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騙されていた
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ゲルハルト国王はいつまでも、ぐずぐず言っている目の前の息子に苛立ちが抑えられずにいた。
20年程前、まだ自分が息子と同じような立場だった頃、父親の馬鹿な行いにより国が滅びそうになり、多くの優秀な人材を失った。
そして1番悔やまれるのは、この国が聖女を失った事だ。
折角我が国に聖女が現れたにも関わらず、父王は私利私欲の為に聖女を我が物にしようとした。
そしてそれを阻まれると聖女の一族全てを国から追放して、聖女に危害を加えようとした。
この愚行が引き金となり、聖女が助けを求めた隣国に攻められる事になってしまったのだ。
本当に危なかった。
あの時我が国の重鎮達と騎士団と私が協力して愚王に落ちた父の首を差し出し、聖女に許しを乞い、何とか国の存続を果たしたのだ。
2度と同じような愚かな行いを犯す者が出ないように、自らも律し、子供たちにも教え諭して来たつもりだった。
家族も王城に支える者達も皆あの出来事を教訓とし、分かっていると思っていた。
それをよりによって、次期王位に1番近い者に裏切られようとは…
確かに側近たちからも、バイロンは前王に気性や性格が似ていると言われる事は何度もあった。
だからこそ、今までバイロンを立太子とする事をためらってきた。
だが、その懸念が現実となろうとは本気では思っていなかったのだ。
今回エレーナ嬢は聖女ではない。
しかし何の罪もない令嬢を大した調べもせず罪人のように扱い、しかもそれが元で死なせてしまったなど、我が国を支える高位貴族達が知ったらどう思うだろう。
パシュレーヌ侯爵の嘆きと落胆は酷いものだった。
謝罪の言葉も見つからない、娘を死に至らしめた男の親である私が何か言える立場ではないのだ。
目の前のこやつを差し出した所で許されるものではない。
しかしこのまま幽閉すればいいと言う訳にもいかない。
せめてエレーナ嬢が修道院にいて、連れ戻す事が出来れば、当分の謹慎と王位継承権剥奪で済んだだろう。
しかし人一人の命が失われてしまったのだ。
目の前にいる、息子をどう処罰するべきか…
そして何より自分の犯した罪をしっかり自覚してほしかった。
「リリアーヌと婚約などあり得ん。仮に何の罪咎がなかったとしても、彼女は高位貴族として教育を受けていない。王族との婚姻は認められない」
「え? パシュレーヌ侯爵の娘なのに?」
「何を寝ぼけておる。パシュレーヌ侯爵家の娘はエレーナ1人だ。
リリアーヌは後妻の連子だ、あの家とは無関係だぞ?」
「そんな… リリアーヌは… 侯爵家の… 娘だって…
エレーナなんて本当の娘をじゃない… 私だけが本当の侯爵令嬢だって… 言って…
だから、私は間違いを正さなければと」
「はぁー だから、全ては嘘なのだ。
お前はあの女に騙されていたのだよ。
大体エレーナが侯爵令嬢でないならなぜお前の婚約者になれるのだ?
もし、侯爵令嬢でなかったら、婚約者の選定で落とされている筈だ」
バイロンは、目を見開きやっと己の認識の間違いに気づいた。
20年程前、まだ自分が息子と同じような立場だった頃、父親の馬鹿な行いにより国が滅びそうになり、多くの優秀な人材を失った。
そして1番悔やまれるのは、この国が聖女を失った事だ。
折角我が国に聖女が現れたにも関わらず、父王は私利私欲の為に聖女を我が物にしようとした。
そしてそれを阻まれると聖女の一族全てを国から追放して、聖女に危害を加えようとした。
この愚行が引き金となり、聖女が助けを求めた隣国に攻められる事になってしまったのだ。
本当に危なかった。
あの時我が国の重鎮達と騎士団と私が協力して愚王に落ちた父の首を差し出し、聖女に許しを乞い、何とか国の存続を果たしたのだ。
2度と同じような愚かな行いを犯す者が出ないように、自らも律し、子供たちにも教え諭して来たつもりだった。
家族も王城に支える者達も皆あの出来事を教訓とし、分かっていると思っていた。
それをよりによって、次期王位に1番近い者に裏切られようとは…
確かに側近たちからも、バイロンは前王に気性や性格が似ていると言われる事は何度もあった。
だからこそ、今までバイロンを立太子とする事をためらってきた。
だが、その懸念が現実となろうとは本気では思っていなかったのだ。
今回エレーナ嬢は聖女ではない。
しかし何の罪もない令嬢を大した調べもせず罪人のように扱い、しかもそれが元で死なせてしまったなど、我が国を支える高位貴族達が知ったらどう思うだろう。
パシュレーヌ侯爵の嘆きと落胆は酷いものだった。
謝罪の言葉も見つからない、娘を死に至らしめた男の親である私が何か言える立場ではないのだ。
目の前のこやつを差し出した所で許されるものではない。
しかしこのまま幽閉すればいいと言う訳にもいかない。
せめてエレーナ嬢が修道院にいて、連れ戻す事が出来れば、当分の謹慎と王位継承権剥奪で済んだだろう。
しかし人一人の命が失われてしまったのだ。
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そして何より自分の犯した罪をしっかり自覚してほしかった。
「リリアーヌと婚約などあり得ん。仮に何の罪咎がなかったとしても、彼女は高位貴族として教育を受けていない。王族との婚姻は認められない」
「え? パシュレーヌ侯爵の娘なのに?」
「何を寝ぼけておる。パシュレーヌ侯爵家の娘はエレーナ1人だ。
リリアーヌは後妻の連子だ、あの家とは無関係だぞ?」
「そんな… リリアーヌは… 侯爵家の… 娘だって…
エレーナなんて本当の娘をじゃない… 私だけが本当の侯爵令嬢だって… 言って…
だから、私は間違いを正さなければと」
「はぁー だから、全ては嘘なのだ。
お前はあの女に騙されていたのだよ。
大体エレーナが侯爵令嬢でないならなぜお前の婚約者になれるのだ?
もし、侯爵令嬢でなかったら、婚約者の選定で落とされている筈だ」
バイロンは、目を見開きやっと己の認識の間違いに気づいた。
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