美化係の聖女様

しずもり

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ラナダの町

町の名は

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 アオの案内で森の中を抜け、クインズの町に着いた、筈なんだけれど、、、は一体、、、。


森を抜けた少し先に、町らしき場所が見えてアオと早足で向かった。

今日は宿で眠れるぅ~。


なんて浮かれて、足を踏み入れた町は、、、とっても殺伐とした雰囲気の町だった。

いや、それでも良いんだけどね?

だけど、問題はそこじゃない。

昔の西部劇のシーンといったら、誰も外に居ない閑散とした雰囲気の中、枯れ草みたいな丸いモノが風に吹かれてコロコロと転がっているイメージがあるでしょう?

人は居る。

割と居る。

だけど、何でかキツイ口調で何かを言い合っていて、その足下をコロコロと、本当によく分からないけれども、、、。

丸くて真っ黒いモヤが、風に吹かれてコロコロと転がっている。


いや、何で!?

今まで見た黒いモヤはフヨフヨと浮いていたよね?

何で浮いていないの?

あ、浮いているのもあるか。

黒いモヤって浮いたり転がったりするもんなの!?



数分後、異様な光景にパニクる私の目の前で疑問は解消された。


フヨフヨと漂っていた黒いモヤは、同じく漂っていた黒いモヤにぶつかり合体を繰り返し、色を濃くしていった。
そしてポトリ、と地面に落ちて、風に吹かれるとコロコロと転がっていく。
黒いモヤが転がっていくのを目で追えば、人や物などのに当たった瞬間にブワッと四方八方に飛び散って、またフヨフヨと空中を漂い始めた。そして、、、。

「・・・延々と繰り返されてるんだ」

黒いモヤって、埃とまんま同じじゃない?


そう思ったら唐突に大学生時代の、一人暮らしをしていた友人の話を思い出した。

その友人は毎日、掃除をするのが好きではなかった。掃除をしなければ埃が溜まってくるのは当然のことで、埃も床に溜まってくると綿のようになる。

そう!綿埃ってやつだ。

それを手でコロコロと部屋の隅に転がして綿埃同士を合体させる。そうして巨大化した綿埃を摘んでゴミ箱へ捨てたら、部屋の掃除完了!

友人はそう言っていた。『簡単に部屋の掃除が出来るからお勧めだよ』とも言っていたっけ。

色々ツッコミどころはあれど、人の考え方はそれぞれ違うのと同じ様に、掃除の仕方もまた人によって違うのだろう。


私が何か言うことにより友人関係が壊れるのを惜しむ程にはその友人は良い人だった。
私の周囲には私から搾取する人ばかりの中で、その友人は搾取することなく接してくれる人だった。

だから私は、友人の家には決して行かないと決めた。私は潔癖症ではないけれど、訪問してしまえば、掃除をせずにはいられなかっただろうから。
友人の部屋に行くなり『ちょっと掃除させて』なんて言う人間に良い印象を持つ人って中々居ないでしょう?


だ、け、ど!

黒いモヤは他の人には見えていないし?

見えていても、勝手に消滅させても気分を害する人なんていないよね?

じゃあ、そういうことで!


綺麗になぁれ!

綺麗になぁれ!!


大事なことなので、二度、心の中で念じて、、、いや、叫んでみた。叫ばずにはいられんし光景だったからね。

すると存在を主張する様に町のあちこちに浮いていたり、転がっていた黒いモヤはブルブルッと揺れたと思うと次の瞬間にシュッと消えた。

キャウゥゥン!

私の足下でアオが自分の尻尾を追いかけるかのようにグルグルと回り始めた。

よく分からないけど、はしゃいでいるようにも見えるから喜んでいる、のかな?

アオが回っているのを暫く様子を見ていたら、その内に気が済んだのか、ピタリと止まってお座りをすると、『ハッハッハッ』と舌を出して私を見上げてきた。

頭をグリグリと撫でると一瞬嬉しそうに目を細めていたけれど、次の瞬間にスンて表情になる。そうして私の魔法鞄ポシェットをジィーッと見つめて尻尾をパタパタとさせている。


「ん~?もしかして、何かをおねだりしているとか?」

アオの前でしゃがんで目線を近づけてみれば、なんとなく目がキラキラしていて、試しに言ってみたらその場で跳ね出した。

正確、なのかなぁ。

でも、おねだりって何の?

跳ねるのを止めて、また私の前でお座りをして尻尾をパタパタするアオが舌を出しながら涎まで垂らし始めている。

朝、あれだけ食べたのに、もうお腹が空いたとか燃費悪すぎない?と思ったけれど、それにしては目がキラッキラしていて、お腹が空いただけとも思えない。


「・・・・もしかして、町まで案内したから褒めて~、ということ?」

独り言のように呟けば、キャンキャンと嬉しそうに鳴くので正解だったらしい。

「オイッ!うるせーぞ!

飼い主ならしっかり躾しろっ!」

いきなり近くを歩いていた男性に怒鳴られた。

怖っ。

アオは仔犬だからそんなに大きな鳴き声でもなかったんだけどなぁ。

でもめちゃめちゃ神経質そうな顔をしているから、動物の鳴き声自体が気に障る人なのかもしれない。

「あ、済みませんでした。これからは気をつけます。

ところでここはクインズの町ですよね?この辺りにペット可の宿屋はありますか?」

飼い主歴一日なので、どう気をつければよいのかは不明だけれど、謝りついでにこの町のことを聞こうと宿屋を聞いたらば ー。

「はぁ~?アンタ、何言ってんだ?随分と笑えねぇ冗談を言うじゃねぇか。

何処がクインズの町だって?」

「え?まさか、この町は、、、クインズ、じゃない?」


「あったりめぇだ!

此処はラナダだ!あんなスカした町と一緒にすんな。冷やかしならとっとと帰んな!」


え、ラナダ?

クインズではない、と。


・・・・・。


・・・・・・。


えぇ~!!



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ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」及びエールでの応援もありがとうございます。
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