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ハドソン領 領都

領都脱出

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「ごめんね、ティアナ。まだ話せていない事もあるけれど、私の一存だけでは話せない。いずれ話せる日が来る筈だ。それまで待っていて欲しい。」

チャールズ様の執務室を出る時、そう言われたけれど意味不明過ぎて首を傾げてしまった。

 チャールズ様の考えだけでは話せないけど、その内誰かからが降りて話せるって事?
何だか怖いんですけど!

「ハハハ、大丈夫だよ。君にとっては大事な事だとは思うけれど、悪い話ではないからさ。」


それ、フォローになってないヤツじゃない?私にとっては大事な事って、一体何なの~!?

 余計に不安を煽る言葉でしかなかったのに、チャールズ様はそれ以上は話す気はないようだった。

 非常にモヤモヤとした気持ちのまま用意されている馬車向かうと、そこには微妙な表情を浮かべたバーナード様と笑顔のアリサ様が居た。

「ティアナさん!沢山のアイスクリームをありがとう!!」

見送る為に待っていてくれたのかと思ったら、まさかのアイスのお礼!

 アリサ様もちょっと変わっているというか、ちゃんと貴族令嬢としての教育を受けているんだよね?
なんていうか、彼女は社交界で高位貴族の令嬢としてやっていけてるのか?、と他人事とはいえ、心配になってくるんだけど。


「いえ、お役に立てて良かったです。ですが、くれぐれも私の事は内密にお願いします。」


 王女様の『ワタクシ、アイスクリームが食べたいわ。』の希望を叶える為に、アイスクリームはハドソン伯爵家の門外不出扱いだった、という事にして、アイスクリームのレシピを譲り渡した事を一番喜んでいたのはアリサ様のような気がする。

 レシピ売却は勿論、新たにハドソン邸で雇用したスイーツ担当の料理人に作り方を伝授するだけでなく、空いた時間にアイスを作りまくって納品した。それを知ったアリサ様は大喜びだったらしい。


「勿論!ティアナさんの事は誓約書に署名をしていますもの!守秘義務は守り通してみせますわっ!」


 アリサ様は胸の辺りを右手でポンッと叩いて言っているけれど、何となく不安なんだよねぇ。
 私自身の事は誓約で話す事は出来なくても、ポロッと口を滑らせてヒントを与えるような事を言ってしまいそうな雰囲気があるんだよね、彼女は。
大体、王女様の耳にアイスの話が入ってしまった原因は彼女だし。


「ハハハ。宜しくお願いします。お菓子のレシピを登録した時は手紙で知らせますので、料理人に作って貰って下さいね。」

「本当ですのっ!?是非っ、連絡を下さいましね!」

 やっぱり女性は甘い物に目がないよねぇ。スイーツ担当の料理人さんには、食後のデザートとしてアイスを出す時の盛り付けを幾つか教えておいた。パフェ風のアレンジも教えてあるので、それを目にしたアリサ様が興奮する姿が容易に想像出来るよ。

「んんっ。ティアナ嬢。少し良いだろうか?」

 アリサ様の横に黙って立っていたバーナード様が痺れを切らしたのか、声を掛けてきた。

「そのっ、君は若いのにとても優秀で才能がある。」

へっ?

バーナード様、急にどうしたの!?

性格的に私とは全く合わないバーナード様のいきなりの褒め言葉に、たぶん私は変な顔になってるんじゃないかな?
隣にいるクリスが笑いを堪えている気配を感じる。

「色々と誤解があって、君に対して酷い態度を取ってしまったのは、私の不徳の致すところだ。申し訳なかった。」


 私が呆気に取られている事に気付いているのか、それとも謝罪する事に頭が一杯になっていて気付いていないのか。
バーナード様は早口気味になりながらも、スッと頭を下げて私に謝罪した。

マジか!伯爵家当主に続いて次期当主に謝罪を受けてしまった。

「バーナード様。謝罪を受け取りますっ。ですから頭をお上げください。」

 チャールズ様は人の目の無い室内での謝罪だったけれど、多くはないとはいえ、他の人の目のある場所で貴族が平民に頭を下げるなんて不味いんじゃないの?

「許してくれるのか?君は本当に心が広いな。」

いや、ここで許さない態度も出来ないでしょうよ!私、平民だからね?

私の様子に気付かないバーナード様は一人で納得してウンウンと頷いている。

「そうだな、そうだよな。君は全てを家族に奪われても、ボロボロの屋台一つで追い出されても、頑張って商会を立ち上げた頑張り屋なんだものな。

『先ずは屋台から始めたらどうだ?』などと嫌味を言った自分が恥ずかしいよ。」


・・・・頑張り屋。

いや、そういうのじゃなくて、、、、って!


何で屋台の事をっ!?


「ブハッ!!」


隣で吹き出したクリスをギッと睨むも、爆笑しながら器用に首を横に振っている。


クリスじゃない?じゃ、誰が?

首を傾げているとカーターさんと目が合った直後に逸された。犯人はコイツかっ!


なんかもう、バーナード様の表情を見ていると、私に関して何かのストーリーが出来上がっている気がする。不憫系の。

「いえ、屋台の事はもう、何とも思っていませんので。」


それ以上は言わないで欲しい。


「いや、そういう訳にはいかない。ボロボロの屋台一つで追い出された君は心に深い傷を負った筈だ。それなのに私は追い込むような事を口にしたのだ。傷つける意図はなくとも、嫌味として言ったのだから。」

もう屋台の話はいい、って言っているのに。

 最後までバーナード様とは上手くコミュニケーションが取れない。
取れないけれど、きっと本人は大真面目なんだろうなぁ。相手の様子に気付く余裕もなく、心から気に病んでいたんだろうね。自分の過去の失態を。


でも、ボロ屋台の話はもういいから!!


「バーナード様。本当に私はもう気にしていません。それよりもハドソン領と伯爵家とはこれからも仕事上のお付き合いがありますよね。
今後も良き仕事相手として宜しくお願いします。」

「あっ、あぁ。こちらこそこそ宜しく頼む。」

これ以上のボロ屋台の話は不要、の意味も込めてニッコリ笑って言う。バーナード様は私に気圧されて、それ以上は言わずに私の差し出した手を取り握手に応じた。


「そうだね。これからもハドソン領と伯爵家はエトリナ商会との取引をする事がある。いや、むしろ増えていくだろう。
街道沿いの件が終了しても、仕事でも仕事以外でも関係なく、定期的に連絡を取り合っていこうじゃないか。

アシュトン、アターミまでの同行を宜しく頼むぞ。

ティアナ、また会える日を楽しみにしている。それでは道中、気を付けて行っておいで。」


 グダグダになりかけてた別れの挨拶?も、最後はチャールズ様がまとめてくれて、私とクリスは領都を脱出出立したのだった。

馬車が動き出した直後、隣に座るクリスに無言で頭をグシャッとされた。

だから何で!?


ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。


「ハドソン領(領都)編」はここで終了です。次回から「花街道(仮)編」に入ります。
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