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ハドソン領 領都

雇いたい理由

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「手っ取り早い、、、、。」


ウィリアムさんが困惑しながらも少しだけ眉間に皺を寄せたのは私の言葉に悪い方に反応したって事かな。
もしその通りならウィリアムさんは良い人なのかも。


「私はまだ商会の拠点を持っていません。当分の間は旅をしながら私が登録している料理を屋台で販売しながら広めていきたいと思っています。

 まだ商会を立ち上げて日も浅く屋台販売も二カ所でしか行っていません。有難い事に沢山のお客さんに食べて頂いていますが、どちらもお手伝いしてくれる人たちがいました。

けれどいつも手伝ってくれる知人友人が出来るとは限りません。そこで今回、屋台販売をする間だけ人を雇う事を考えました。」


さっきの説明と被るけれど、始めから説明した方がいいよね。

イケアとニトではラッキーな事に屋台を手伝ってくれる人がいた。働いた分だけちゃんとお金を支払って、それを無意識に当たり前みたく思っていた。


だけどダンジョンに行った時に、冒険者に拝み倒されて頼まれた分を料理を作ってお金を貰って、と一人でやってみて大変だった。
屋台販売の時よりも作る量もやり取りも少ないのに慌ただしくて精神的疲労感が凄かった。


今後はクリスにお願いしようかとも思ったんだけれど、ホラ、私、誘拐されちゃったりしたじゃない?

どうやらそれを結構気にしているみたいなんだよね、クリスが。


あの時はロイドさんに頼まれて別行動してたんだから仕方がない、と言ったけれど本人的にはそれでも自分の落ち度みたいに感じているらしいの。

商品とお金の受け渡しだけなら問題無さそうとも思ったけど、一度、ニトでお願いした時にお客の女性たちに囲まれちゃってねぇ。
私の護衛をするのには邪魔なんだってさ。異性に囲まれるのをなんて言える人はそういないよね。羨ましい限りだよ。


結局、従業員として契約していてもメインは護衛、という感じで、料理の下準備や屋台の裏での作業はするけれど、なるべく表には出ないようにするという話で纏まった。


まぁ、私が販売する料理がどこでも食べられるようになったら行列も無くなるのかなぁ。


「お願いしたい仕事内容を考えると子どもでも出来るだろうな、と思った時に、知人友人の居ない場所で子どもを雇うなら子どもが確実に居る孤児院がいいと思いました。

ギルドで依頼を受けてくれる子どもをじっと待つよりもどこの町にも大抵ある孤児院に話をつけに行った方が早いでしょう?」


昨日、ギルドで聞いた話では商業ギルドに仕事を探しに来る子どもって少ないんだって。
子どもでも出来そうな仕事でも早い者勝ちらしいからね。賃金が安くても楽な仕事なら大人だってやりたい人がそれなりにいるらしい。
子持ちの主婦や本業の片手間にやりたい人もいそうだからねぇ。

「そういう考えは分かりますが、例え簡単な仕事でも計算が出来なければ雇っても意味が無いのでは?

こう言ってはなんですが、孤児院の子どもは読み書き、計算が出来ない子は多いですよ。」

うん、知ってる。ニトでケイト様たちに孤児院の話を聞いているからね。
ニトの孤児院は運営側にも問題があったから余計にそうだったけれど、孤児院て運営費や職員不足なんかの問題は割とあるんだって。
その影響はそのまま子どもたちが受ける。食事や教育の問題、それに孤児院を出た後の就職先などずっと影響し続けるのだ。


 孤児院の運営は公共と個人の二つに分けられるらしい。
公共は国、領主、教会などが運営しているものをいう。貴族は貴族の義務ノブレス・オブリージュの考えのもと、貴族の奥方が主体となって寄付を募ったりバザーみたいなのを行っている事が多い。


だけど税収の少ない領や孤児院に援助する余裕が無い場合は孤児院に全て丸投げ、という形だけの運営も少なくないらしい。
ニトの場合は形だけの上、少ない予算も横領されていた、という子どもたちにとっては最悪な環境だった。

予定は未定ではあるけれど、ケイト様たちの商会が上手く軌道に乗ったらダイアナ商会で孤児院の運営を始める計画もあるらしい。


そういうのが頭にあったから雇うなら孤児院の子どもを、と思ってしまったのもあるんだよね。


「確かにそういう事はありますよね。
でも出来なかったとしてもニ、三日もあれば、年長の子どもたちであれば簡単な計算なら出来るようになると思います。
それぐらいなら私でも教える事が出来ますし。」


「・・・・・雇用というよりはという事なんですね。

けれど貴女は旅を続けるのでしょう?

持続不可能な事を中途半端に手を出すのは子どもたちの為にもならないと思いますがね。」


さっきのの言葉でウィリアムさんの不興を買っちゃったかなぁ。
にこやかな表情で『中途半端に手出しするんじゃねぇ!』とパシッと拒絶されたよね、これ。


 そう思われる言い方をしてしまったとは自分でも思うけれど、私はここの商業ギルドには身元の保証をお願いしているだけなんだよね。
だからそれ以降の話は孤児院と話し合えば良い。運営者の為人ひととなり次第で話す内容も違ってくると思っている。


「う~ん。慈善事業というよりは青田刈りとか販促活動がしたい、みたいな、、、?」


「アオタガリ?ハンソクカツドウ、、、?」


「えぇ、孤児院との話し合いにもよりますけれど、将来の有望な人材の育成とエトリナ商会が登録した料理レシピの宣伝を担って貰えたらいいな、という思いっきりウチの商会の為の行動ですよ。

ウチの商会に優秀な人にたくさん入って貰いたいですから!」


「プハッ。」


クリスが隣で吹き出しているんだけれど今は仕事中だから!
ちょっとドヤった言い方になったかな、とは自分でも思った。でも吹き出さなくても良くない?

専属侍従をやっていた時はどんだけ猫を被ってたのよ、ってぐらい今のクリスはよく笑うんだよね。
まぁ、笑うというよりかは私が笑われてるだけな気もするんだけれど。


「・・・・・・・ふっ、、、、ふはははっ!」


っ!?


クリスだけじゃない!?


何故かウィリアムさんまで爆笑し始めたんだけど?



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