元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

しずもり

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レンとリアの旅 〜過去編〜

レンとリア

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 レンとリアがラックスの街を出てから一ヶ月ほどが経った。

乗り合い馬車を乗り継いで、パーテーン国の右隣ティモテ王国まであと少し。レンの心的疲労を考えなければ、旅は順調に進んでいた。アメリアからすると、だが。


この間、リアが投げ飛ばした輩の数は、、、十を超えたところでレンは数えるのを放棄した。

 レンもこれ程とは思っていなかった。二人が拠点としていたラックスの街では面と向かってリアを口説きにくる輩は滅多にいなかったからだ。

何しろ、最初は小汚い小僧のようだったし、模擬試合でS級冒険者を投げ飛ばした姿を見ていた者はまぁまぁ居た。

そして小汚い小僧がか弱い系美少女に変身しても、そこには既にS級冒険者魔王がピッタリと背後に控えていたのだから。


 だからリアに絡んでくる不埒な輩は、ラックスに来たばかりの冒険者か、脳筋どころか脳みそ空っぽな後先を考えない力自慢の阿呆ぐらいだった。その誰もがリアに投げ飛ばされている。


 だが、ラックスを離れてみれば、リアの事もレンの事も知らない者ばかりなのは当然だ。レンだって四六時中、魔王のような圧を出している訳ではないし、誰かれ構わず威嚇していない。
そんな事をしていたら余計に目立つからだ。

だからついついリアには口煩く注意を促していたのだが、それがどうやらリアには不満だったらしい。



「リア、お前は気付いていないかもしれないが、お前の容姿は目立つんだ。」

レンの口から出てきた言葉が予想外だったのか、リアは意味が分からないそうな表情を浮かべている。


それはそうだろう。先程、投げ飛ばした男を放置したまま、レンはリアの腕を取りサッサと宿泊している宿まで戻って来たのだ。
部屋に戻ればレンのお説教が始まるとでも思っていたのだろう。

いつもならそうだった。だが、レンは漸く気が付いたのだ。


リアは自分が男どもに、それも直ぐに投げ飛ばしてしまうような態度を取ってくるに何故、声を掛けられるのか、全く理解していない。


理解していないからレンが口を酸っぱくして言ってくるのもとしか思われていないのだ。

レンが心配している事は分かっているように思う。でもそれもで、行き過ぎた心配だと思われている気がする。


本人に自覚が無ければこの先も同じ事の繰り返しだろう。それではレンが疎ましく思われるだけで終わる。


それでなくともリアにとってレンはだと思われているのだ。

いや、リアの様子を見るにそもそも恋愛には興味は無いようなのだが。


それ以前に!

いくらレンが指導担当者をしていたとはいえ、四六時中一緒にいる二人の関係を、周囲からはと見えていなかった事にレンは今更ながらに気付いた。


レンとしてはリアに近付いて来る男どもを蹴散らす為にも彼女の傍から離れずにいた訳だが、もう一つ、リアとレンは、と思わせる狙いもあったのだ。


 二人の歳の差が八歳もある、というのはあるのだが、そんなカップル・夫婦は山ほどいるだろう。
年齢も二十四歳と十六歳ならばそれほど不自然ではないはずだ。

何しろ美男と美少女だ。お似合いのカップルだと思われていてもおかしくはないだろう。
ならば、そんなお似合いな二人の間に割って入ろう、などと余程の自信がなければ無理だ。

それなりに容姿に自信のあるレンはそう思っていた。割と本気でそう思っていた。



だが、大した問題ではないが、二人が恋人同士には見えない大きな理由があった。

思い出してみればレン自身も最初に思った事だった。そして大いに驚いた事でもある。


それはリアの見た目が実年齢よりもずっと幼く見える事だ。


レンだって初対面のリアを見て十二、三歳だと思ったのだ。他の者たちだってそう思っていてもおかしくはない。

年相応のレンの隣にいるリアが、歳の差が八歳だとしても、実際には十歳以上離れているように感じていた者たちも多かったのだろう。

二十四歳の男に十二、三歳に見える女の子。


・・・・微妙だ。これが貴族の家同士の政略的に結ばれた婚約者同士、というならば無くもない。

だが、市井の、冒険者同士の、となると兄妹、若しくは師匠と弟子ぐらいにしか見えない。

リアの隣で番犬のようにレンが威嚇していても、" 妹又は弟子に変な虫がつかないよう見張っている。"と思われていただけなのか。


『可愛い妹を持つ兄ってのも大変だねぇ。』


そんな風に思われているなど考えもしなかったレンは見物客の誰かの言葉で初めて知ったのだ。

そんな目で見られていたのか、と知ると確かに自分たちには恋人同士に見える要素が欠片も無い事にやっと気付く。

だってリアは渋々、四六時中レンが傍に居る事を受け入れているのだ。
腰や肩、手を繋ぐなどのベタベタイチャイチャとしようものなら思いっきり嫌な顔をされるだろう。
撫でられるのを嫌がるお触り厳禁な野良猫並みに。


甘い雰囲気を出したくても出せない大人の男と反抗期のような素っ気ない態度の女の子。


どこからどう見ても恋人同士の雰囲気じゃなかった!


その上、注意促す度にリアの態度が硬化している。

このままでは師弟解消の危機!

いや、恋人同士になるなど夢のまた夢。


リアにはそろそろ自覚を持ってもらわねばならない。ちょっと不安だが。


リアが自分の容姿を自覚し異性の目を気にするようになったとして、自分に目を向けてくれるならばいい。しかし、今までだったレンもに入る事が出来るのだろうか。


自分の容姿に自信があるレンでもリアの事となると自信が持てない。
だって今まで一度も甘い雰囲気になった事もなりかけた事もなかったのだから。


それでもリアが無闇矢鱈に男どもに声をかけられる事に危機感を抱いてくれるなら、そろそろリア自身が自覚して行動するよう伝えるべきだったのだ。

リアに絡んでくる男どもの中にはリアを攫って奴隷商などに売ろうと考える者も含まれている筈だ。
貴族令嬢と違って一人歩きしている見目の良い娘はいいカモだ。男どもからすれば" 攫って下さい。"と看板背負って歩いているようにしか見えないだろう。

そういう危険があると認識していないから、リアはレンから離れて行動しようと考えるのだ。


「・・・・私の容姿が目立つの?」


「そうだ。お前は十二、三歳の子どもに見えるし、ガリガリでか弱く見える。

髪色だって平民には中々ない色だ。

お前は女なんだから、男の腕力には勝てない事もー。」


レンよ!何故、" リアが美少女だから狙われやすい。"と言えないのか!


勿論、レンのこのデリカシーの無い物言いは、アメリアの心の中にある地雷をススーッと踏んでいく。


十二、三歳のこども。

ガリガリ、、、。

女だから勝てない?



前世の意識が強いアメリアから見ると、自分の容姿は年相応、いや、実年齢よりも年上に見えるとさえ思っていた。それなのに子どもに見える?

全くもって心外である。

まぁ、ガリガリに見えるのは認める。だって家を出るまでまともに食事などさせて貰えなかったのだから。

 使用人たちの食事時間になると、義母たちや使用人たちが用事を言い付けてくる。
用事を済ませて使用人用の食堂に行けば、アメリアの分の食事が残っている事など滅多に無かった。

ソフィーが他の使用人たちに隠れてアメリアの分を確保するのは難しい。コッソリと隠し持てるのは固いパンぐらいのものだった。

 冒険者になってからは普通に食べているしレンやリリーまでも、リアに" 沢山食べろ。"と言っていたので、今ではガリガリではなくガリ、ぐらいにはなったと本人では思っていたのだが。


 アメリアの髪色が目立つ、というのはよく分からない。日本では黒髪が一般的だったが、この世界の髪色はとてもカラフルだ。アメリアの髪色が目立つなど考えた事もない。
カラフルな髪色が標準のこの世界では寧ろ黒髪のレンの方が目立つ気がする。

アメリアが上目遣いでレンの髪をジッと見つめれば、普段からリアに見つめられる事が無かったレンはドキリとする。

「・・・私、弱い?」

「いや、弱い、とかそういうじゃなくて、そう見えるってだけで、、、。」

コテン、と首を傾げて聞いてくるリアの可愛らしさよ!

リアの問いかけに咄嗟に出た言葉は自分でも何とも不明瞭な言い方であった訳だが、続くリアの言葉でレンは安堵する。


「分かった。善処する。」


だが、レンはリアが、と言ったのか、聞かなかった事を直ぐに後悔する事となる。


だって、アメリアはレンの言葉の真意など全く気付かずに、と理解した。


そして冒険者の" 一人前 "とは、誰からも絡まれなくなった時なのだ、と。





そう考えてみると、アメリアもレンが何故、いつも口煩く言ってくるのかも理解出来るというものだ。

" リアがまだ一人前ではない "と思っているレンからすれば、それを理解しないで何度も絡まれているリアの態度は師匠としては見ていられなかったのだろう。

何故、まだ一人前にもなっていないのに、態々絡まれるような行動をとるのか?


レンはリアに対してそう思っていたのだろう。

『リアはまだまだ弱い。』とレンはそう思っているのだ。


それなのにレンの事を" 口煩い "と、出来れば少し離れて歩きたい、などと思っては絡まれていた自分はなんて愚かな人間だったのだろうか。


絡まれなくなった時がアメリアが強くなり一人前となった証明で、レンから独り立ちする時なのだ。


レンの思惑とは全く違っているが、コレはコレでレンには都合の良さそうな展開ではある。
だって、アメリアが絡まれない日が来るとは到底思えない。


だが、早く一人前になれるようヤル気に満ちたアメリアの行動が、翌日から更に寄って来る男どもが増える事になろうとは。

翌日、朝食を食べに出掛けた市場でとったアメリアの行動はー。


フードどころかマントまで脱ぎ捨てて、まさかの" かかってこいや!"のファイティングポーズ。

リア曰く、『フードで顔を隠しているから弱く見られていた。』、だ。

確かにフードで顔を隠している華奢なリアは強そうには見えないだろう。

だが、マントを脱げば冒険者には到底見えない華奢な美少女が現れるだけである。
その顔を見て、" 強い弱い "と考える者などいない。


それに絡まれる時はお前の顔を見られた時だろう!


心の中で叫びながらガックリと地面に膝をつくレンだった。




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ここまでお読み下さりありがとうございます。






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