてくれて、私がお店を始めたばかりで苦悩している時も助けてくれたのですよ。
私の人生はエヴァリーヌ様に救われていますわ」


お母様は貴族の間で、まだ認知度の低かったマダムローラのドレスを積極的に着て社交界に広めたのですね。
お母様とっても格好いいです。
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