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求婚

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 レオンハルト殿下の、この国を護る女神ルナリス様への求婚に会場全体は静かに衝撃を受けていた。
大騒ぎにならなかったのは、殿下の求婚相手が畏れ多くも女神様だったからだろう。


皆が固唾を飲んで見守る中、ルナリス様はーー。


「レオン、ごめんね~。私はこの国の民全てを愛しているから誰か一人を選んで結婚する事は出来ないわ。」


何とも軽い口調での求婚のお断りだった。求婚、即お断りであった事は、、、まぁ、そういう場合もありますわよね。


その様子を見守る周囲の目は冷めきっている。

でもそれはそうだ。
神様に対していきなり人間如きが求婚するなど不敬どころか罪深き事と考える者もいるだろう。
しかもつい先程まで勘違いだったとはいえ、ルナティア嬢を初恋の人だと言い切っていたのだ。


愚かな王子だ、と嘲りの言葉が何処からか漏れ聞こえてくる。


「勿論、レオンも私の愛しい子よ?だってこの国の民は全て私の愛しい子だもの。」


 周囲にいる貴族たちの心を知ってか知らずか、ルナリス様は慈愛の微笑みでもってサラリと言って辺りを見回す。
その言葉に第一王子を蔑んでいた者たちも感動に打ち震えルナリス様を一心に見つめている。


「あっ、でも悪い子にはメッ、ってお仕置きはするわよ?

だって悪いことをしたら叱るのも親の務めですもの。

私は相手の瞳を見つめれば、その人がした事の全てを見通す事が出来るのよ。」


笑顔のまま片目をパチリと瞬きして言ったルナリス様の言葉に、さっと視線を床に俯ける者の多い事と言ったら、、、。


あらっ?国王陛下だけでなく、隣に居るお父様まで?

一体、どんなやましい事があるのか、気になりますわね。
後方で私たちを黙って見守って下さっていたお母様の目がキラリと光っていますわ。


しかし、、、、皆の気持ちを上げて落とす。

ルナリス様は天然なのか、狙って仰っているのか。


「わ、私の事を愛しい、と!」


・・・・レオンハルト殿下。都合の良い部分だけ聞き取って、、、。
このままでは思い込みでまた暴走してしまうのでは、とニコニコと微笑んでいるルナリス様を見る。


「でも、レオンは私のどこを見て好きになったの?」


コテンと首を傾げるルナリス様は可愛い!そしてあざとい!


「えっ!?そ、それは八歳の時、ひと目見た瞬間に私は恋に落ちたのです。

それからはずっと貴女一筋で生きてきました!」


頬を染めてモジモジと照れながら言うレオンハルト殿下の姿は、、、キモッ!

そして何度も言いますけれど、ルナティア嬢を私の女神だ、と断言していましたよねぇ。
ルナリス様ルーナの名前も覚えていなかったようですし。


「えっ、それならレオンはマリちゃんの事が好きなんじゃないの!?」


「「はぁっ!?」」


思わず出た言葉はレオンハルト殿下の声と重なってかき消され、私の淑女としての体面は保たれたようですわ。


「だって昔も今も地上に降りたこの姿はマリちゃんの姿を借りているんだものっ。」


ケロリとして言うルナリス様の言葉にレオンハルト殿下だけでなく、お父様を抜かした会場の人たちも驚いている。


えぇっ?そこ、そんなに驚くところかしら?


不躾に私とルナリス様を見比べる視線に少し不愉快な気持ちになる。


「な、何を言っているのですか、ルナリス様は。

マリエッタと貴女とでは髪の色も瞳の色だけでなく、全てが違っているでしょう。」


・・・・一番失礼な男がここに居たわ。


 確かにルナリス様の今のお姿はピンクブロンドの髪に青い瞳だ。
対する私はシルバーブロンドに紫の瞳をしている。それにルナリス様の髪はフワフワとした緩く波打つような髪をしている。


でも違いはそれだけ。


「あ~、何故か髪と瞳の色は元のままなのよねぇ。

私は地上ココには肉体を持たないのよ?

だから地上に降りる時は呼び出した者の姿で仮の肉体を作って姿を現しているの。
だからね、容姿はマリちゃんと同じなのよ。

そのお陰でホラっ、今だって透けたりしないで、ちゃんと人間と同じ体を持っているでしょう?

・・・え~と、一瞬だけならイケるかな?エイッ!

ね?髪も瞳も同じにすればマリちゃんそのものでしょ?」

そう言ってルナリス様がパチンと指を鳴らすと髪と瞳も私と同じになった。


「なっ!?た、確かにマリエッタが二人、、、。

いやっ!

で、ですがっ、あの時、私はルナリス様、貴女に恋をしたのです。

あの日、初めて会った貴女は私の目には輝いて見えましたっ!

あの美しい姿に心を奪われたことは嘘偽りの無い真実なのです。」


自分の恋心を否定されたレオンハルト殿下は必死になって言っているけれど、、、輝いて見えたって、本当に輝いていたんじゃないかしら?

だって、ホラ、ルナリス様は女神様だから。


地上に降りて来て、肉体を持ち人の姿をしていても神々しさは隠しきれないのよ。
だって今も神々しいオーラがルナリス様の体から滲み出てているもの。


「そ、そっか。レオンは本当に私の事が好きなんだね。ありがとう。」


 既にルナリス様本来の髪と瞳の色に戻っているルナリス様は、殿下の態度に若干引き気味になりつつも何とか女神スマイルを維持している。
全ての民を愛している、と仰られた女神様にドン引きされている殿下って、違う意味で凄いと思いますわ。


「あ、もうそろそろ戻るわ。女神降臨のスキルは膨大な魔力が必要だからマリちゃんの負担も大きいものね。」


この程度の時間なら日々研鑽を積んでいた私にとって問題ありません。
ですが、ルナリス様の様子を見るにそろそろ殿下の相手をするのが面倒になってきたのでは、と長年の付き合いの私には分かります。
ルナリス様の意思を尊重しようとした時、またも殿下が口を開いた。


「あのっ!私も修行を積めばルナリス様とまたお会いする事ができるのでしょうか!」


 目をキラキラと輝かせ、やる気に満ちた表情を浮かべる殿下を見るのはいつ振りかしら。
殿下の関心が全て初恋の人ルナリス様にしか向いていなかったのが、よく分かったお言葉ですわね。


でもコレは修行で得たモノではないから。女神様から与えられた特殊スキルですから。


「・・・・・え~と、えっと、、、ちゃんと修行を積めば、会話ぐらいは出来る、、、かも?」


ルナリス様っ、またっ、そんな適当な事を!!


会話って、、、それは最早、神託レベルの状態ですよね?


レオンハルト殿下を見れば、あぁっ~!更にやる気に満ち満ちていますわっ!



「一刻も早く貴女の声が聞こえる様に頑張りますっ!!

ルナリス様、いつでも私を見ていて下さいねっ!」


 嬉しそうに尻尾をブンブンと振る犬の様に、瞳を輝かせているレオンハルト殿下に、ルナリス様だけでなく、私を蔑ろにした殿下の事を呪う勢いで怒っていたお父様まで毒気を抜かれて引いていますわね。



「う、うん。レオン、頑張ってね。期待している。

じゃ、じゃあ私はそろそろこの辺で戻るわね。」

 早くこの場にを去りたい気持ちが表情にありありと出ているルナリス様がそう言って消えようとした瞬間に待ったを掛ける声が掛かった。


「お待ち下さい、ルナリス様っ!!

戻る前に私を聖女に認定していって下さい!」



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