【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり

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後編

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「王妃様が婚約者として認めていない者を王宮の方々が、次期王子妃として認められると思いますか?」


「母上が何かしたと言いたいのか!」


顔を真っ赤にさせている殿下と対称的に真っ青になるソフィア様。婚約者を蹴落として、王子妃になる事がそんなに良いモノじゃないと今更気付いたのかしら?


「王妃様は?」


えぇ、王妃様はね。


「では出鱈目を言って、ソフィアを怖がせようとしているのか!」


出鱈目じゃなくて、どちらかというと親切心てやつじゃない?



「まさか。でも殿下の婚約者となる心得?体験談はお教えした方が宜しいかもしれませんわね」


「はっ!お前なんかに教えてもらわなくともー」


「ぜ、ぜひっ聞かせて下さいませんかっ」


ヴィンセント殿下の言葉を遮って、食い気味に聞いてきたソフィア様はもう想像がついているのかも知れないわね。それとも話を聞いて対抗策を考えるのかしら?だとしたら関心しちゃうなぁ。



「ふふふ、王子妃を目指すなら気になりますわよね。私は8歳になる頃より王子妃教育の為に王宮に部屋を与えられて住んでおりました。

しかし王宮に住んでいても王族の方たちとはお食事はご一緒する事は出来ませんでしたの」


「はっ、そんな事。貴様のマナーがいつになってもよくはならなかったからだろうが!」


『そんな訳ないじゃん!』って、食堂に居る生徒たちの表情が語っているのに全く気づいていないわね。王宮に引き取られてからどれだけ経っていると思っているのよ。

テーブルマナーもまともに出来ない令嬢が学年首席を取り続けられると思っているのかしら?


「まぁそういう理由でずっと自室で食事をさせられていましたわ。使用人以下の食事内容で、でしたけれど。

『忙しい侍女たちの手を煩わせるな!』と茶会や夜会の時などのドレス着用時以外では、誰も身の回りのお世話はしていただけませんでした。

それに何故かいつも湯浴みの湯も冷水に近いモノでしたわねぇ。まぁ、これらは大した事のない軽い嫌がらせでしたわ」


いや、本当にこれは軽い方だったのよ?本来私に届くべき食事はどこに消えたのか、とか湯浴みと言いつつ水風呂でしょ、と思ったりしたわよ。

けれどお陰様で王宮に住み始めて一年経った頃には病気知らずな健康体になったのよ、以外では。
などと考えているとソフィア様の顔色が青から白に変わっている。人の顔色ってこんなに分かりやすく変化するものなのね。


これくらい普通よ?

あの王宮と言う名の魔窟では、と小首を傾げながら見つめてしまった。


「まぁ、これらは慣れればどうという事もありませんわ、ソフィア様。覚悟が要るのはやはり毒の耐性をつける訓練でしょう」



「・・・毒」



ぶるりと大きく身震いしたソフィア様をヴィンセント殿下が抱き寄せようとするけど、彼女はそっと殿下の側から離れようとした。

彼はその態度に唖然としたかと思ったら私のせいだ、と言わんばかりにギロリとこちらを睨みつけてくる。


「マリアっ!そうやってお前は無駄にソフィアを怯えさせるとは本当に意地の悪い奴だな。確かに毒の耐性をつける訓練は王族では重要で妃教育でも必須だ。

しかし毒の知識や匂い、色などから訓練し万全を期して、毒を10倍以上に薄めた物から始め、精々が寝込んでも半日程度の事だっただろうっ!」


「それは殿下の場合ですわよね。私の場合は『平民は貴族よりも体が丈夫でしょう?』という理由で、薄めずにティースプーン一杯から始められましたわ。お陰で初めての時は1週間ほど意識が戻りませんでしたの」


あの時は本当に死んだと思った、いやマジで。

ティースプーンてもう致死量よね?

だってその後、やり過ぎたと気付いたのか?コップ一杯の果実水に混入して訓練させられたけれど、普通は毒の量の方を減らさない?


「ま、まさか。そんな事がある訳ないだろっ。俺だってそのような訓練はした事ないぞ。それに毒味係も居るからと訓練は数回しかした事はない」


あ~やっぱりそうだったんだ。私には『王子も毎回、同じ事をしています』と言って最低月1回はしてたよね、侍女アイツら!


「それは初耳ですわ。私の場合、普段から侍女たちに食事に体調を崩す毒?薬?を混入されて、丸一日寝込んでは『努力が足りない』と罵倒されておりましたが。

毒に対して努力が足りないって、ふふふ。面白い事を言いますわよねぇ。

ソフィア様の場合は私よりも長く市井におりましたから、もっと体が丈夫だと判断されるかもしれませんわね。その場合どれぐらいの量から始められるのかしら」


 流石に死なれたら困るようで、下剤とか痺れ薬とかが多かったかしら?
毒の訓練とは関係なく侍女が勝手にしていたことでしたけれど。

アイツらなら相手が男爵令嬢ならもっと酷くしても良いって思っていそうだ、とソフィア様を見れば、もうこの場から早く立ち去りたいように後ろの側近候補たちを縋る様に見始めた。


「あ、流石に一度、王妃様にも訴えましたのよ?侍女や教師に嫌がらせを受けているって。

そうしたら『つまらない嫌がらせぐらい自分で対処できなくてどうするのか!』と叱責されてしまいましたわ。

ソフィア様、王子妃教育が始まったらは、ご自分で対処した方が王妃様の心象は宜しいようですよ?」


そう言ってソフィア様ににっこり微笑めば、彼女は『ひっ!』と小さく悲鳴を上げた。


「それに、、、、何故か殿下とのお茶会の前日に盛られる事が多くて、お茶会が中止になる事が度々ありましたわね。

体調を崩し、無理してお茶会に出た時も『何だその態度はっ!』と殿下に叱責されたのも、今となってはですわね」


本当に侍女たちの嫌がらせも徹底してたわ~。王妃様の命令だったのでしょうけれど。そうして機嫌を損ねたヴィンセント殿下にどんどん嫌われて、お茶会も無くなってしまったのよ。

まぁ、それで多少はを盛られる頻度が減ったと思えば、私的には良かったのだけれど。


あー、これ、もう最後だから全部暴露しちゃおっ。この数年、命の危険に晒されて嫌な思いばっかりさせられた挙句に冤罪とか冗談じゃないわ。


「そうそう、ソフィア様への嫌がらせの数々ですが、この際キチンと否定させて頂きますわね。冤罪をかけられて罰を受けるのも嫌ですので。

私が取り巻きを使って嫌がらせをした、とも仰っていましたが、私にはで動く取り巻きなどおりませんわ」


「嘘を吐くな!現に今もお前の後ろに取り巻きたちが控えているではないかっ!」


ヴィンセント殿下が私の後ろを指差して叫ぶ。まだ私を悪者にしたいか。もうソフィア様に王子妃になりたいという野望は無さそうなんだけどなぁ。


「彼女たちとは一緒に行動をしていただけです」


チラリと後ろに目を向ければ、彼女たちの顔色もやや悪くなっている気がする。仕方ないよね~。

他の生徒の目がある中で始まった断罪劇にどうする事も出来ず、ましてや女生徒に嫌がらせをしていたと認知されれてしまえば、ご令嬢として瑕疵がついてしまいますものね。


「一緒に行動しているという事はお前の取り巻きだったという事だろう」


そう思いたいのは分かるけど、、、。


「いえ、が一緒に居るだけです。何故なら彼女たちは王妃様が用意した私のご学友という名の監視役ですもの」


「なっ」


「マリア様っ」


「それはっ」


私の言葉に彼女たちが大きく動揺するが、続く言葉が見つからないらしい。

学園入学前に王妃様のお茶会で紹介された彼女たちは、一見、友好的に見えて私の学園での行動、振る舞い全てを王妃様に報告をしていたのを私は知っている。


 笑顔で話しかけているようでその目は私を蔑んでいた。そして『ソフィア様にもっと制裁を』と囁いてきてもいた。

 彼女たちは私のアラを探したい王妃様の密偵の役割と、あわよくば自分達が殿下の婚約者の座を射止めたいという欲も有ったようだ。


「ですので彼女たちが私の命令で動く事はありませんわ。まぁ、もしかしたら私を陥れる為に勝手にソフィア様に嫌がらせをしていたかも知れませんが」


「そ、そんな!私たちはマリア様の監視が目的ですので、マリア様の側を離れるなんて事はしていませんっ!」


あー、自分で監視してるって認めちゃった。


「そうですっ!ソフィア様など『羽虫如き、いつでも潰せるから捨て置け!』と王妃様が仰っていました。ですから私たちが態々嫌がらせなどをする訳がありません!」


え、その発言はヤバくない?
あっ、言った本人も失言に気づいて真っ青になっているし、言われたソフィア様はもう目に見えてガクブルだわ。


「な、な、、、、母上がそんな事を、、、」


 ヴィンセント殿下も、もうソフィア様の様子に気を配る余裕も無くなったきたみたいね。

このままソフィア様を婚約者に据える事の危険に漸く気付いたか、それとも王妃様の別の一面を知らされてショックが大きいのか。


あら、じゃソフィア様への嫌がらせって一体?他に犯人が居るのか、自作自演か?
まっ、どちらでも構いませんわね、私には。



「と、いう事で私にかけられた冤罪疑いは晴れた、と思って宜しいかしら?」


 そう言って殿下たちを見れば、側近候補たちは食堂に居る生徒たちの厳しい目が自分たちに向けられていた事に漸く気がついたのか、それとも王妃様とヴィンセント殿下のヤバさに気づいたのか。
どうやってヴィンセント殿下と距離を取ろうかというように挙動不審な動きをしている。


 ソフィア様はといえば、完全にヴィンセント殿下から距離を取り、側近候補の一人の腕に縋るよう張り付いている。
そんな事にも気づけないほどショックを受けているヴィンセント殿下は、やっと自分の母親のヤバさに気づいたのかしら?


「マ、マリア。俺たちの間にはその、、、色々と誤解があったようだな?庶子とはいえ、お前は公爵令嬢で、学園での成績もずっと首席だった優秀な女だ」



え?やだ、この話の流れ。万が一、母親の意に沿う婚約者が見つからなかった場合の保険にするつもり?まさか婚約破棄を無かった事にしようとしてる?


それは絶対に嫌よ!!



「殿下ぁ~!戻りました!間違いなく神殿で婚約解消を受理して頂きましたよ!殿下は晴れて自由の身です!」


「なっ!ちょっ、待っ、、、、」


ヴィンセント殿下の側まで走り寄って嬉々として語るデイビッド様、良いタイミングですわ!


「では正式に殿下との婚約は解消されましたわね。殿下、ソフィア様、でもって、王妃様に婚約を認めて頂けるよう心からお祈り致しておりますわ」


そう言って立ち上がり、デイビッド様から婚約解消承認の写しの方をサッと受け取った。奪ったとも言うかも知れないけれど。

出て行った時と違う場の雰囲気にデイビッド様は首を捻っているけれど、ソフィア様はもう全力で首を横に振っていらっしゃる。


ヴィンセント殿下の伴侶の座を狙っていたであろうワトソン伯爵令嬢たちも、この場で面白がって様子を見ていた女生徒も、もうヴィンセント殿下と視線を合わそうとはしない。


そりゃそうだよね~。私の話を聞いて婚約者に立候補しようとする強者は中々居ないでしょ。王妃様が先頭に立って探し続けているのに未だに見つからないんだもの。見つかってもお断りされている状況だしね。



「待っ、待てっ、マリア!何処に行く!」


既に歩き始めた私をヴィンセント殿下が焦って呼び止める。

あら、自分でも気づいちゃったのかしら、自分が事故物件て。


「殿下と婚約を解消した私は、王宮にも公爵家にも戻る場所はございません。平民となる身なれば、この学園に在籍する資格もございませんでしょう?今すぐに学園を去り平民として生きていくつもりですわ」


婚約解消となったら当然べルージュ公爵家は私を放逐するだろう。元々、無理矢理に私を公爵の娘として認知させられたのだ。愛情も無ければ醜聞にしかなり得ない。それならばさっさとこの場を去るべきだ。



「い、いやっ、それはまず王宮に戻ってから話を、、、」



「いいえ、私のような平民がこのような場にいるのは問題でしょう。殿下、今までありがとうございました。それでは失礼致します」


最後だからと制服のスカートをつまんで殿下に向かって丁寧にカーテシーをすると、飛び切りの笑顔で別れの挨拶をした。


はぁ~スッキリした!!


背後からヴィンセント殿下の声がしていたけれど、早くこの場を離れなくっちゃね。



 そうして足早に学園の外に出ると、兼ねてから協力をお願いしていた人に連絡を取る為に、あるお邸に向かって私は足早に歩き出した。



* * * * * *


「そう言えばヴィンセントはまだ婚約者が見つからないらしいですよ?」


昼の時間が過ぎ、人の姿がまばらになった食堂のテーブルについた青年が、椅子に腰掛けながら私に声をかけてきた。



「あら、そうなんですか?なんて、やっぱり中々に出会えるものではないのですねぇ」



果実水をテーブルに置きながら返事をすると、グラスから手を離した途端にすっと手を取られた。



「マリア、そろそろ私のプロポーズを受けて下さいませんか?」


「それは在学中からお断りしていたと思いますけど?」


 彼、ミシェル様はこの国、ブラン帝国から隣国のチェン王国に留学していた1学年上の先輩だった。

 王妃様の付けたご令嬢たちは日々私を監視はしていたけれど、として留学していたミシェル様との交流には気付いていなかった。


 白銀色の長い髪にアメジスト色の瞳を持つミシェル様は、女装をしていなくても女性以上の美しさを持つ美丈夫だ。

何故女装を?というと、お家騒動に巻き込まれて命を狙われていたのだとか。

チェン王国に住む親族を頼り、一時的に身を寄せていた彼は性別を隠し学園に通っていた。


 そんなミシェル様の女装に何故、私が気付いたのかと言えばそれは小さな偶然からだった。
 その偶然の出会いをきっかけに私の境遇について話を聞いたミシェル様は、帝国に戻る日までずっと親身に話を聞いて下さった。

そして帝国に戻ってからも親族を通じて力になってくれていたのだ。私の家族の行方を調べて下さったのもミシェル様だ。



 偶然にも私の家族はチェン王国寄りのブラン帝国に移り住んでいた。口止め料を押し付けられ王都から離れたもののこのままチェン王国に住んでいるのは危険だ、と判断した為だ。

その後、ミシェル様のご好意で義父たちはブラン帝国の南の端の小さな領の田舎町で食堂を営んでいる。


 私もあの日、チェン王国に住むミシェル様の親族のお邸を訪ね、ミシェル様の助けも借りて、王族に気付かれない内にこのブラン帝国に移り住んだのだ。平民に戻ったら王妃様の息のかかった者に口封じされてもおかしくはなかったからね。


 そうして私は離れ離れになっていた家族たちとやっと再会する事が出来たのだ。
あれから2年、私は家族たちと一緒に食堂を手伝っている。

その食堂によく立ち寄ってくれるミシェル様は、お忍びスタイルなのに全然隠されていないんだよねぇ。キラキラオーラが半端ない。


「在学中は一応、ヴィンセントという婚約者が居たからでしょう?けれど今の君には恋人も婚約者も居ない。何の問題も無いはずです」


ミシェル様の事は親身に相談に乗って頂いた時から実はお慕いしている。けれどミシェル様は元とはいえ、この国の第6王子だった方だ。


お家騒動が終結した際に王位継承権を完全放棄し、この小さな領を貰い受けているに過ぎないと言っているが、それでも王族だった方だし今の肩書きはクワン子爵だ。


長い間、嫌がらせを受け、婚約破棄に冤罪、と、王族も貴族ももうこりごりだと思っている、そう言ってプロポーズを断り続けたのだ、それに、、、。


「マリア、いい加減素直になりなさい。確かにマリアも私らも王族や貴族には嫌な思いをさせられた。でもそれを助けてくれたのも元王族で貴族のミシェル様なんだよ。

こうして私たちが身の危険も感じずに暮らしていけるのは、ミシェル様が尽力して下さったからじゃないか」


お祖母さんが何度目かのやり取りに呆れたように言った。


「母さん、マリアは何度もミシェル様のプロポーズを断った手前、今更素直に頷く事が出来ないだけなんだよ。王族云々は只の言い訳さ」


「お父さんっ!」


長い間離れていたのに義父さんには私の気持ちはすっかり筒抜けのようだ。焦ってミシェル様の方を振り向けば、それはそれは甘い瞳で蕩けるような表情をして私を見つめていた。


だなんて言うつもりはありません。それでも私はこの地でずっとマリアと笑い合いながら一つづつ思い出を増やしていけたら、と思うのですよ。だからどうか私と結婚して下さい」


「私は平民で平凡な食堂の娘ですが、それでも良いのでしょうか?」


下位貴族になったとはいえ、高貴な血筋のミシェル様と私では身分が違う。それでもミシェル様は素敵な笑顔でこう言った。


「勿論。君が貴族の庶子でも平民でも私は君を愛しているよ」




END





お付き合い下さりありがとうございました。




















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