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彼女と。
アメリアと王子妃教育
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アメリアが第二皇子グレンフォードの婚約者内定が公になったのは騎士団でのある出来事があってから直ぐの事。
" リアは今のままで良い。"とレンは言うのだが、そうもいかないのが現実だ。
レンはアトラータ帝国の第二皇子であり、将来は帝位継承権を放棄して臣籍降下する事が決まっている。
しかし、長兄であり皇太子であるメルヴィンの子が次代の皇太子候補と正式に認められるまでは皇子の座を降りる事が出来ない。
メルヴィンには現在二人の娘がいるのだが、頭の固い重鎮たちが女性の皇太子を認めようとしない為だとか。
その為、レンはアメリアと結婚後も第二皇子の身分のままであり、当然、その伴侶となるアメリアは第二皇子妃となる。
だから王子妃教育は必須のものであり、場合によっては王子妃として第二皇子とともに外交の場に出席しなければならない。
アメリアもそれを理解しているからこそ皇子妃教育に関して不平不満を口にする事はない。
ディバイン家を飛び出す前のあの屋敷でのアメリアに対する態度は嫌悪や蔑みなどが大半だった。
アメリアに対して好意的だったのは、アメリアの母、ソフィーにソフィーの母ぐらいのものだ。この三人以外は全てアメリアの敵だったと言ってもよい。
だが、今はどうだろうか?
虐げられる事が当たり前で時折、イラっと来たり腹の立つ事もあったがアメリアにはどうでもよい相手に対して構う気持ちもどうこう思う気持ちも無かった。
敵認定はしていようとも面倒だから言い返す事もやり返す事もしていなかった。
まぁ、アメリアのそういう態度が使用人たちもが彼女を侮る要因にもなっていた訳だったのだが。
しかし、冒険者になってからのアメリアに対する周囲の人々の反応は違った。
時々、嫌味を言ってくる者や変に絡んでくる者も居るには居たが、大抵は一人の人間として対等に扱ってくれた。
当たり前の事と言えばそれまでだが、それまでの人生がアレな人生だったのでアメリアは顔には出さずともアメリアに対する態度に戸惑いが大きかった事を今でもよく覚えている。
「アメリア様!
何を呆けていらっしゃるのですか。いくら学園に通わず学の無い人間だったとしても真剣に学ぶ姿勢は大事ですのよ?」
不意にキーキーと甲高い声で自身の名を呼ばれてアメリアは我に返る。
そうだった。今は皇子妃教育の授業の時間だった。暇になったのでついウッカリと考え事をしてしまっていた。
「はぁ、申し訳ありません。」
アメリアのなんとも気の抜けた言葉に、教師は口の端を上げ、目に嘲笑の色を浮かべてアメリアに近寄って来る。
「まぁ、アメリア様にはさぞ難しい問題だったでしょう。
ですが、せめて二桁の計算ぐらいは出来ておりますわよね?
いくら学が無くたって二桁の計算など平民の子どもでも出来ますからねぇ。」
何故、この教師は嬉しそうにしているのだろう?
思わずアメリアは首を傾げてしまう。彼女のその態度に教師は誤解する。
アメリアは二桁の計算すら自信が無いのだ、と。
「あらあらあら。皇子妃となるお方が二桁の計算すら出来ないなど、私でしたら己を恥じてグレンフォード様の婚約者の座を辞退する事でしょうね。
それでなくとも皇子妃となる者が、学園にも通っていないなどあり得ませんもの。」
教師は嬉しそうな声でアメリアの前にある裏返しに置かれた用紙を手に取った。
この教師、名をメルディーナ・ディグルスという。ディグルス侯爵家へと嫁いだ元公爵令嬢だ。元々、教師をしていた訳でもないただの侯爵夫人である。
ピアノ講師に選ばれたアーニャ・パーソン伯爵夫人同様、娘をグレンフォード第二皇子の妻に、と狙っていた一人であり、アーニャとは若かりし頃からのライバル関係でもあった。
アーニャとは皇太子妃の座を争った仲だと思っているが、それは二人の間だけの事。
実際は二人ともが性格に難があり、貴族だけに留まらず皇太子(現皇帝)にすら毛嫌いされていた事を知らないのはある意味幸せな事だ。
幸い二人の伴侶が出来た人であり、双方の子息子女たちは至極真っ当な性格で何も問題も無い上に中々に優秀な者たちである。
ただ、強烈な性格の母を持った事で婚期が遅れ気味なのが不憫ではあった。
なにかと張り合ってきた二人は互いに同い年の娘がいた事もあり、ここでも代理戦争のように己の娘を第二皇子の妃とする事に情熱を傾けてきた。双方の娘にとってはいい迷惑である。
アーニャの娘に婚約者が居なかったようにメルディーナの娘にも婚約者は居ない。
こちらもメルディーナが" グレンフォードとの婚約以外は認めぬ。"と言い続けてきたからである。
因みにメルディーナの娘も母を反面教師にして育ってきた為に超リアリストである。
そういう訳だから実はアーニャの娘パーソン伯爵令嬢とは親友の間柄であったりする。ここでも知らぬは母親たちばかりなり、だ。
そしてつい先日、パーソン伯爵令嬢は婚約した。パーソン伯爵家の家令の息子と、である。
これにはメルディーナも驚いた。" 娘は絶対に第二皇子に嫁がせる!"とメルディーナに鼻息荒く宣言していた彼女が、第二皇子でも高位貴族の子息でも無い自家の家令の息子との婚約を認めるとは!
一体、彼女に何があったのだろうか?
確かアーニャはグレンフォード様の婚約者(内定しているだけ!)の皇子妃教育の一環でピアノ講師に抜擢された筈である。
少し前の夜会で会った時に『これを機会に娘との婚約を成立させますわ。』とやはり鼻息荒くメルディーナに向かって言っていた。
その言葉に負けじと無理矢理に『私が算術の教師を!』と立候補し、こうして今この場にいる訳なのだがー。
これで私の娘が皇子妃となるのは決まりね。
心の中でニヤリと笑い、聡明でメルディーナに似て美しい次女の顔を思い浮かべる。
二十二にもなって未だに反抗期の娘は母親に対して素っ気ない態度を取り続けている。
その辺りは"『何故、こんな子に育ったのだ?』と思わないでもないが、皇子妃は毅然とした振る舞いをせねばならないのだ、と考えればこれはこれで良いのかもしれない。
娘の方はといえば、『何故、こんなのが自身の母親なのか。』という思いであり、母親の所為でまともな友人関係も築けず婚約者もいない現状を考えれば、母親に対しての態度が素っ気なくなるのも当然の事だと常々思っている。
唯一の友人であり親友とも言えるパーソン伯爵令嬢の婚約が決まったとなれば、『そろそろ私も。』と思うのも当然だ。
彼女にも実は将来を誓い合った恋人がいる。こちらは学園で知り合った子爵令息だ。
高位貴族以上でなければ貴族にあらず!
などと恥ずかしげもなく宣うメルディーナに反対される事は目に見えていた。
例え彼が学園時代に首席を取り続け、宰相補佐を任されるほどの将来有望で優秀な者であっても。
そんな訳で、他の貴族や令嬢がどう思っているかは知らないが、パーソン伯爵令嬢とディグルス侯爵令嬢にとっては、第二皇子の婚約者内定は大変に喜ばしい事だったのだ。
ディグルス侯爵令嬢と子爵令息との仲もメルディーナとアーニャ以外には社交界で広く周知されていると言っていい。
何しろディグルス侯爵も認めている仲だ。それはそうだろう。
子爵令息とはいえ、優秀で仕事も出来る彼は将来有望な若者だ。最近は一部の者に宰相の懐刀とさえ呼ばれているらしい。
何より愛しい娘の好いた相手だ。素行や人格に問題が無ければ下位貴族だって平民であっても認めるべきなのだ。
自身が政略結婚で愛そうと努力を重ね、メルディーナの尻拭いをし続けてきた侯爵は自由恋愛に夢を持っていた。
" 愛し愛される関係 "
ついぞ自分たち夫婦には築けなかった関係を娘が築いていくというのならば、大いに応援したいと思うのが親心であり、そう思ってしまうのは自然の事であった。
夫のそんな気持ちにも気付かずにメルディーナは、兎に角、これを好機と受け止めて既に彼女の中では娘が皇子妃になる事は決定事項の筈、だった。
なのに、何故?
う、嘘でしょう?
アメリアの答案用紙を見てメルディーナは絶句する。
答案用紙には全問キッチリと答えが書かれている。二桁どころか三桁は勿論の事、五桁の計算も答えが書かれていた。
数字を書くだけなら誰でも出来るわ。
メルディーナは驚いてしまった自分を恥じて心を落ち着かせると、答案用紙と解答用紙を見比べる。
はぁっ!?
全問正解?
嘘でしょう!
またもメルディーナは驚きに言葉を失くす。アメリアに与えた時間は三十分ほど。その時間では解き終えない程の問題数に五桁の計算問題もあったのだ。
学園生でもそんな短時間で解いて、しかも全問正解など上位貴族でも難しいのではないか。
だからこそのテストであったのに、この小娘がっ!どうして?
そう言えば、テスト中、メルディーナはアメリアの後方で優雅にお茶の時間を楽しんでいた。
ディグルス侯爵家も高位貴族ではあるが、やはり王宮で出される飲み物も茶菓子も一味違う一級品以上の品だ。
娘が皇子妃になったら週に一度はお茶をしに来たいわね。
出された茶菓子に満足しながら、メルディーナはそんな事を考えていた。だから小娘が何かするのを見落としていた?
忌々しい!この小娘は小賢しくも不正をしたのだろう。
メルディーナは勝手にそう結論付けるとギリリと歯噛みしてから無理やりに笑みを浮かべてアメリアに向き直った。
「アメリア様。全問正解です。とても素晴らしいですわ。
一体、算術を何処で習ったのでしょうね。
わたくし、アメリア様がお可哀想だと甘やかすところでしたわ。
このような簡単なテストなどアメリア様には不要だったのですね。
では、今度は学園の生徒と同じテストをやってみましょう。
やはり皇子妃になられるのでしたら、最低でも学園の生徒と同じ事が出来ないと示しがつきませんものね。」
メルディーナはこのテストを作るのに参考にした上級文官試験の問題用紙をスッとアメリアの前に差し出した。
上級文官の算術のテスト問題は単純な計算ばかりではない。例題文を読んで計算し答えを出すものや応用問題もある。学園の経営学科を出た者ならいざ知らず、貴族科では習わない問題も多く出ていた。
例えアメリアが少しばかり計算が得意だとしても応用問題など解ける訳がない。何より上級文官の採用試験用テスト問題を学園に通った事もない者が解ける筈がない。
メルディーナはそう思ったが念には念を入れた方が良いと思い直す。
「これは学園で行われる入学テスト問題ですの。十五歳に満たない貴族子息子女が簡単に解ける問題ばかりですわ。
まぁ、アメリア様はそういう教育を受けておりませんものね。今回は入学テストの倍の時間、三十分も差し上げますから時間内に解いて下さいませ。
最低でも五割、良くて七割ほどの点が取れれば皇子妃として及第点です。
皇子妃になろうという方がそれ以下の点しか取れない、なんて事は御座いませんでしょう?」
良し、これだけ言えば自分の不出来を恥じてグレンフォード様の婚約者の座を辞退するだろう!
今度は不正を見逃さないように真正面から身張ってやるわ!
メルディーナは目をギラつかせながらアメリアの前に座った。
アメリアは特に驚きも焦りもせずに渡された問題用紙に視線を落としペンを取る。
ジッと見つめるメルディーナの視線など気にもせず、問題を解き始めたアメリアを見ていたメルディーナは次第に顔色を悪くする。
えっ?
なんなの、この子は?
あの手つきは何なのよ!
指を使って何をしているのっ!?
アメリアの突然の意味不明な行動に気味の悪さを感じるが、メルディーナはアメリアの動き続ける右手をつい見続けてしまう。
アメリアは右手で一体、何をしているのか?
なんて事はない、算盤を弾いているのである。
慣用句ではない。" 算盤をはじいている "というそのまんまの意味である。
アメリアの前世、幼少の頃は" 読み書きそろばん "なんて言葉がよく使われていた。
初等教育で身につけさせる基礎的な能力・学力の事で、" 読み書き算 "とも言うが、計算は主に算盤で行っていた事から" 読み書きそろばん "と言われていたらしい。
アメリアの前世はガッツリと" 読み書きそろばん "世代である。
もしかしたらアネットはこの言葉すら知らないかもしれないが。
アメリアは前世で算盤塾に通わされていた時期があった。算盤はただ足したり引いたりするだけではない。掛け算、割り算も出来る。
その中で算盤では珠算式暗算というのがあるのだがちょっとコツがいる。
頭で算盤を思い浮かべて脳内で算盤を弾いて計算する。
アメリアはそう教わった。だが、そこそこ頑張ったが、脳内で算盤を弾くだけだと玉が実際の数以上に増えるというか、玉の繰り上げ繰り下げが上手く出来ない。
だからアメリアは指を実際に動かす。所謂、エアそろばんを弾いて計算をしているのだ。
これがアメリアがギリギリ出来る暗算の方法で、だが紙に書いて計算するよりはよほど早い。
前世、算盤塾に通っていた年数はそう長くはないが、家計簿は算盤を利用していたし買い物に行けば計算は指を使っていた。
それに日本の義務教育を受けていれば、応用問題を解くのにも慣れている。
幸い算術のテストは計算力と問題を正しく理解して計算し答えを導き出す事を求められて作られている。
領地経営や国政に関する専門用語などが含まれていたならば、アメリアとて言葉の意味に悩み全問正解などは出来なかっただろう。
だが、所詮は計算するだけだ。アメリアは三十分どころか残り時間を五分以上の余裕を持って終わらせた。
その間、メルディーナはアメリアの意味不明な行動に答えを見出そうと動く指先を凝視し続けていた。
人差し指をスーッと横に動かして、それから親指と人差し指で何かを弾くような動作をしながら左に動かしているような、、、。
一体あの動作には何の意味があるのだろうか?
メルディーナは自分の考えを基準に考える。
スーッと人差し指を横に動かしているのは何故?何かに見立てている?
何かって何!?
親指と人差し指で見えない何かを動かしている?いや、やはり弾いている?
弾く?
何を?
いや、違うっ!誰を、だ!
まさかっ!誰かを爪弾きにする為の算段なのか?
悪い事を考えてばかりいる人間の思考回路は全くもって分からない。だが、自分基準の考えで思いつく事はそんなモノらしい。
普通に考えれば、アメリアが制限時間のあるテストを受けている最中にそんな事を考える訳がない。
そんな余裕など無いようなテストを受けさせているメルディーナにはグダグダと考える時間が三十分もあるのだが。
第二皇子妃の婚約者(仮)を蹴落とす事しか考えていなかったメルディーナは相手も同じ思考だと思い込む。
この小娘は明らかに皇子妃教育から逸脱したテストを受けさせられて気分を害したのだ。
そして私以外にも自分を貶めようとしている人間がいる事に気付いている。
だから自分の敵か味方を思い浮かべて選別している?
そこまで考えてメルディーナは気付く。
もしかしてアーニャが娘を皇子妃にするのを諦めて家令の息子との婚約を認めたのは、この小娘に何かされたからではないだろうか、と。
でなければ、私と四半世紀以上も張り合ってきたあのアーニャがアッサリと引き下がる事などする筈がない!
だってピアノ講師をすると決まった時に、『娘を第二皇子妃にする 』とあんなに声高らかに私に宣言していたのだから。
そう言えば、ピアノ講師も一度きりで辞めて以降、社交界で彼女を見かけていない!?
その事を思い出してメルディーナはサァーッと顔色を青くする。
アーニャ!
私の心の強敵っ!
あなたに一体何が起きたの!?
この小娘に何をされたのっ?
あなた、まだ生きているの!?
アメリアにしてみれば、全くもって冤罪である。
目の前に居る算術の教師が、まさかそんな事を考えていたなどと知らないアメリアは答案用紙をスッと差し出す。
「終わりました。」
「ヒィッ!」
アメリアはただ答案用紙を差し出しただけなのに、怯えるように椅子から立ち上がったメルディーナの頭の中はこの場から逃げる事しか考えられない。
終わりました?
・・・・・・っ!
私の人生が終わった!?
ヒィィィッ!!
嫌ぁ~!!
駄目!駄目よ!この紙を受け取ってしまったら私は消されるのだわ!
どうやら長年、ライバル同士だったアーニャとメルディーナの思考はよく似ているらしい。
メルディーナは一歩、二歩と後退りアメリアから距離を取る。
「ア、アメリア様は大変優秀で、わわわ、わたくしが教える必要もありませんわ。
こここ、これにて算術の授業は終了です。
えぇ、えぇ、アメリア様素晴らしい皇子妃となりましょう!
お似合いです!グレンフォード様の隣に立つ妃はアメリア様しかおりません。
絶対です。本当です。それしか考えられません。
ですからお、お許しを~。」
最後まで言い切る前に淑女らしからぬ動きで慌てて部屋を出て行く、エルディーナにアメリアは唖然茫然である。
「・・・・・答え合わせは?」
こうしてアメリアの皇子妃教育はまたしても一度きりで終了したのだった。
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
" リアは今のままで良い。"とレンは言うのだが、そうもいかないのが現実だ。
レンはアトラータ帝国の第二皇子であり、将来は帝位継承権を放棄して臣籍降下する事が決まっている。
しかし、長兄であり皇太子であるメルヴィンの子が次代の皇太子候補と正式に認められるまでは皇子の座を降りる事が出来ない。
メルヴィンには現在二人の娘がいるのだが、頭の固い重鎮たちが女性の皇太子を認めようとしない為だとか。
その為、レンはアメリアと結婚後も第二皇子の身分のままであり、当然、その伴侶となるアメリアは第二皇子妃となる。
だから王子妃教育は必須のものであり、場合によっては王子妃として第二皇子とともに外交の場に出席しなければならない。
アメリアもそれを理解しているからこそ皇子妃教育に関して不平不満を口にする事はない。
ディバイン家を飛び出す前のあの屋敷でのアメリアに対する態度は嫌悪や蔑みなどが大半だった。
アメリアに対して好意的だったのは、アメリアの母、ソフィーにソフィーの母ぐらいのものだ。この三人以外は全てアメリアの敵だったと言ってもよい。
だが、今はどうだろうか?
虐げられる事が当たり前で時折、イラっと来たり腹の立つ事もあったがアメリアにはどうでもよい相手に対して構う気持ちもどうこう思う気持ちも無かった。
敵認定はしていようとも面倒だから言い返す事もやり返す事もしていなかった。
まぁ、アメリアのそういう態度が使用人たちもが彼女を侮る要因にもなっていた訳だったのだが。
しかし、冒険者になってからのアメリアに対する周囲の人々の反応は違った。
時々、嫌味を言ってくる者や変に絡んでくる者も居るには居たが、大抵は一人の人間として対等に扱ってくれた。
当たり前の事と言えばそれまでだが、それまでの人生がアレな人生だったのでアメリアは顔には出さずともアメリアに対する態度に戸惑いが大きかった事を今でもよく覚えている。
「アメリア様!
何を呆けていらっしゃるのですか。いくら学園に通わず学の無い人間だったとしても真剣に学ぶ姿勢は大事ですのよ?」
不意にキーキーと甲高い声で自身の名を呼ばれてアメリアは我に返る。
そうだった。今は皇子妃教育の授業の時間だった。暇になったのでついウッカリと考え事をしてしまっていた。
「はぁ、申し訳ありません。」
アメリアのなんとも気の抜けた言葉に、教師は口の端を上げ、目に嘲笑の色を浮かべてアメリアに近寄って来る。
「まぁ、アメリア様にはさぞ難しい問題だったでしょう。
ですが、せめて二桁の計算ぐらいは出来ておりますわよね?
いくら学が無くたって二桁の計算など平民の子どもでも出来ますからねぇ。」
何故、この教師は嬉しそうにしているのだろう?
思わずアメリアは首を傾げてしまう。彼女のその態度に教師は誤解する。
アメリアは二桁の計算すら自信が無いのだ、と。
「あらあらあら。皇子妃となるお方が二桁の計算すら出来ないなど、私でしたら己を恥じてグレンフォード様の婚約者の座を辞退する事でしょうね。
それでなくとも皇子妃となる者が、学園にも通っていないなどあり得ませんもの。」
教師は嬉しそうな声でアメリアの前にある裏返しに置かれた用紙を手に取った。
この教師、名をメルディーナ・ディグルスという。ディグルス侯爵家へと嫁いだ元公爵令嬢だ。元々、教師をしていた訳でもないただの侯爵夫人である。
ピアノ講師に選ばれたアーニャ・パーソン伯爵夫人同様、娘をグレンフォード第二皇子の妻に、と狙っていた一人であり、アーニャとは若かりし頃からのライバル関係でもあった。
アーニャとは皇太子妃の座を争った仲だと思っているが、それは二人の間だけの事。
実際は二人ともが性格に難があり、貴族だけに留まらず皇太子(現皇帝)にすら毛嫌いされていた事を知らないのはある意味幸せな事だ。
幸い二人の伴侶が出来た人であり、双方の子息子女たちは至極真っ当な性格で何も問題も無い上に中々に優秀な者たちである。
ただ、強烈な性格の母を持った事で婚期が遅れ気味なのが不憫ではあった。
なにかと張り合ってきた二人は互いに同い年の娘がいた事もあり、ここでも代理戦争のように己の娘を第二皇子の妃とする事に情熱を傾けてきた。双方の娘にとってはいい迷惑である。
アーニャの娘に婚約者が居なかったようにメルディーナの娘にも婚約者は居ない。
こちらもメルディーナが" グレンフォードとの婚約以外は認めぬ。"と言い続けてきたからである。
因みにメルディーナの娘も母を反面教師にして育ってきた為に超リアリストである。
そういう訳だから実はアーニャの娘パーソン伯爵令嬢とは親友の間柄であったりする。ここでも知らぬは母親たちばかりなり、だ。
そしてつい先日、パーソン伯爵令嬢は婚約した。パーソン伯爵家の家令の息子と、である。
これにはメルディーナも驚いた。" 娘は絶対に第二皇子に嫁がせる!"とメルディーナに鼻息荒く宣言していた彼女が、第二皇子でも高位貴族の子息でも無い自家の家令の息子との婚約を認めるとは!
一体、彼女に何があったのだろうか?
確かアーニャはグレンフォード様の婚約者(内定しているだけ!)の皇子妃教育の一環でピアノ講師に抜擢された筈である。
少し前の夜会で会った時に『これを機会に娘との婚約を成立させますわ。』とやはり鼻息荒くメルディーナに向かって言っていた。
その言葉に負けじと無理矢理に『私が算術の教師を!』と立候補し、こうして今この場にいる訳なのだがー。
これで私の娘が皇子妃となるのは決まりね。
心の中でニヤリと笑い、聡明でメルディーナに似て美しい次女の顔を思い浮かべる。
二十二にもなって未だに反抗期の娘は母親に対して素っ気ない態度を取り続けている。
その辺りは"『何故、こんな子に育ったのだ?』と思わないでもないが、皇子妃は毅然とした振る舞いをせねばならないのだ、と考えればこれはこれで良いのかもしれない。
娘の方はといえば、『何故、こんなのが自身の母親なのか。』という思いであり、母親の所為でまともな友人関係も築けず婚約者もいない現状を考えれば、母親に対しての態度が素っ気なくなるのも当然の事だと常々思っている。
唯一の友人であり親友とも言えるパーソン伯爵令嬢の婚約が決まったとなれば、『そろそろ私も。』と思うのも当然だ。
彼女にも実は将来を誓い合った恋人がいる。こちらは学園で知り合った子爵令息だ。
高位貴族以上でなければ貴族にあらず!
などと恥ずかしげもなく宣うメルディーナに反対される事は目に見えていた。
例え彼が学園時代に首席を取り続け、宰相補佐を任されるほどの将来有望で優秀な者であっても。
そんな訳で、他の貴族や令嬢がどう思っているかは知らないが、パーソン伯爵令嬢とディグルス侯爵令嬢にとっては、第二皇子の婚約者内定は大変に喜ばしい事だったのだ。
ディグルス侯爵令嬢と子爵令息との仲もメルディーナとアーニャ以外には社交界で広く周知されていると言っていい。
何しろディグルス侯爵も認めている仲だ。それはそうだろう。
子爵令息とはいえ、優秀で仕事も出来る彼は将来有望な若者だ。最近は一部の者に宰相の懐刀とさえ呼ばれているらしい。
何より愛しい娘の好いた相手だ。素行や人格に問題が無ければ下位貴族だって平民であっても認めるべきなのだ。
自身が政略結婚で愛そうと努力を重ね、メルディーナの尻拭いをし続けてきた侯爵は自由恋愛に夢を持っていた。
" 愛し愛される関係 "
ついぞ自分たち夫婦には築けなかった関係を娘が築いていくというのならば、大いに応援したいと思うのが親心であり、そう思ってしまうのは自然の事であった。
夫のそんな気持ちにも気付かずにメルディーナは、兎に角、これを好機と受け止めて既に彼女の中では娘が皇子妃になる事は決定事項の筈、だった。
なのに、何故?
う、嘘でしょう?
アメリアの答案用紙を見てメルディーナは絶句する。
答案用紙には全問キッチリと答えが書かれている。二桁どころか三桁は勿論の事、五桁の計算も答えが書かれていた。
数字を書くだけなら誰でも出来るわ。
メルディーナは驚いてしまった自分を恥じて心を落ち着かせると、答案用紙と解答用紙を見比べる。
はぁっ!?
全問正解?
嘘でしょう!
またもメルディーナは驚きに言葉を失くす。アメリアに与えた時間は三十分ほど。その時間では解き終えない程の問題数に五桁の計算問題もあったのだ。
学園生でもそんな短時間で解いて、しかも全問正解など上位貴族でも難しいのではないか。
だからこそのテストであったのに、この小娘がっ!どうして?
そう言えば、テスト中、メルディーナはアメリアの後方で優雅にお茶の時間を楽しんでいた。
ディグルス侯爵家も高位貴族ではあるが、やはり王宮で出される飲み物も茶菓子も一味違う一級品以上の品だ。
娘が皇子妃になったら週に一度はお茶をしに来たいわね。
出された茶菓子に満足しながら、メルディーナはそんな事を考えていた。だから小娘が何かするのを見落としていた?
忌々しい!この小娘は小賢しくも不正をしたのだろう。
メルディーナは勝手にそう結論付けるとギリリと歯噛みしてから無理やりに笑みを浮かべてアメリアに向き直った。
「アメリア様。全問正解です。とても素晴らしいですわ。
一体、算術を何処で習ったのでしょうね。
わたくし、アメリア様がお可哀想だと甘やかすところでしたわ。
このような簡単なテストなどアメリア様には不要だったのですね。
では、今度は学園の生徒と同じテストをやってみましょう。
やはり皇子妃になられるのでしたら、最低でも学園の生徒と同じ事が出来ないと示しがつきませんものね。」
メルディーナはこのテストを作るのに参考にした上級文官試験の問題用紙をスッとアメリアの前に差し出した。
上級文官の算術のテスト問題は単純な計算ばかりではない。例題文を読んで計算し答えを出すものや応用問題もある。学園の経営学科を出た者ならいざ知らず、貴族科では習わない問題も多く出ていた。
例えアメリアが少しばかり計算が得意だとしても応用問題など解ける訳がない。何より上級文官の採用試験用テスト問題を学園に通った事もない者が解ける筈がない。
メルディーナはそう思ったが念には念を入れた方が良いと思い直す。
「これは学園で行われる入学テスト問題ですの。十五歳に満たない貴族子息子女が簡単に解ける問題ばかりですわ。
まぁ、アメリア様はそういう教育を受けておりませんものね。今回は入学テストの倍の時間、三十分も差し上げますから時間内に解いて下さいませ。
最低でも五割、良くて七割ほどの点が取れれば皇子妃として及第点です。
皇子妃になろうという方がそれ以下の点しか取れない、なんて事は御座いませんでしょう?」
良し、これだけ言えば自分の不出来を恥じてグレンフォード様の婚約者の座を辞退するだろう!
今度は不正を見逃さないように真正面から身張ってやるわ!
メルディーナは目をギラつかせながらアメリアの前に座った。
アメリアは特に驚きも焦りもせずに渡された問題用紙に視線を落としペンを取る。
ジッと見つめるメルディーナの視線など気にもせず、問題を解き始めたアメリアを見ていたメルディーナは次第に顔色を悪くする。
えっ?
なんなの、この子は?
あの手つきは何なのよ!
指を使って何をしているのっ!?
アメリアの突然の意味不明な行動に気味の悪さを感じるが、メルディーナはアメリアの動き続ける右手をつい見続けてしまう。
アメリアは右手で一体、何をしているのか?
なんて事はない、算盤を弾いているのである。
慣用句ではない。" 算盤をはじいている "というそのまんまの意味である。
アメリアの前世、幼少の頃は" 読み書きそろばん "なんて言葉がよく使われていた。
初等教育で身につけさせる基礎的な能力・学力の事で、" 読み書き算 "とも言うが、計算は主に算盤で行っていた事から" 読み書きそろばん "と言われていたらしい。
アメリアの前世はガッツリと" 読み書きそろばん "世代である。
もしかしたらアネットはこの言葉すら知らないかもしれないが。
アメリアは前世で算盤塾に通わされていた時期があった。算盤はただ足したり引いたりするだけではない。掛け算、割り算も出来る。
その中で算盤では珠算式暗算というのがあるのだがちょっとコツがいる。
頭で算盤を思い浮かべて脳内で算盤を弾いて計算する。
アメリアはそう教わった。だが、そこそこ頑張ったが、脳内で算盤を弾くだけだと玉が実際の数以上に増えるというか、玉の繰り上げ繰り下げが上手く出来ない。
だからアメリアは指を実際に動かす。所謂、エアそろばんを弾いて計算をしているのだ。
これがアメリアがギリギリ出来る暗算の方法で、だが紙に書いて計算するよりはよほど早い。
前世、算盤塾に通っていた年数はそう長くはないが、家計簿は算盤を利用していたし買い物に行けば計算は指を使っていた。
それに日本の義務教育を受けていれば、応用問題を解くのにも慣れている。
幸い算術のテストは計算力と問題を正しく理解して計算し答えを導き出す事を求められて作られている。
領地経営や国政に関する専門用語などが含まれていたならば、アメリアとて言葉の意味に悩み全問正解などは出来なかっただろう。
だが、所詮は計算するだけだ。アメリアは三十分どころか残り時間を五分以上の余裕を持って終わらせた。
その間、メルディーナはアメリアの意味不明な行動に答えを見出そうと動く指先を凝視し続けていた。
人差し指をスーッと横に動かして、それから親指と人差し指で何かを弾くような動作をしながら左に動かしているような、、、。
一体あの動作には何の意味があるのだろうか?
メルディーナは自分の考えを基準に考える。
スーッと人差し指を横に動かしているのは何故?何かに見立てている?
何かって何!?
親指と人差し指で見えない何かを動かしている?いや、やはり弾いている?
弾く?
何を?
いや、違うっ!誰を、だ!
まさかっ!誰かを爪弾きにする為の算段なのか?
悪い事を考えてばかりいる人間の思考回路は全くもって分からない。だが、自分基準の考えで思いつく事はそんなモノらしい。
普通に考えれば、アメリアが制限時間のあるテストを受けている最中にそんな事を考える訳がない。
そんな余裕など無いようなテストを受けさせているメルディーナにはグダグダと考える時間が三十分もあるのだが。
第二皇子妃の婚約者(仮)を蹴落とす事しか考えていなかったメルディーナは相手も同じ思考だと思い込む。
この小娘は明らかに皇子妃教育から逸脱したテストを受けさせられて気分を害したのだ。
そして私以外にも自分を貶めようとしている人間がいる事に気付いている。
だから自分の敵か味方を思い浮かべて選別している?
そこまで考えてメルディーナは気付く。
もしかしてアーニャが娘を皇子妃にするのを諦めて家令の息子との婚約を認めたのは、この小娘に何かされたからではないだろうか、と。
でなければ、私と四半世紀以上も張り合ってきたあのアーニャがアッサリと引き下がる事などする筈がない!
だってピアノ講師をすると決まった時に、『娘を第二皇子妃にする 』とあんなに声高らかに私に宣言していたのだから。
そう言えば、ピアノ講師も一度きりで辞めて以降、社交界で彼女を見かけていない!?
その事を思い出してメルディーナはサァーッと顔色を青くする。
アーニャ!
私の心の強敵っ!
あなたに一体何が起きたの!?
この小娘に何をされたのっ?
あなた、まだ生きているの!?
アメリアにしてみれば、全くもって冤罪である。
目の前に居る算術の教師が、まさかそんな事を考えていたなどと知らないアメリアは答案用紙をスッと差し出す。
「終わりました。」
「ヒィッ!」
アメリアはただ答案用紙を差し出しただけなのに、怯えるように椅子から立ち上がったメルディーナの頭の中はこの場から逃げる事しか考えられない。
終わりました?
・・・・・・っ!
私の人生が終わった!?
ヒィィィッ!!
嫌ぁ~!!
駄目!駄目よ!この紙を受け取ってしまったら私は消されるのだわ!
どうやら長年、ライバル同士だったアーニャとメルディーナの思考はよく似ているらしい。
メルディーナは一歩、二歩と後退りアメリアから距離を取る。
「ア、アメリア様は大変優秀で、わわわ、わたくしが教える必要もありませんわ。
こここ、これにて算術の授業は終了です。
えぇ、えぇ、アメリア様素晴らしい皇子妃となりましょう!
お似合いです!グレンフォード様の隣に立つ妃はアメリア様しかおりません。
絶対です。本当です。それしか考えられません。
ですからお、お許しを~。」
最後まで言い切る前に淑女らしからぬ動きで慌てて部屋を出て行く、エルディーナにアメリアは唖然茫然である。
「・・・・・答え合わせは?」
こうしてアメリアの皇子妃教育はまたしても一度きりで終了したのだった。
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