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22年前の事の顛末と今

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「22年前の騒動、というものが父上と母上の事だというのは分かった。

しかし、『真実の愛』で結ばれた父上たちと、それに便乗して横暴な事をした者たちは別だろう?

それなのに何故、法律まで作る事になるのだ?」


う~ん、確かにアルフリート様の言っている事も正しいように聞こえるけど。


私がサラッと『婚約破棄宣言』の前にと言ったのを聞いていたのかしら?実際は陛下の不貞行為だったんですよ?


その上、レティシア様は冤罪だった、と言ったのを覚えているのだろうか?敢えて冤罪の真相は言いませんでしたけれど。


そもそも当人と家族で婚約の解消を話し合うのは問題は無いのよ。性格の不一致や家の事情が変わるなどは往々にしてある事ですからね。


けれど先に不貞行為があり、この国の王太子が公衆の面前で婚約者を糾弾し婚約破棄を言い渡したのは結構な問題だったと思う。しかも不貞した側が冤罪を吹っ掛けて婚約破棄を突きつけたのよ?


それを真似した貴族の子息子女の所為で同じ派閥の貴族同士でも関係が悪くなる事態が起こり、一時期、この手の問題で王宮の業務が滞る事になったらしい。

おまけに他国にも知れ渡ってしまったから、諸外国の貴族との縁組にまで支障が出て国としても事態を重くみた文官や貴族たちから前国王はかなり責めたてられた。

その結果、前国王は心労が祟って数年後に亡くなられたと言われている。


これほどの騒動になってしまえば、新しい法律の一つや二つ、出来てもおかしくないと思うんだけど。


更に断罪した内容は全て冤罪だった上に、結局王妃様は公務はさっぱり、で茶会や夜会に出席ぐらいしか出来なかった。しかも国内限定で。

その結果、お2人の尻拭いをする為にレティシア様は第二妃にならざるを得なかったのだ。冤罪に婚約破棄の上、結局、自分を糾弾した相手に嫁がなくてはいけない、なんてどんな苦行よ。


レティシア様は『氷の女王』と一部で言われているように一見、冷たい雰囲気のある綺麗なお方だ。

けれど実際は情に厚く、家族友人に対してだけでなく相談にきた相手の為に心を砕き親身に相談に乗ってくれる心優しい女性だ。

実は女性からの信頼と人気のある人だった。今では王宮の文官たちの人気も絶大だと聞いている。



22年前の当時、庇護欲を唆られる容姿に誰にでも笑顔で接する愛らしい王妃様ルナマリア様と、淑女の振る舞いとしては完璧でも近寄り難い雰囲気を持ち滅多に笑う事の無かったレティシア様は容姿、性格ともに正反対のお2人に見えたそうです。


王太子様がレティシア様に苦手意識を持つ一方で、表情豊かに喜怒哀楽がハッキリとしている貴族令嬢には無い振る舞いが新鮮に見えたルナマリア様に惹かれてしまったのは、仕方の無い事だったかも知れない。


けれどそれならばレティシア様に対して真摯に向き合い、あんな形ではなく話し合えば良かったのに。長い間婚約をしていたのだから多少なりとも婚約者の事も理解しているものじゃないの?


それなのに王太子はレティシア様に歩み寄りも話を聞く事もないまま、卒業パーティーで一方的に断罪したんだ。

ルナマリア様を虐めるレティシア様を悪、だと決めつけて。


表立って王族の人間に意見をする令息令嬢は少なかったけれど、非がどちらにあるのか、良識のある貴族たちは分かっていた。


それでも結局、矢面に立たされたのは前国王で2人は直接抗議を受ける事は無かったらしい。前国王も随分と息子に甘いお方だったようね。

けれど、将来の国王が後の騒動を牽引するような騒動を引き起こしておいてそれで良い訳がない。


あの法律は馬鹿な輩をこれ以上出さない為でもあったけれど、陛下にお灸を据える意味もあったんじゃない?って今は思うのよねぇ。


自分の行いの所為でこんな法律が出来てしまった、って結構な恥だと思うのよ。


その後はレティシア様のお陰か、だいぶ真面になってきたみたいだけど、まさか溺愛する息子が同じ事するとは思ってもみなかったでしょうね。

王妃様のお願いには弱い方みたいだから予想出来た未来だった気もするけど。



「その当時はそれはひどい騒動に発展した事例や諸外国との関係も一時期悪化したと聞いています。

それ故、同じ過ちを犯さぬ為にと法律が出来たと伺っています。

残念ながらアルフリート様は陛下たちを真似てこの様な事をなさってしまいましたが。」


チラリとアリスさんを見るとまだ何かブツブツと言っているわね。



こんな筈じゃなかった!


というセリフは私が言いたいわ。どうしてくれるのよ、この状況を!


「アルフリート様、これで私への疑いも晴れたと思います。これ以上をこの場で言わない為にも、この後は別の部屋で話し合いをしませんか?」


どうよ。これで一先ず、この場から移動すればいいんじゃない?


まぁ、回りくどい言葉を使っちゃったけど、アルフリート様もそろそろ察してくれたんじゃないかしら?何がダメなのか、を。


「なんだ、そのとは。婚約破棄されたくないのは分かるが、皆にも分かるようにハッキリと『婚約破棄』と言わないか、婚約破棄と!


なんだか分からんが法律が作られたのは分かった。

しかし、それと俺とお前の婚約を破棄するのは別問題だぞ?分かっているのか?」



全く分かってなかった~!!お陰ではなく所為、でしょうが!


別問題じゃないでしょっ、関係あるよね?あなたたち、22年前の真似を思いっきりしてたじゃないっ!私、さっきそう言ったよね?


私だって回りくどい言い方だな、とは思ったわよ。でも、これ以上、言って欲しくなかったのに、、、。


3回以上、言った時点でアウトだったけど、でも、それでも、、、。


あぁ、もうっ!悲しいのか悔しいのか、分からないけど我慢していた涙がぐっと込み上げてくる。


結局、私が嫌がらせを否定しようが陛下たちの話をしようが、は私の話を聞いて理解しようなんて事はこれっぽっちも思っていないのよ。


アルとの距離が出来てから私が何も悩まなかったとでも思っているの?こんな風に皆の前で断罪されて私が傷つかないと思ったの?我慢していた想いがどんどんと溢れてきて余計に涙が出てくる。


「ア、アルのばかぁっ!どうして気づいてくれないのよぉ~。うぇっ、うっ、う、、、。」



気づけば公衆の面前だというのに、淑女らしからぬ大声を出し、子どもの様に泣き叫んでしまった。


卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられるなんて恥ずかしくて『何でこんな目に遭わなきゃならないの?』という気持ちで悲しくもなった。でも、それ以上にこの場をなんとかしないと、と頑張ったのに。


やらかしちゃったアルに、自分で気づいて形だけでも謝罪と婚約破棄を訂正し解消の形に持っていって欲しかった。そうすればまだ処遇については何とかなるって思っていたのに。


「ど、どうしたっ、ミレーヌ!泣くほど俺との婚約を破棄されるのが嫌だったのか?

でもお前の気持ちには応えられないんだ。済まない、俺は真実の愛を貫きたいんだっ。」


狼狽えながらまだ言うかっ!


このお馬鹿さんがぁっ~!!






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